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第6話

 一方、戦場では馬超と龐徳が疲れを微塵も感じさせずに戦い続けていた。


 兵らも両将に続いて奮戦していたが、その数も残すところ数百人ほど。


「諦めるな!戦い抜け!」


 龐徳は懸命に兵を励ました。それを自身にも言い聞かせ、自らを高めていた。


 この鬼神のような武力に、数で圧倒的に勝る匈奴兵も押され、遂に分厚い壁が割れだした。


「あと少し!」


 最後の気力を振り絞り、壁を抜こうと匈奴軍に襲いかかる。


 そして最後の指揮官を斬り倒すと、兵の壁は完全に真っ二つに割れた。


「馬超殿!」


 龐徳はすかさず馬超を呼ぶ。


 だが、そこへ新たな部隊が現れた。


 ただその部隊は、将の周りに数十人ほどの供回りを連れているだけで、妙に慌ただしく、後ろばかりを気にしている。


 龐徳はその将を見知っていた。


 まぎれもなく郭援、そう確信した龐徳は疲れた体に鞭打ち、駆け寄った。


 郭援の側近が気づき、注進する。


「うおぉぉ……」


 野獣のような雄叫びをあげながら、龐徳が郭援らに斬りかかった。


「と、止めよ!」


 郭援が側近を盾にするが、龐徳は難なく斬り捨て、郭援に襲いかかった。郭援は剣を抜くことも忘れ、ただ惑うばかり。


「我らはこんな奴に苦戦していたのか!」


 龐徳はそのまま横薙ぎに槍を振るい、郭援の首を斬り落とした。


「敵将郭援、龐令明が討ち取った!」


 首を槍に突き刺し高く掲げ、戦場全体に響かんばかりに声を張り上げた。呼応して西涼兵も大声をあげる。


 長く苦しい戦いであった。気づけば満身創痍で、返り血を浴びていない箇所はないというほど、全身が赤黒く染まっていた。


 まだ撤退するまで気は緩められないが、龐徳の心を達成感が締めていく。


 だがそれを翻し、龐徳は一気に青ざめた。


 さらに新手の、それも大勢の軍がものすごい勢いで向かってくるのを目の当たりにしたのだ。


「くっ、ここまでか……」


 龐徳はがっくりと膝を落とす。


「そ、曹操軍だ!」

「敵の援軍だぁ!」


 高幹軍の兵が慌てふためき逃げ惑う。


 そうと知った龐徳は体中の力が一気に抜け落ちるほど安堵し、その場に倒れ、気を失った。


 匈奴や高幹軍の攻撃が止み、馬超以下西涼軍は龐徳の下に殺到した。


「龐徳!龐徳!」


 馬超は龐徳を抱きかかえ、何度も何度も呼びかけるが起きる気配はない。


 やがて秀満の軍が到着した。


「あなた方が西涼の?」


「あぁ、馬孟起だ」


「我らは曹操殿より派遣された織田軍の者。西涼軍の救援と高幹の討伐に駆けつけました」


 遅すぎる援軍に神経を尖らせていたのを感じた秀満は、丁寧に馬超に挨拶をかわした。


「長安からではないのか?」


「違います。長安の曹軍は郭援に苦戦していた様子」


「そうであったか。援軍かたじけない」


 馬超は己の勘違いで苛立ちをぶつけたことを素直に謝した。


「いえ。それよりも皆に奮戦の痕が窺えますな。後方より味方が続いておりますゆえ、退がり休養してくだされ。すぐに手当てもさせましょう」


「それは……ありがたい……」


 馬超はそう言うと、龐徳と同じく気が抜け、秀満に寄りかかるように気を失った。


 秀満は部下に命じ西涼軍を後方に送ると、自身はその場で守りを固める。


 戦場の混乱がやや収まると光忠、杜畿の隊も到着した。


 杜畿が着陣早々に秀満の下へと挨拶と礼を兼ねて訪れ滞在していると、高幹軍も態勢を整え、秀満らの眼前に現れた。


 すわ開戦か、と軍を臨戦態勢に移行する。

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