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第97魔:打ち上げ花火

「ありがとうございましたー」


 フウ。

 今のお客さんでやっと一区切りついたな。


「悪いな普津沢。今日はシフト入ってなかったのに、わざわざこんな場所まで来てもらって」

「いえいえ、気にしないでください伊田目さん」

「普津沢さん、私かき氷買ってきたんで、一緒に食べませんか?」

「お。ありがとう未来延ちゃん。じゃあお言葉に甘えて、いただこうかな」

「はい、ピッセちゃんも」

「サンキューお嬢。ン~、なんで氷に甘い蜜をぶっかけただけのモンが、こない美味いんやろな~」

「嫌な言い方をするなよピッセ」


 俺達スパシーバメンバーは本日、去年沙魔美達と来た夏祭りに、屋台の出店者側で参加している。

 本来なら俺は今日はシフト外だったのだが、特別手当てを出してやると伊田目さんに言われたので、二つ返事で受けてしまった。

 沙魔美と違って万年金欠気味の俺には、ありがたい話だ。

 伊田目さんと未来延ちゃんは去年もこの夏祭りに飛び入りで出店していたのだが、今年は事前にちゃんと許可を取った上で、店の前にちょっとした飲食スペースまで作っての、万全の態勢で臨んでいた。

 料理メニューも、去年はパスタの麺で作った焼きそばである、『パスそば』だけだったが、今年はパスそばに加えて、お好み焼き風のピザである『おこピザ』、今川焼きにあんこの代わりにリゾットを入れた『今川ット』、チョコバナナのチョコの代わりにティラミスクリームでバナナを包んだ『ティラバナナ』と、各種取り揃えた(さも俺が取り揃えたような言い方をしたが、もちろん作ったのは伊田目さんだ)。

 どれも字面だけだとあまり美味そうには思えないが、伊田目さんの手に掛かればどの料理も一口食べただけで、いつの間にか全裸になってしまうくらいの絶品に仕上がるので、やはりこの人は只者ではないと再認識させられた。

 流石日本を影から支えている、『IGAイガ』の局長なだけはある。

 ちなみに去年の未来延ちゃんは屋台のオジサンの様な格好をしていたが、今年は客受けを狙って浴衣姿での接客となった。

 もちろんピッセもだ(ついでに俺もだ)。

 そのお陰もあって、客足は上々である。


「ニャーン」

「はう! シュナイダー!」


 シュナイダーが俺の脚に擦り寄ってきた。

 相変わらずキャワユすぎる!

 今日は屋外での営業なので、シュナイダーも一緒なのだ。

 むしろ今夜のMVPはシュナイダーだと言っても過言ではない。

 その愛くるしい姿から、文字通り招き猫として沢山のお客さんを呼び寄せ、出張版スパシーバは大繫盛しているからだ。


「普津沢、このリゾット、シュナイダーにあげてくれ」


 伊田目さんが紙皿によそったリゾットを、俺に差し出してきた。


「え、俺があげていいんですか!?」

「ああ、もちろんだ。お前からやったほうが、シュナイダーも喜ぶだろう。猫用に薄味にしてあるから、これならシュナイダーが食っても問題はねーぜ」

「あ、ありがとうございます!」


 俺は嬉々として、リゾットをシュナイダーの目の前に置いた。

 するとシュナイダーはそのリゾットを、あむあむと美味しそうに食べ始めた。

 KA・WA・I・I!!

 嚙み付かれたい!

 猫じゃらしで遊んでいたら、途中から猫じゃらしじゃなくて俺の手に襲い掛かってくるようになって、ガジガジと嚙み付かれまくりたい!

 ハッ!

 危ない……。

 またしても俺の、ちょっとだけ特殊な嗜好がみんなにバレるところだった。


「アッ! 堕理雄ー、ここにいたのね」

「こんばんは堕理雄君」

「ああ、沙魔美、菓乃子」


 俺達がここで屋台を開いていることは伝えてあったので、沙魔美と菓乃子も来てくれた。

 今年も二人は去年と同様、浴衣に身を包んでいる。

 髪も編み込みでアップにしているので、普段は隠れて見えない艶めかしいうなじが露わになっていて、フェティシズムをビンビンに刺激してくる。

 髪留めになりたいぜ……。

 おっと!

