ダンジョンボスを倒した俺たちは、見事にダンジョン踏破を成し遂げたことになる。
最奥に出現した光の裂け目がやけに懐かしい……。
「結局これをくぐるのは初踏破以来だな……」
「別にいいじゃないですか! そんなに急ぐこともありませんよ!」
ボロボロの服装のフィーナが片手で身体を隠しつつも、もう片方の手をぶんぶん振って俺を元気づける。
「そうよ。みんなそれぞれのペースで冒険してる。危ないことだもの。急いじゃダメよ」
「ほら! アビーさんもこう言ってることですし!」
「わかったよ。じゃあ、帰ろう」
俺たちは光の裂け目の中へと進んでいった。
そして気づけば、俺たちはタセフィ区の平原に立っていた。
「ふぅ、もう結構時間経ってるわね」
既に日は昼を過ぎているように見える。早朝から挑んでいたのに、もう午後三時くらいになっているんじゃないか。
「みなさん……ほんっとうに申し訳ありませんでした!」
フィーナが深々と頭を下げる。
「あら、なにかしら?」
「なにって! オレが酔っ払ってダンジョンに入っちゃったんじゃないですか……。それで、みなさんに迷惑かけて……」
「何言ってんのよ。助かって良かった、でしょ。言うなら謝罪じゃなくて謝礼よ。あ、勘違いしないでよね! 謝礼っていっても報酬が欲しいって意味じゃないんだから!」
「あ……ありがとうございます! みなさん!」
「フィーちゃんが無事で……ほんとうによかった……」
カルアが胸を撫で下ろしながら言う。
「でもほんとに良かったよ。まさか居なくなってると思わないからさ……」
「うぅ……これからはお酒は控えますから……」
「好きな物を控える必要なんてないよ。ただ、次からはしっかりお前のこと見てなきゃな」
「ご主人様ぁ!」
フィーナがうるうると瞳を湿らせながら俺の腕に抱きついてくる。
「おいおい……カルアに怒られるぞ」
「ん……別に、いいけど」
直視はしないもののカルアはそんなふうに言って髪を弄っている。
「いいの?」
「マークは……いい」
「よくわかんないけど……」
「オレ、昨日ご主人様とのことカルちゃんに話してたんですよ。だから……」
「……フィーちゃんの、命の恩人……なんでしょ? フィーちゃんが慕うのも……わかるから」
意外と物分りがいいな。少し調子が狂うが……。
「ほら、おぶってやりなさいよ。こんな格好で歩かせるわけにいかないでしょ?」
「あ、あぁ……」
フィーナを背中におぶり、ギルドを目指した。
「お疲れ様でぇ〜……は、はうあっ!!」
出た。色ボケ衛兵さん……。
「こ、今度はそんな人数で……何考えてるんですか!!」
「あなたが何考えてるんですか……」
呆れたように俺が言うと、衛兵さんはメンバーの顔を見回す。
「あら、酒場のアップダウンシスターズじゃないですか」
「なんそれ……」
「あぁ、あたしたちの異名みたいなものよ。私たち姉妹の性格の対比でいつしかついたものね」
かっけェな……。
「フィーナはね、あたしたちの新しい姉妹になるのよ」
「そうなんですか!?」
「そう……カルアと……けっこんするから……」
「ええええぇぇええ!!」
衛兵さんはまんまと信じ込んで絶叫している。
「お、おい……あんまりからかうなって……」
「…………からかう?」
あ、マジなんですかこれ。
「フィーナ? ほんと?」
「……そ、そのぉ……昨日酔っ払っててあんまり憶えてないんですけど……そんなふうな話もあったようなぁ……」
俺が訊くと、やはりというか曖昧な返事をした。
「おいおい! 酔ってるやつに言わせるのはダメだろ!」
「む……言質は、とってあるから……」
「酔っ払ってるからだめ! ノーカン! ノーカン!」
「……ち」
カルアは小さく舌打ちする……。
「なぁんだ。じゃあこのフィーナさんはやっぱりマークさんと好い仲なんですか?」
「……これ以上ややこしくするのやめてくれませんか」
質問攻めを続けようとする衛兵さんをいなしてギルドへ入った。
「あ〜、久々に外でたら疲れちゃったナ」
酒場に入って早々アビーが伸びをする。
「……ていうか、もうすぐ開店……」
夕方から運営を開始する酒場は今からが大変なところだ。
「そうじゃん……カルアは昨日寝てたけどあたしは……」
「……頑張ろ」
カルアはアビーの肩を叩いて励ます。
「あ、あのっ!」
そんな時、フィーナが声を上げる。
「もし……もし良かったら、オレに働かせてもらえませんか?」
「えっ!」
「フィ、フィーちゃん……ついに……?」
「いやそうじゃないですけど! でも、助けてもらったお礼がしたいんです。だめ……ですか?」
そうだ。こいつはそういう奴だった。
俺の従者のようなものをしているのもそういう理由からだった。
「いいんじゃないか? 俺からも頼むよ。……将来のためにもさ」
「もっ……もー! ご主人様まで! でも、ありがとうございます。改めて……ここではたらかせてください!」
「……いいよ。むしろ、お願いしたいくらい。お姉ちゃん、もう疲れてるだろうから……」
「ふん! あたしだったら全然平気だけど? ……でも、フィーナ。あんたがちゃんとここで働けるか見させてもらいたいし、許可するわ!」
「ありがとうございます!」
言い方には多少の照れ隠しは含まれているがアビーもフィーナについては歓迎している様子だ。
「じゃあ早速お母さんにご挨拶に行くからついてきなさい!」
「まずは……制服、着せる……」
「あ、じゃあご主人様……またあとで……」
フィーナは俺に手を振ると、アップダウンシスターズに挟まれて連行されていった。