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最後の晩餐

「情けない・・・本当に情けないですわ! 桜さんにあの人数でかかって敗北してしまうなんて!」




キャロルはそう良いながら、その小さな口にご飯を運ぶ。




「そう言うなよキャロル・・・っておい! 俺の魚取るなよ!」




「今日の守の仕事ぶりでは、この魚は大きすぎですわ」




キャロルは守の魚を取り上げ食べ始める。




「はっはっは! キャロル。本気でワシに勝つつもりだったのか?」




「当たり前ですわ。いくら桜さんが世界対龍ランキング17位だといっても、同じ人間。勝つ方法はあるはずですわ」




「うむ。やはり面白い。大地、どうじゃ? キャロルと付き合ってみては」




大地と沙耶は同時に味噌汁を噴出す。




「な・・・何言ってるんだよ!? ばっちゃ!?」




「桜さん。そのお話はすでにお断りしたはずですわ」




「すでにでお断りされてんの!? 俺、知らない所で!?」




「大ちゃんは私のなんだから~。誰にも渡さないわよ~? ね~? 大ちゃ~ん?」




一花は大地に抱き着く。




「うわっ! 酒くせぇ! あれからずっと呑んでんのか!? はーなーれーろー!」




大地は一花を引き離した。




「一花さん、もう脚は大丈夫ですの?」




「優香ちゃんがちゃんと治療してくれたし、こんな傷お酒吹きかけとけば一発よ! ついでに少し呑み始めたら止まらなくなっちゃった! あはは~!」




一花は一升瓶を口に含む。




「あんな特殊な治癒方法初めて見ましたわ・・・そういえば沙耶、ちゃんと謝りましたの?」




沙耶は不機嫌そうにこぼした味噌汁を拭いている。




「いいって! いいって! あんなの事故事故♪ それより~」




一花は沙耶に近づき耳打ちをする。


その瞬間沙耶の顔が真っ赤に染まる。




「おい! 一花姉! 沙耶に何て言ったんだ!?」




「別に~? ね? 沙耶ちゃん?」




「はい。おねぇさん」




「なっ!? おい沙耶何て言われたんだ!?」




「別に」




沙耶に詰め寄る大地をよそに、桜はキャロルに話しかける。




「で、今後の予定はどうするつもりじゃキャロル。ワシは何時までいてもらっても構わんのだが」




「お言葉に甘え、夏休みの間は滞在させて頂きたいと思っておりますわ。そして出来ればで構わないのですが、滞在する間多くの経験を積みたいので、戦い方を教えて頂ける教官を紹介して頂けると助かりますわ」




「ふむ・・・。毎日ワシと一花相手じゃつまらんからのう・・・。よし分かった。軍の中で動ける者を教官として招くとする。それでよろしいか?」




「助かりますわ」




「しかし、ワシの部下は強者揃いじゃぞ?」




桜はにやりと笑う。




「望むところですわ」




翌日よりEチームの一同は激しい訓練を重ねる事となる。


桜の予定が合うときは桜が指導し、それ以外の時は桜が呼んだ教官に指導を受けた。桜の言葉通り、どの教官も強者と呼ぶに相応しい実力を持っていた。同時に彼らが今まで培ってきた対ドラゴンの戦闘技術・有効戦略を時に体で時に言葉で指導を受ける。そして、どの教官も共通して口にするのは生き残る事の大切さだった。




その言葉を胸に刻みつつ、一日一日と夏の灼熱の太陽が輝く中、雨の中でさえも訓練を積み重ねてゆく。その中で少しずつしかし確実に若い力は成長していった。そしてついに夏休みも残り1日となり、桜の家での訓練最終日を迎える。




「あーもう! もう少しでしたのに!」




キャロルは膝を付き、汗を拭う。しかし拭い切れず、夏の日差しで渇ききった地面に吸い込まれてゆく。




「はぁ・・・はぁ・・・。惜しかったのうキャロル」




桜も同じく汗だくで肩で息をしていた。その姿からは全く余裕を感じられなかった。




「もう一回ですわ!」




「待て待て! 明日は始業式じゃろう!? もう帰る用意をせねば間に合わぬぞ!?」




「・・・それもそうですわね・・・。さ、皆さん東京へ帰る用意を致しましょう」




桜はホッと胸を撫で下ろす。




暫くして帰宅の準備を整えた一同が、庭に集合する。


見送りには桜・一花・小春、そして刀坂も顔を出していた。




「桜さん。そして皆さん。本当に長い間お世話になりましたわ。さ、皆さんお礼を」




『ありがとうございました』




守達は頭を下げお礼を言う。




「うむ。こちらこそ賑やかで楽しませてもらった。又何時でも来るがよい」




「大ちゃ~ん・・・! 行かないで~!」




一花は号泣し大地に抱き着く。その手にはしっかりと一升瓶が握られていた。




「やめろ! 離れろって!」




大地は一花を引き剥がそうとする。


その姿をよそに、キャロルは刀坂へと歩み寄る。




「刀坂さん。本当にあのクラス5龍鱗鉱で出来た槌を頂いても宜しいのですの?」




「ふんっ。男に二言は無いわい。譲渡の事なら余計な心配はするな。お前は俺の正式な弟子になると言った。弟子に槌を渡して何が悪い。それに誠の奴が俺に文句言える訳がなかろう」