 危ない危ない。

 今日の俺はどうかしてるぜ。

 こういう発言は娘野君の役目だろ?

 俺はそういうキャラじゃないんだからさ(そうかな?)。


「ああ^~、やっぱ堕理雄の浴衣姿はたまらねえぜ。エクストリームヘヴンフラッシュね!」

「それよく言うけど、イマイチ意味がわかってないんだけど、俺」

「もう! 何となくわかるでしょ! ね? 菓乃子氏もそう思うわよね?」

「うん……。堕理雄君の浴衣姿……ロイヤルイマジネーションアッパーカットだよ……」

「新しいワードが出てきたけど!?」


 まだエクストリームヘヴンフラッシュも飲み込めてないんだから、早々に次の料理を出さないでもらえるかな!?

 菓乃子は普段は凄くシッカリしてるんだけど、たまにとんでもない玉をブン投げてくることがあるから、油断できないんだよな……。


「オオッ! 何や何やエエやんけ菓乃子!」

「え」


 ピッセが菓乃子を見付けるなり、鼻息荒く近付いてきた。


「よう浴衣似合うとるで! やっぱ菓乃子は何着ても似合うな!」

「あ、ありがと……」


 ピッセの素直な褒め殺しに、菓乃子は照れくさそうにしながらも、頬を赤く染めている。


「後で一緒に写真撮ろうや!」

「……うん、別にいいけど」

「ちょっとカマセ! 私の許可なく菓乃子氏と写真撮ろうとすんじゃないわよ! 心霊写真にするわよ!」

「ピッセや! なんでイチイチジブンの許可取らなアカンねん!? 菓乃子は誰のモンでもないやろ!」

「ゆくゆくは私のモノになるのよッ!」

「さ、沙魔美氏!?」

「アホなことぬかすなやッ! 菓乃子はウチのモンになるんや!」

「ピッセ!?」


 またやってるよこいつら。

 よく飽きないな。


「ハッハー! これはこれは、やはり美女の浴衣姿というのは、至上の宝だねえ!」

「アッ! 勇希先輩!」


 っ!

 玉塚さんもお越しなすった。

 当然のように男物の浴衣を見事なまでに着こなしている。

 相変わらず、イケメンがすぎるぜ。


「勇希先輩こそ、その浴衣、とってもお似合いですわあ~」


 沙魔美が玉塚さんの手を強く握ると、恒例の百合の花がバックに舞い散った。

 沙魔美のやつ、ついさっきまで菓乃子にベタベタしてたクセに。

 ホント気が多いやつだ。

 菓乃子とピッセも、若干呆れ顔で沙魔美達の遣り取りを見ている。


「ハッハー! ありがとうマイレディ。ま、この浴衣も、ボクのイケメンオーラで具現化した物なんだけどね」


 !?


「え!? てことは勇希先輩は今、実質下着姿ってことですか?」

「いいや、むしろ全裸だね。ボクは浴衣を着る時は、下着は身に着けないから」


 !?!?!?

 えーーー!!!!


「マアッ! つまり先輩は、センセーショナルフリーアグレッシブなんですね!?」


 !?


「そうだよ(便乗)。ボクは今、センセーショナルフリーアグレッシブだよ」


 知らないワードがバンバン出てくるッ!

 え? 何これ?

 もしかして俺が知らないだけで、世間の人はみんな知ってるワードなの?(違います)

 ていうか、最早玉塚さんはただの超人の変態じゃないか(超人の変態が『ただの』なのかという問題はさておき)。

 できれば、自分の彼女の高校の先輩が警察に捕まるところは目撃したくないものだが……。


「あれ? そういえば勇希先輩、今日は琴男きゅんは一緒じゃないんですか?」

「ああ、琴子とは、ついさっきまで一緒にいたんだが、はぐれてしまってね」

「え? 『達』って……」

「座長ー! 勝手に一人で先に行かないでくださいよー!」

「おお、来たか琴子」

「あ、琴男きゅん――ええっ!?!?」


 ファッ!?!?

