* *
「ところで、ハルコンよ。今回、何か手土産はないのか?」
王ラスキンが、ニコリと笑顔で訊ねてこられた。
最近では貴族寮の研究室に入り浸りのシルファー先輩も、興味深そうにこちらを見てきた。
「はい。こちらなのですが、……」
そう言って、ハルコンは手提げ鞄から試験管に入った薬剤を、ひとつ取り出した。
今回、せっかく王宮に招かれたのに手ぶらでは何なので、とある薬剤のみを試験管に入れて持ってきたのだ。
「それは何なのかね?」
「ふむ、……私には、それが何か黒色の砂土としかワカらないのだが、……」
大人達は皆、腕を組んで考え込んだ。
「とりあえず、近くでよく見せてくれ!」
「陛下、……こちらになります」
王ラスキンに促されてハルコンが直接手渡すと、他の者達はその試験管を囲むようにじっと見た。
「ハルコンよ。先ず、成分を教えてくれ!」
陛下が率直にお訊ねになられた。
「塩硝と硫黄と炭の化合物となります」
ハルコンはニコリと返答する。
「硫黄と炭はワカるのだが、塩硝とは一体何なのだね?」
「硝石ですね」
「それは、陛下にお見せする程の品なのかね?」
宰相が侮るように訊ねてきた。
「はい、閣下。この世界の常識を、根底から揺るがす程のものとなります」
「ふむ、……オマエにしては、今さら随分大袈裟な物言いだな?」
「まぁ、……そうですね」
すると、先程より傍で様子を見ていたミラが、「ハルコン、それって、貴族寮の床下の砂土を集めた物だよね?」と不思議そうに訊ねてきた。
「あぁ、確かに。私も2ヶ月ほど前に、お二人が貴族寮の床下から何かを集めているのを目撃しておりましたわ!」
シルファー先輩も、その時のことを思い出したようだ。
「はい。あの時は蜘蛛の巣だらけで、大変参りました」
お互いそう話すと、ニッコリと笑い合うシルファー先輩とミラ。
大人達は、それを聞いて再び考え込む。
「ハルコン、そろそろタネ明かしをしないか? 我々には、とても判断が付かないのだ!」
父カイルズが降参して、穏やかに訊ねてきた。
「こちらの薬品を、私は『火薬』と呼んでいます」
「『火薬』、……それは一体どんな性質で、何に使うものなのかね?」
「その名のとおり、燃焼して爆発します。娯楽から戦争まで、用途は様々ですね!」
そう言って、ハルコンはニッコリと笑った。