「弟子と言っても気軽には伺えませんが・・・。」




「顔を見せない弟子には慣れとる」




刀坂は終始後ろを向き、こちらに顔を見せようとしない。

そして桜が優香に厳しい視線を向けた。




「優香。時は近い。覚悟しておけ」




「・・・はい」




「・・・今まで色々と煽るような事を言ってすまんかったの」




「そっ・・・そんな!? 桜さんは何も悪くありません!」




「・・・これでいいか? 守」




「もう別に怒ってねぇよ。・・・いてっ!」




キャロルは守の頭に銃を突きつける。




「守。敬意には敬意を。」




守は頭を下げる。




「・・・ごめんなさい」




「はっはっは! 龍の子も躾けておるとは流石じゃのう! やはり大地のーーー」




言い終わる前に沙耶の体がバチバチと放電し始める。




「おっと、そうじゃったな! 失敬失敬」




「皆様。そろそろヘリへ乗って下さいまし」




「おばあちゃん! ありがとうございました!」




「うむ。楓。又な」




桜は楓の頭を撫でる。




「千里と旋風も達者でな」




「はい。お世話になりました」




桜は千里に手招きをする。


そして耳元で囁く。




「ぼさっとしとると、守を取られてしまうぞい。恋愛においては得策ではないぞ?」




そう言って千里の腹を軽く小付いた。




「はっ・・・はいっ!」




そう返事をした千里の顔は真っ赤に染まっていた。


次々とヘリに乗り込む守達。しかし、大地と沙耶は何やら桜達と話をしている。




「と・・・言う訳だ。ちゃんと紹介しときたくてな。爺さんもいるし」




「なるほどな・・・薄々分かってはいたが・・・お前が沙耶とな・・・」




「許可が欲しい」




「許可も何も2人が決めた事じゃ。又、正月にでも来るが良い。大地を頼んだぞ沙耶」




「任せて。必ず守る」




「俺の台詞だって!」




「ヒューヒュー♪」




一花が横から茶化す。




「ちょっと一花姉やめろって!」




「大ちゃんを頼んだよ~沙耶ちゃん♪」




「はい。お姉さん」




「じゃ。俺ら行くから! 又今度な! 爺さんも元気でな!」




「ふんっ」




刀坂は後ろを向いたまま鼻を鳴らす。




手を振りながらヘリの前まで歩いた大地は立ち止まる。




「沙耶・・・頼む」




「任せて」




沙耶は大地の背中に手を当て電流を放出する。


そして気絶した大地を肩に抱え、ヘリへと乗り込んだ。




「沙耶? 何を話してましたの?」




大地を座席に固定した後、自分もベルトを締める。




「別に。ただ、大地と付き合ってるって報告しただけ」




『えっ・・・えぇえええええ!?』




ヘリの中に驚きの声が響く。




「何時の間にそんな事になってましたの・・・」




「まぁいいじゃねぇかおめでとう沙耶」




「お・・・おめでとう」




「少し羨ましいな。おめでとう」




「大地さんおめでとう! 先生なんてこの年でもまだ・・・うぅ・・・」




「えっと・・・付き合うって事は、大地お兄ちゃんと沙耶お姉ちゃんはチューしたって事?」




沙耶は下を向き頬を赤らめる。


皆、何となく複雑な表情を浮かべた。




「と・・・とにかく爺、出発して下さいまし」




爺と呼ばれたサングラスをかけた操縦士は親指を立て、エンジンをかけ出発する。


ヘリは上空へ飛び立ちあっという間に見えなくなってしまった。




「行ってしもうたのう・・・。弟子をちゃんと見送らんで良かったのか? たくみ」




刀坂は拳を握り小刻みに震えている。




桜は呆れたように小さくため息をつき、その大きな背中をぽんっと優しく叩く。




「お主の泣き虫なのは昔から治らんのう・・・。・・・うぅ・・・大地が行ってしもうた・・・」




刀坂と桜は2人して涙を流す。




「まったく・・・いい年寄りが2人して・・・。・・・大ちゃ~ん!」




それに一花も加わり3人はそこで共に涙を流し続けた。




暫く飛行した後、ヘリは学校へ着陸した。

ヘリが飛び去った後大地が沙耶の電気ショックによって目を覚ます。




「へ・・・ああ・・・着いたのか」




目を覚ました大地は立ち上がり沙耶はその後ろに半身で立ち恥ずかしそうに大地の袖をそっと掴む。




「さっき聞いたぞ大地・・・お前、沙耶と付き合ってる事内緒にしてやがったな!?」




守は大地に歩み寄り詰め寄った。




「えっ!? もう言ったのか沙耶!?」




「うん」




大地は恥ずかしそうに頭をボリボリとかく。




「・・・まぁそういう事だからよろしくな」