 俺達は全員、時が止まったかの如くフリーズした。

 さもありなん。

 何と娘野君は、姿登場したのだ。

 ニャッポリートンッ!?

 娘野君、いつの間に!?(ちなみに娘野君は男物の浴衣を着ているのだが、例によって娘野君の場合は男装している女の子にしか見えない)


「こ、琴男きゅん……その子はいったい……」

「え? あっ! こ、これは違うんです師匠の彼女さん!」


 娘野君は慌てて、女の子から手を離した。


「何が違うっていうの……? 琴男きゅんはいつからノンケになってしまったの……? もう、堕理雄のことはどうでもよくなってしまったの……?」

「は?」

「沙魔美ッ! 話をややこしくするな! 俺と娘野君はただの友達だ!」

「あ、あの、はじめまして! 私、琴男君のの、咲羅っていいます。玉塚歌劇団の新人です」

「「「!?!?」」」


 か、彼氏!?

 彼氏って言った今!?


「何言い出すの咲羅君!? 俺達は友達でしょ!?」

「うふ、ゴメンゴメン。ちょっと言い間違えただけだって」

「ホントかな……」


 何だただの言い間違えか……。

 でも、『彼女』ならまだしも、普通自分のことを『彼氏』って言い間違えるかな?

 それに今、娘野君はこの子のことを、咲羅『君』って言わなかったか?


「こ、琴男きゅん……もしかしてこちらの方は……」

「あ、ええ、そうなんです。咲羅君も、こう見えてなんです」

「「「!?!?!?」」」


 えーーー!!!!(今日俺、こんなリアクションしてばっかだな)


「うふ、みなさん、こんな私ですが、これからはどうぞよろしくお願いします。みなさんのお話は、琴男君からいつも聞いています」


 咲羅君は、俺達にうやうやしく頭を下げた。

 ……これもうわかんねぇな。

 この空間、性別がかおす先生すぎる。


「ふ、ふ、ふ……」

「沙魔美?」


 どうした?


「二人目キターーーーーー!!!!」

「沙魔美ーーーーーー!?!?」


 二人目って何が!?

 男の娘がってこと!?


「そうキタかー! まさかの琴男きゅんのNTR展開に持ってくとはー! こいつぁ一本取られたわ!」


 沙魔美は恍惚とした表情で、ふんすふんすしている。

 ……えぇ。


「し、師匠の彼女さん……?」

「私本当はNTRモノは好きじゃないんだけど、私が何よりも重視するのは公式だからね! 公式がそう持ってくるなら、致し方なし! 片腹痛し!(?)」

「彼女さん……」


 ダメだ。

 完全にスイッチが入ってしまったようだ。


「ねぇねぇ堕理雄、今どんな気持ち!? 彼氏をNTRされて、どんな気持ちなの、ねぇ!? 執筆の参考に聞かせてちょうだい!!」

「だから俺と娘野君はただの友達だって!! ってかお前今、執筆の参考って言ったか!?」

「ちょっと黙って堕理雄! アア! 降りてきた! アイデアが降りてきたわ!!」

「お前から聞いてきたんじゃねーか……」


 そう言うなり沙魔美は浴衣の前を思い切りはだけさせ(!?)、胸の谷間から原稿用紙とGペンを取り出し、その場で一心不乱に何かを描き始めた。

 こいつ……。


「あ、あの、彼女さん……?」

「娘野君、こうなった沙魔美は暫く誰の声も耳に入らないから、放っておいたほうがいいよ」

「あ、はあ……」

「えーと、咲羅君、だっけ? 見ての通り変なやつらの集まりだけど、まあ、みんな悪いやつじゃないからさ。気を悪くしないでね」

「はい! 私も一刻も早く、みなさんに琴男君の彼氏として認めてもらえるように、頑張ります!」

「咲羅君ッ!? 俺達は友達だって!!」


 あれ?

 よもやこの子、ガチか?

