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39 サスパニア出張旅行 その2_04

   *          *


 実際の話、私はこれまで前世が地球の日本人だということを、ほとんど誰にも知らせていないんだ。

 それは、親しくさせて頂いている6人のNPC達にも、もちろん……私の家族にすらね。


 そりゃぁそうだよ。家族の誰にも、こんな事実を伝えられるワケないじゃん。


 だってさ、……。


 特に、お腹を痛めて産んでくれた母上にとって、私、ハルコンの精神が、どこかの得体のしれない何者であったと知られてしまったら、……。

 もう、元の親子関係には戻れないんだよ。


 だからこそ、……私は、この事実を家族には絶対伝えないつもりなんだ。


 でも、もしかしたらさ。私の話の節々に、通常の子供の常識では出てこないフレーズやアイデアが垣間見えていたとしたらさ。


 その場合は、もうとっくに私、ハルコンが何か異様な、別の人格を引きずっている人間だと認識されている可能性だって十分にあるのかもしれない。


 特にサリナ姉様のように、私と女神様が話をしているところを間近で見ていた場合、私に対して、家族としての何らかの違和感を持つこともあり得ると思うんだ。


 でも、……さ。

 もしかすると、「神の御使い」というパワーワードひと単語で、全てが納得されて、問題が解決してしまっていることも考えられるんだよね。


 実際、私の所属するファイルド国の現国王ラスキン陛下は、こう仰っているんだ。


『我が王族は、たびたび「神の御使い」という異世界転生者達を、その血筋に加えてきたのだ』とね。


 だから、私は陛下が既に事情をご存じだと認識できたため、今後王宮に後ろ盾になって貰おうと思い、こちらの素性について正しく伝えることにしたんだ。


 私、セイントーク・ハルコンは、前世は地球という星の日本の薬学者、聖徳晴子だったということをね。


 そのことを、国王陛下とシルファー先輩だけが知っているんだ。


 おそらく、私は将来、この王族の一員という形で、取り込まれることになるんだと思う。


 何だかさぁ、……。いつの間にか、随分遠いところまでやってきてしまったんだなぁと、ハルコンは思った。


 ごく自然に、……細く長いため息を吐いた後、魔石で動作する置時計をちらりと見た。

 すると、時刻は夜中の11時を少し回ったところだ。


 ハルコンは眠気覚ましに両頬を軽くパンパンと叩いた後、「ヨシッ!」と言って、ベッドからすっくと立ち上がった。

 洗面台の方にいき、水魔石の蛇口に触れると、たちまち豊富な水でシンクが満たされた。


 顔を洗おうと半身を寄せたところ、……。


「!?」


 水面には、とある妙齢の女性がこちらの背後から抱き付いてくる様子が映っていた。 


 ハルコンは、思わず振り返ろうとした。

 だが、思いの外その女性の力が強く、振り向くことはできなかった。


「……、女神様、お久しぶりです」


「はい、ご無沙汰しております」


 女神様は、そう仰いながら両腕の力をゆっくりと解いて下さった。

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