「では時間も時間だ、これより……英雄・武器軍対『教会』軍……対戦一日目を執り行おう。私の『予測』だと……多分今日でケリがつくね」
渋谷の中心にワープし降り立ったのは、今まで上で様々業務を行っていた信一郎。各方面に対し、自身のデバイスを用いて東京二十三区全域にホログラムを映し出すのだった。
『試合開始まで、残すところあと二分とちょっと。それまでに……多くのドラマがあったね』
英雄側のフェイクニュースやその他要因による大量の裏切り、『教会』側の内部分裂、そして大将首の名義が別人物に挿げ替わり。とても一晩の間に起こった事とは思えない。
それらの根底にあったのは、全て『嫉妬心』によるもの。信之自身に与えられた七つの大罪の異名は『エンヴィー』。そんな彼が、多くの人を直接的、間接的関係なしに汚染していった結果、場がどんどん混乱していったのだ。
『正直、我らからしたらルールのほぼが適応外とされている暗黙の時間、私が意図的に作り出したルールの穴……そこに多くの襲撃を起こした『教会』側の面子には、ある意味賞賛の拍手を送りたいね。何せ、私自らそう言ったあてがわれたルールの穴を突く、っての大好きでね。わざとそう解釈できるように仕向けた訳だが……予想通りの動きをしてくれたね』
信一郎にとって、どれほどの裏切りも、どれほどの犠牲も、全ては計算の内。そこで生まれたドラマは、当人の予想の範疇を超えたものであったが。信一郎にとって、待田がどれほど残虐な行いをしようと、それらはすべて掌の上である。
『正直、多くの英雄や武器たちの裏切り。それが私としては堪えたよ。心構えだのなんだの全部フル無視した、我欲に忠実な裏切り。人間としてはある種正しいが、英雄やそれらに与する武器としての心構えはゼロ点だ』
各拠点から渋谷中心街まで、相当の距離が開いているはず、ホログラム越しであったはずなのに、普段の温厚な彼とは思えないほどに冷徹な瞳。了承し裏切ったはずなのにも拘らず、今更ながら多くの者が後悔の念を抱き始めていた。
『――故に、試合開始時点で、『一部生徒を除き』教会側に与する生徒を、英雄学園から除名することを正式に発表するよ。そっちから裏切ったんだ、文句は――言わせないよ?』
それは『同士討ち』ルールに引っかからないよう、英雄側を護るための策であり、もう一つの目的を果たすためのものであった。それは、英雄側がやられたことをそっくりそのまま報復するための策であった。
(――さ、これであっちはてんやわんやだ。実際問題、敢えて裏切らせた生徒は数人いるからねぇ。あちら側の集中力を削ぐための、人狼ゲームの始まりだね)
不敵に笑む信一郎は、デバイス内にあらかじめ入れておいたアプリケーションを起動させる。各所に忍ばせておいた監視カメラを、ワンプッシュで全て即座に起動させる。本当に追い詰められているのは、どちらなのだろうか。それを徹底的に分からせるための、日本全国生放送であった。
『では、堅苦しい話はこれまでにしておいて。日本全土緊急生放送、『教会』茨城支部対英雄・武器連合軍の合戦開始だ! ルール違反者は生放送内で顔も名も悪い意味で知れる、社会的な処刑だよ!!』
現在時刻、午前九時。今まで虐げられてきた、英雄側のリベンジマッチが、始まった瞬間だった。