「これが曹孟徳という男か」
面食らった反面、曹操という男に素直に感嘆し敬意を表した。
「信春に昌景隊の援護に回れと伝えよ。張遼は儂が押さえる」
信玄は伝令を走らせると同時に、本隊の出立を言い渡した。
「昌景様、新手です!」
韓浩隊を追い払っている昌景に側近が告げる。
「韓浩とやらの相手も飽きた。あとはおぬしが指揮せい」
昌景は側近に命じると、自隊の騎兵千騎を率いて、新たにやってきた敵部隊と対峙した。
「なんだ、小僧ではないか」
敵大将を見かけるが、図体は大きいがまだ若く、昌景は戦う気が薄れた。
「殿、あれは曹操の息子ですぞ」
「なんと。ならば大手柄ではないか。良かろう」
昌景は一歩前へ踏み出し、
「我は山県昌景。曹操殿の子息とお見受けいたす。お相手仕ろう」
と、名乗りをあげる。
「儂は猛獣すら素手で倒す男だぞ。貴様のような形の小男など相手にならぬ。失せろ」
曹彰はこともあろうに昌景を侮り辱めた。
「童、礼儀から教えてくれよう」
昌景は烈火のごとき怒りをわざと見せた。
これを見て曹彰はさらに昌景を軽んじる。
「武田騎馬隊参る」
昌景を中心に赤い火の玉のような軍勢が曹彰隊への突撃を開始した。
「そのような少勢で突撃とは。迎え撃つ!壊滅せい」
「童、戦は力の強さだけでは勝てぬぞ」
昌景は曹彰隊の目前で破裂したかのように分散した。
分かれた一騎一騎が流星の如き速さで曹彰隊に続々と突入していく。
目標を寸前で見失った曹彰隊はこの流星群の攻撃に対応しきれないでいた。
易々と突破を許し、陣形も維持できずに崩れていく。
「大口を叩いた割にはたいしたことのない」
気づけば曹彰の眼前に昌景が立ちふさがっていた。
「貴様!」
曹彰が構えていた槍を数度突き出す。
昌景はその全てをいなし、受け流した。
「攻撃も単調すぎる」
「くそっ!」
再び曹彰が槍撃繰り出した。
「無駄だ」
槍は昌景の体をかすりもしない。
「槍も力任せに振るっているだけにすぎぬな」
昌景はそういうと手元の槍を突き、曹彰の肩を貫いた。
曹彰は激痛のあまり槍を手放したが、それでも昌景に背を向けることはせず、歯を食いしばり、目を血走らせ昌景を睨みつけた。
「童の命など取るに値しない。退け」
だが、怒りの収まらない曹彰はその場から去ろうとしない。
それどころか、
「蔑むな!」
と、馬をぶつけてくる。
「馬の振動さえ痛かろうに。その気力だけは誉めてやろう」
昌景は拳で曹彰の負傷した肩を打った。
曹彰は悶絶し、落馬する。
曹彰の危機を見受けた部下が集まり、落馬した曹彰を囲み円を組み守る。
昌景は悠々と兵を退かせ、韓浩と戦っている部隊と合流した。
僅かな数の昌景隊により崩壊させられた曹彰隊は、大将を収容し本隊へと戻っていった。
同様に韓浩隊も半壊し退却を余儀なくされた。
昌景隊は次なる敵を求め、許褚隊に襲いかかった。
大将の許褚は信綱との力比べから手を離せず、隊は簡単に崩せるかのように思えた。