 まあ、余計なことを言うと、また沙魔美に燃料を注ぐことになりかねないから、黙っておくのが吉だな。

 沈黙は金なり。


「お兄さーん!」

「お兄ちゃーん!」

「パパ―!」

「真衣ちゃん、マヲちゃん、多魔美ー!」


 ちっこいズの三人もやって来た。

 オイオイフルメンバー揃ったな。

 またぞろ、長編バトルものが始まるんじゃなかろうな?


「三人共、はっぴ着てるけど、これから何かやるの?」

「ええお兄さん! 去年私がここで披露した和太鼓を、今年はちっこいズと私が所属してる和太鼓サークルがコラボして演奏することになっているんです!」

「え!? そうなの!?」


 初耳だけど……。


「あれ? 悪しき魔女から連絡いってなかったですか? プロデューサーであるお兄さんには、社長である悪しき魔女から伝えておくって言ってたんですけど」

「いや、聞いてないね……」


 まあ、所詮俺はお飾りプロデューサーだから、別にいいんだけどね。

 ちなみに当の社長であるYaminoSamami[nYk]は、今はナットウゴハン先生モードになっているので(名前が多い女だ)、ちっこいズには目もくれず、原稿用紙に溢れ出るパッションをぶつけまくっている。


「ま、いいでしょう。悪しき魔女のことは無視しましょう。でも、お兄さんはプロデューサーとして、私達の演奏を聴いてくれますよね?」

「くれるよねお兄ちゃん?」

「くれるよねパパ?」

「え……」


 三人から無垢な瞳で見つめられるとダメだとは言い辛いが、今日の俺はスパシーバのバイトでここに来てるからなあ……。


「普津沢、店のことはいいから行ってこいよ。もう客足も大分落ち着いたし、何ならシュナイダーもいるから、手は足りてるからよ」

「伊田目さん」

「ニャーン」

「シュナイダー」


 まさしく、猫の手を借りるというわけか。


「……すいません。演奏が終わったら、すぐ戻りますんで」

「オウ」

「よし、じゃあ、行こうか三人共! ちっこいズの、最高のパフォーマンスを会場のみなさんに見てもらおう!」

「「「オー!!」」」




「みんな~、今日は『ちっこいズ』の出張ライブに来てくれてありがとー! ちっこいズの監禁担当、『未来から来た監禁姫』、tamaだよー!」

「今日もみんなの生命エネルギーを、ごっきゅんごっきゅん吸い取っちゃうお! ちっこいズの魔王担当、『異世界の妹系魔王』、mawoだお!」

「会場にいるお兄さん達のハートを、私のバチ捌きで癒してあげるからねー! ちっこいズのリーダー、『絶壁のブチギレ妹』、maiだよー!」

「「「「ウオオオオオオ!!!!(野太い声)」」」」

「tamaちゃーん! 俺のことも監禁してくれー!!(野太い声)」

「mawoちゃーん! 俺の生命エネルギーを、一滴残らず搾り取ってくれー!!(野太い声)」

「maiちゃーん!そのカッチカチの胸板で、和太鼓をかき鳴らしてくれー!!(野太い声)」

「今日は私も所属している和太鼓サークル『千手観音』との、コラボ演奏をみなさんにご披露したいと思います。それでは聴いてください。ちっこいズfeat.千手観音で、『和太鼓の達人』」


「今宵始まる(ドンゴドンゴドンゴドンゴ)」

「狂乱の(ドンゴドンゴドンゴドンゴ)」

「君(ドンゴドンゴドンゴドンゴ)」

「僕(ドンゴドンゴドンゴドンゴ)」

「た(ドンゴドンゴドンゴドンゴ)」

「も(ドンゴドンゴドンゴドンゴ)」


 太鼓の音がうるさすぎて、歌詞が全然聴こえねーーー!!!!

 音響さんちゃんと仕事して!?

 まあ、お客さん達は楽しそうだから、別にいいか……。

 こういうのは、みんなでバカ騒ぎするのが醍醐味だったりもするしな。

 あれ? そういえば今日は珍しく、会長の姿が客席に見えないな?

