「何かあった時の責任は取れるのであろうな?」
信繁の話し方や言葉尻から勝頼との確執が見え隠れする。
何があって、どんな理由で不仲なのかはわからない。が、これは使える、と守就は内心ほくそ笑んだ。
「当然全ての責任は儂が負う。叔父上や信勝に迷惑はかけぬ」
勝頼が信繁に返答する。信勝信勝、と守就はその名を心の中で連呼し思い出した。
勝頼の息子の名前が
その信勝と勝頼、勝頼の弟で信玄の五男の
そのため何度も話し合いを重ね、信勝を正統な後継と定め、勝頼には幼い信勝が成人するまでの暫定的な後継者とすることに決着していた。
これは遺言として勝頼にも伝えられており、信玄没時信勝はまだ数えで七歳であったため、勝頼が家督を相続した。と伝え聞いた記憶が鮮明に蘇る。
信勝派と勝頼派の権力闘争といった所か、と守就は不仲の要因を嗅ぎ取り悦に入る。
「さあ守就。ここは居心地が悪かろう。儂の部屋へ参るとしよう」
勝頼は守就の手を取り連れ出した。勝頼の部屋には二人の老臣が座していた。
二人は
信玄没後に勝頼派であったため権力を握るも、武断派の馬場・山県といった家臣らとの折り合いが悪く、長篠合戦でも織田・徳川連合軍との戦いを積極的に進めた。
そのせいか、こちらの世界では、武田滅亡までの話を聞いた信玄や他の家臣らにも蔑まれており、肩身の狭い思いをしていた。
守就もより勝頼の信頼を得るべく信長・信忠らへの不満を、罵るように連ねる。
これに気を良くしてか長坂と跡部らも更に武断派への不満を口にした。
そこへ守就を訪ねて二人の男が門前に来ていると報告が入る。
守就はすぐに思い当たったが、勝頼らはこれに疑惑の目を向けた。
「守就!どういうことか?」
「どうもこうも……道中を共にした者らが儂の仕官先を知り訪ねてきただけであろう」
守就はなんとか取り繕うように言い訳するが、疑惑は拭い去れない。
「その二人を連れて参れ」
勝頼の指示により、司馬懿と賈逵が通された。
守就の苦々しい顔に対し司馬懿は涼しい顔を、賈逵は怯えた表情を見せる。
「おぬしら何者だ?」
勝頼は連れられてきた二人に居丈高に問いかけた。
「そちらにいる守就殿と旅をして参った浪人でございます」
司馬懿はなんら一切の動揺もみせずに答える。
「何をしに参った?」
「守就殿がこちらへ仕官なされたようなので我らもそろそろと思いましてな」
司馬懿の威風堂々とした姿からは、嘘偽りは見受けられない。
「胆の座った男だな。気に入った」
「と、殿!」
長坂と跡部が慌てて止めに入る。
ただでさえ肩身が狭く、その上守就の存在が怪しまれているのに、そこへさらに得体の知れない者を取り入れるのは上策とは言えない。