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「それとな、ハルコン。今回、王宮に提供された仙薬エリクサー『タイプA』についてなのだが、……既にいくつかの事案にて、治験が無事完了しているぞ!」
「詳しく、お聞かせ頂けますでしょうか?」
ハルコンは、宰相の言葉に半身を乗り出して訊ねた。
国王陛下を始め、その席にいる者全てが、目を見張って宰相の言葉に耳を傾けた。
「王都では最近交通が活発になり、馬車の事故が多くてな。先日も往来の子供が巻き込まれてしまい、重傷を負ってしまったのだ。このままでは出血で死んでしまう故、その親に任意だが薬剤があるので試してみるか話をしたところ、是非ともとのことでな。それで我々は親の同意の下、治験を行ったのだ!」
「結果はどうでしたか? 上手くいきましたか?」
「あぁ、……万事上手くいった。骨折の部位も靱帯断裂の部位も直ぐに治った。欠損した指が再生するのを見て、担当医官は思わず肝を冷やしたそうだ!」
「そうでしたか、……」
「ハルコン、……オマエの発明は、人知を超えて凄まじいの一言に尽きるな!」
そう言って、じろりとこちらを見つめてくる宰相。
「他にも、治験の事案があるのでしょうか?」
ハルコンは、半ば睨むような視線を器用に避けつつ、宰相に質問した。
「王立病院にて、入院中の敗血症の患者や臓器不全の末期患者数名に、本人同意の下で治験を行っている。すると、目覚ましい程に効果が現れ、みるみるウチに容態は改善されたとのことだ!」
「……、そうでしたか」
「さすがに、先の戦争から長時間が経過した傷痍軍人達のように、欠損した手足を元に戻すことまでは叶わなかったがな」
「……」
「ハルコンよ、これまで治験は内密に行ってきた。だが、今後オマエの望むように『タイプA』や『タイプB』の使用を続けていたら、瞬く間のウチに、世間に噂となって広まっていくことになるぞ! オマエは、それでも構わないのだな?」
「構いません。むしろ、望むところです!」
ハルコンは力強く返事をすると、大きく頷いた。
「よかろう! ならば今後、ハルコンの生み出した仙薬エリクサーに、正式に名前を付けるべきではないのかね?」
宰相とハルコンの話を横で聞いていた王ラスキンが、ここでひとつご提案された。
「名前、……ですか?」
「我が国では、その薬剤開発を戦後復興後の基幹産業にしたいのだ。なるべくなら、希望を込めた名前が欲しいところだな!」
「では、父上。仙薬エリクサー『タイプA』をハルコンA、『タイプB』をハルコンBと呼ぶのは如何でしょう?」
「えっ!?」
シルファー先輩の申し出に、思わずギョッとするハルコン。
「それはいい。今後、仙薬エリクサーを『ハルコン』と呼ぶこととする。ハルコンよ、オマエもそれで構わないな?」
「私の、……名前を付けるのですか?」
「悪くないだろ?」
「は、……はぁ」
ハルコンは、ちらりと父カイルズとローレル卿、ミラを見た。
すると、父カイルズは苦笑いを浮かべ、シルウィット家の2人は喜色満面で大歓迎な様子。
「ハルコンよ、それで構わないな?」
「は、……はい」
ハルコンは王ラスキンから改めて同意を求められると、もやもやとした気持ちで、大人しくそれに従った。