「話はなんだ?」
隙だらけに見えるのに、どう攻撃しても刃が届かないような危険な感じがする。
ここは無理に攻撃するよりも相手の話に乗って隙をうかがおうとトモナリは考えた。
「うん、お話ししてくれる気になったのは嬉しいな」
スラーサはニコニコとしている。
トモナリが感じるような気配をヒカリも感じているのか、緊張した面持ちである。
どこかで戦うような低い音が響いてきた。
やはりここは終末教の拠点なのだろう。
「私の仲間にならない?」
「終末教になれっていうのか?」
「その通り。あなたが望むならなんでもあげるわ。お金も地位も名誉も必要なら女性で男性でも。その代わり正しい終末に世界を導くお手伝いをしてほしいな」
「そもそも……正しい終末とはなんだ?」
トモナリはずっと気になっていた。
終末教は正しい終末を迎えることを教義としている。
だが正しい終末がなんであるのかよく分かっていない。
世界が滅びるだけが正しい終末であるというのなら余計にそんなもの目指す理由がない。
「……正しい終末を正しく理解している人は少ないでしょう。あなたになら教えてあげます」
「……そりゃどうも」
「私たちが目的としていることは98個の試練ゲートを攻略すること」
「…………9……8?」
世界に現れる試練ゲートの数は99個である。
それら全てを攻略できなければ世界は滅びてしまう。
なぜ98個と一つ足りないのかトモナリは眉をひそめた。
「正しい終末は90番目のゲートによってもたらされます。それ以外のゲートは全てゴミ……正しい終末を妨げ、新たな世界への移行を邪魔する存在なのです」
「90番目のゲートだと?」
「そうです」
スラーサは屈託のない笑みを浮かべるが、トモナリにはそれが奇妙に映っていた。
「正しい終末を迎えることで新たなる世界への扉が開かれる。正しい終末を迎えたものは新たな世界を創造し、次なる歴史の第一歩となる。90番目のゲート以外全てのゲートは偽りの扉、開いていては正しい終末を妨げるもの。98個のゲートを消滅させ、正しい終末を迎えて新たなる世界を迎える。これこそが、我々の真の教義」
「一体……90番目のゲートに何があるんだ?」
「我々を導く存在がいます」
スラーサは笑顔を浮かべている。
しかし目は笑っていなかった。
「正しい終末を迎えようとする真なる求道者を新たなる世界に導いてくださる大いなる存在がいます」
イカれてるなとトモナリは思った。
けれども正しい終末を目指すというものが、なんなのかは少し分かった。
これも試練ゲートによる一つの影響だったのだとようやく終末教の存在を理解した。
「今では組織が大きくなりすぎました。正しい教義を理解しているのは元々少数のものなので多少のブレはありますが、そうした人も私たちが、そしてあなたもその一員となって導けばよいのです」
確かに終末教が口にする教義には多少の幅がある。
正しい終末を目指すというところは一致しているけれど、どうするのかというところで少し言葉が違ったりする。
あるいは多少言葉をぼかすことでより広く人を受け入れられるようにしているのかもしれない。
「なんで俺なんだ?」
今戦いに出ている人でトモナリよりも強い人は多い。
そんな中でどうしてトモナリをわざわざこんなふうに呼び寄せてスカウトするのか謎である。
「あなたはドラゴンを連れているでしょ?」
「まあ……」
「正しい終末を邪魔する存在にはドラゴンもいる。それだけドラゴンは強大で、邪魔な存在……でもそんな存在が味方になってくれればこれほど心強いことはありません」
やはりヒカリが目的か、という思いはあった。
「ドラゴンの将来性、そしてそんなドラゴンを支配下に置くあなたの力に私は期待しています。あなたが我々の仲間になってくれるなら幹部クラスはお約束いたします。我々が支援いたしましょう。もしかしたらあなたは新たなる世界の指導者になれるかもしれません」
ヒカリの存在だけではなく、ヒカリと契約を交わしたトモナリの能力も買ってくれている。
「むむむ……トモナリは渡さないのだ」
「ふふふ……そう怖い顔しないで」
ヒカリが睨みつけてもスラーサはただ微笑むだけ。
「どうかしら?」
「魅力的なお誘いだな」
「トモナリ!?」
やってることは危ういが、世界中で活動していることやこんな大きなフロント企業を持つような力がある。
下手すると中国に行くよりも大きな支援を受けられる可能性すらある。
「だが俺は終末教に入るつもりはない」
「トモナリィ!」
驚いたりウルウルしたりとヒカリも忙しい。
トモナリはもちろん終末教になんか入るつもりはない。
正しい終末のことは分かったけれど、回帰したトモナリは知っている。
終末教が正しい終末なんて迎えることなんてないのだ。
今と同じようにアメリカが中心となって終末教と戦い、そして終末教は滅びることになる。
アメリカ側も終末教の抵抗で多くの人を失い、人類滅亡の一因ともなってしまう。
「残念ね。でも私の提案はずっと有効よ。あなたが死ぬその時まで、ね」
答えが分かっていたかのようにスラーサは微笑んでいてショックを受けた様子もない。