 と、思ったら、よく見ると会長は千手観音の一員として、ちっこいズの後ろで太鼓を叩いていた。

 いつの間に!?

 確か去年はいなかったはずだから、真衣ちゃんがこのサークルに所属しているというのをどこかで知って、最近入会したのだろうか?

 その割には、部員達の誰よりもキレッキレの演奏を披露している。

 流石長年プロの打ち師として、ペンラを振ってきただけはある。

 意外と和太鼓とオタ芸は、親和性が高いのかもしれない(個人の感想です)。


 ヒューパンパーン

 パパパパーン


 お。

 ちっこいズの演奏が終わると同時に、夜空に大輪の打ち上げ花火が舞い散った。

 確か去年は沙魔美が、俺と沙魔美の相合傘の花火を打ち上げて大恥をかいた覚えがあるが、今年は普通の花火でよかった。

 会場にいる人達は皆一様に足を止め、暫しこの幻想的な光景に目を奪われている。

 普段は学校や職場でいろいろとストレスが溜まっている人達も、こうして綺麗な花火をみんなで見ているだけで少しは心が軽くなるのだから、まったく不思議なものだ。


 だが、花火も終盤に差し掛かったところで、それは起きた。

 一際高い位置まで上がる花火があるなと俺が訝しんでいると、その花火は仕掛け花火だったらしく、弾けた途端、夜空に以下の様な文章が映し出された。


『みなさんはじめまして。漫画家のナットウゴハンと申します。来月発売のバラローズという漫画雑誌で、私の描いている県立雀聖じゃんせい高校麻雀部という漫画の連載がスタートしますので、どうかみなさん応援よろしくお願いいたします』


 ………………。

 文章ナゲーな!!(そこかよ)

 去年もそうだったけど、よくこんな複雑な文章を、花火で再現できるな!?


「フフフ、上手く打ち上がってよかったわ」

「沙魔美!?」


 いつの間にか、沙魔美が俺の横に立っていた。


「……マジなのか? 連載が始まるってのは」

「大マジよ。遂にこれで私も、プロの漫画家よ」

「……そうか」


 夢が叶ったんだな。

 しかも……。


「県立雀聖高校麻雀部って、前に俺が読んだあの漫画だよな?(※70話参照)」

「ええそうよ。最初は読み切りで載ったんだけど、『読み切りなのに34人もキャラが出てくるなんて斬新!』って評判で、即連載が決まったの」

「それはそれは」


 俺はあの時散々キャラが多いことにダメ出しをしたが、所詮俺の漫画を見る目なんてそんなもんだったってことだな。

 沙魔美みたいに感性で描くタイプの作家には、本人の好きに描かせるのが一番なのかもしれない。

 しかし、これで俺の彼女は、正真正銘プロのB漫画家になるのか……。

 正直この事実に対して、俺の中でいろんな感情が渦巻いていて、自分でも自分がよくわからない。

 中でも一番大きな感情は『焦り』、か?

 至って凡人な俺に対して、着実に著名になっていく彼女。

 本当に俺なんかが、沙魔美の隣にいていいんだろうか?

 沙魔美にはもっと他に、相応しい人がいるんじゃないか?

 …………まあ、今はそんなことを考えていても仕方ない。

 まずは宿願が叶った沙魔美に、心からの賛辞を贈らせてもらおう。


「おめでとう沙魔美。よく頑張ったな。お前はホント、スゲーやつだよ」


 俺は沙魔美の頭に手を乗せ、よしよしと優しく撫でた。


「フフフ、ありがと堕理雄。じゃあ」

「え?」


 沙魔美が指をフイッと振ると、俺と沙魔美は去年一緒に花火を見た裏山にワープした。


「なっ!? なんでここに!?」

「頑張ったご褒美に、今年もここで堕理雄の打ち上げ花火を私にちょうだい」

「……えぇ」


 沙魔美は豊満な胸を俺に押し当てながら、潤んだ瞳で俺を見つめてきた。


 俺まだ、スパシーバのバイト中なんだけど……。

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