「お付き合いは自由ですが、学生なのですから、節度は守って下さいまし。その・・・キ・・・キスとか不埒な行為は控えて下さいまし・・・」




大地と沙耶。そして言ったキャロルが一番赤くなっている。




「情報早くねぇか!?」




「本人が流してるからな」




「沙耶!? こいつらにはいいけど頼むから絶対クラスとかで言うなよ!?」




「大地がそう言うなら」




「仲が良いのはよろしいですが、明日から2学期が始まりますので、気を引き締めて貰わないと困りますわ」




「分かってるよ」




「そうだ守。放課後時間あるかい?」



旋風が思い出したように守に聞いた。




「俺はいいですけど、キャロルいいかな?」




「明日わたくしも神代校長に用事がございますので、構いませんわ。皆様は自主訓練を行って下さいまし」




『了解!』




「それじゃあ私は楓を送って帰るよ。皆、夏休みの間お世話になった。学校でも気楽に声を掛けてくれ。私も時間があれば武活にお邪魔させてもらうよ」




「大歓迎ですわ」




「では帰ろうか楓」




「皆さんありがとうございました! 又明日からもよろしくお願いします!」




楓は一礼し、旋風と手を繋いで歩き出す。




「んじゃ、俺は沙耶と帰るから」




「あなた方は手は繋がないで下さいまし」




「うるせぇな! わかってるよ!」




「俺らも帰るか!」




「私は明日の始業式の準備をして帰りますので、少し帰りが遅くなります。守、先に帰ってて下さい」




「そうか、優香姉も大変だな。キャロル、千里帰ろうぜ」




3人もぼちぼちと歩き出す。


キャロルが先頭を歩き、その後ろを守と千里が並んで歩く。




「大地君と沙耶ちゃんが付き合ってるなんて・・・びっくりしたよね・・・? 確かに仲が良かったけど・・・」




「うーん。大地は沙耶の事好きって聞いてたからな・・・報告が突然で驚いたけど・・・まぁ」




「うんうん。・・・所で守君は・・・その・・・す・・・好きな人とか居ないの?」




千里は恥ずかしそうに言う。




「俺!? 俺は・・・」




守は言葉に詰まる。




「ご・・・ごめんね。変な事聞いちゃって・・・」




「いや・・・俺は半分ドラゴンだろ? だから、もし付き合ったりしたら色々とその事で相手が辛い目にあってしまうかも知れない。そう思うと俺は恋愛をすべきじゃ無いと思うんだ」




「そ・・・そう・・・優しいんだね。でも、それでもいいって子が現れたら・・・?」




千里の手に力が入る。




「わかんねぇな・・・俺にもわかんねぇ・・・」




守はふと空を見上げる。雲一つ無い夏の夜空には天の川が煌いていた。




千里を送り届けた後、キャロルと守は歩き出す。


キャロルは前を歩かず守の隣に並んで歩く。




「・・・夏休みきつかったけど楽しかったな」




「否定はしませんわ」




「お前なぁ・・・。」




そのまま歩き続けキャロルの屋敷の前に到着する。


到着するなりキャロルは振り返り、守の正面に立つ。




「守」




「ん?」




「大地にも言いましたが、明日からは新学期ですわ。気を引き締めて下さいまし」




「分かってるって」




「氷雪会長とペアを組むという事は、クラス3までの出撃。及びクラス4のサポートもあり得るという事ですわ。わたくしが言っているのはそういう事ですわ。いくら守が強いと言っても油断をすれば死に直結致しますのよ」




「心配してくれてんのか?」




「そうですわね。そういう事にしておきますわ。必ず生きて帰って下さいまし」




キャロルは真剣な眼差しを守へ向ける。




「おう任しとけ!」




守は胸をドンと叩く。




「ふんっ・・・。では又明日」




「又な」




守が去った後、キャロルは屋敷の周りの柵にもたれかかり、堀の水に小石を投げ込んでいた。




(守は分かっていませんわ・・・。クラス3は大佐クラスでも油断すれば死んでしまう。まったく・・・本当に死んだらどうしますの・・・)




又一つ小石を堀の水へ投げ込む。小石は水面に落ちそれを中心にして円状に波立つ。




「馬鹿・・・」




ぼそりと呟き、更に一つ二つと水面が波立つ。




「あれ・・・わたくし・・・」




その水面を揺らしていたのは石では無かった。




キャロルは袖で顔を拭う。




(ああ・・・わたくしは守の事ーーー)




キャロルは両手で顔を覆うが、溢れ出す雫を全て受け止める事は出来なかった。

雲一つ無い夏の夜その水滴だけが水面を揺らしていた。











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