「父上、また奴らが現れました」
「
昌信が嫡子の信達に命じる。
「承知しました」
信達は早速兵を率いて、史渙隊への攻撃に向かった。
昌信は不意の事態に備え、すぐにでも出陣できるよう、馬上で待機していた。
信達は父譲りの優れた騎乗術で史渙隊を切り裂いていく。
「ふん、大将は高みの見物か」
信達の前に、戟を持つ男が立ちふさがった。
「貴様らごとき、父の手を煩わせるほどでもあるまい」
そう煽りつつ、撃ち掛かる。
「ほう、大将の子であったか。ならばこの史渙の手柄としよう」
史渙は信達の攻撃を軽々しく受け止めて、反撃した。
信達は変幻自在の戟の攻撃を避けるのに精いっぱいで、周囲の状況に気づけないでいた。
迎撃を指示された史渙の兵が、信達とその兵たちを追い払っていっているのだ。
「そろそろ首を置いていけ」
史渙の攻撃が激しさを増していく。
信達の部下は多くが討たれ、逃げ、または信達を庇い、周囲には数えるほどしか残っていない。
その信達自身も史渙に押されまくり、傍目に見ても討死は時間の問題であった。
「信達退け!」
史渙隊の動きが変わったことに気づき、兵を出した昌信が救援に現れる。
だがこの戦況をひっくり返す術はなく、自身が囮となり信達を逃がすしかできなかった。
逃げる昌信は史渙隊を引き連れ、戦場を駆け回る。
この動きは当然目立ち、馬場隊の一部が救出に動いた。
その動きに呼応して張遼隊も張汎を出撃させる。
帰陣した信達も父の救助に兵を出す。
いつもの小競り合いが一転して、混戦模様と化した。
「許褚隊、曹純隊を投入せい」
戦場を眺めていた曹操が指示を飛ばす。
許褚隊が韓浩隊後方から飛び出し、昌景隊の横合いから突っ込む。
曹純の虎豹騎が春日信達の部隊に突進する。
「なかなかやりよる」
信玄も高台にて戦局を眺めていた。
「
ついに信玄も本隊を動かした。
勇猛で鳴る
謀将と名高い
信綱は三尺三寸ほどの大刀を奮う豪傑で、昌輝は勇猛果敢の将として知られていた。
「真田の戦、存分に味わせてやろう!」
信綱は大刀を肩に掲げ持ち、まっしぐらに許褚隊を目指し駆けていく。
昌輝と配下の兵たちも、大将に遅れまいと我先に、と後に続た。
「我は山県殿の援護に向かう。昌輝は信達の方へ向かえ」
信綱は昌輝の部隊を切り離し、各々目標へと猛進した。
「信綱参る!」
視線の先には信綱が隠れてしまうほどの体躯と、信綱の大刀に劣らないほどの大きな金棒を小枝でも振るように軽々と扱う巨漢がいた。
許褚はその殺気に気づき、雑兵を捨て置き、騎馬武者に対し身構える。
次の瞬間、戦場を沈黙させるほどの轟音が響き渡った。