今日はハルキと約束をしている日。
待ち合わせの五分前に玄関を出ると、既にハルキは家の前で待っていた。
「おっ、おう。――近所に綺麗な川があるんだけど、自転車で一緒に行かないか?」
地球の女性はどう思うか分からないが、私にとっては素敵な提案だった。家から自転車を持ち出してくると、ハルキは私に帽子を差し出してきた。
「サリアちゃんが帽子被ってるの見たこと無いけどさ、もし良かったらって思って。使ってくれるなら、これ……プレゼント」
帽子……これは、キャスケットという形らしい。私は礼を言って、その帽子を被ってみた。
「どう? おかしくない?」
「ぜ、全然おかしくない。——似合ってる、とても」
ハルキを先頭に、目的地の川へと自転車を漕ぎ出す。私は漕ぐのが遅いと思っているのか、ハルキのスピードはやたらと遅い。
「ハルキ! 私、こう見えて結構速いんだから!」
私は勢いをつけて、颯爽とハルキを抜き去った。グングンとスピードを上げる私に、「待て!」と追いかけてくるハルキ。私はハルキの言うことを聞かず、更にスピードを上げていく。
「まっ、マジで待て! さっきの道は左だ!!」
慌てて急ブレーキをかけると、私の自転車は悲鳴を上げた。
***
「よかった、良い天気で。――綺麗だろ、この川」
私たちは並んで川の土手に座る。眼の前の川面を、カモの親子がスイスイと通り過ぎていった。
「帽子、ありがと」
「い、いや、全然」
「――それで? 今日の話って」
ハルキは「ああ……」と言ったまま、なかなか切り出さない。レクトが言ったように、本当に告白を考えていたりするのだろうか。
「あのさ……一人でゴミ屋敷掃除に行ってくれた日の事なんだけどな」
思いもしなかったハルキの言葉に、心臓がトクンと脈を打つ。それは、私がイレイズで鉄骨を消し去った日……
もしかして、ハルキは気付いている……?
「あの日、事故現場で鉄骨が消えたじゃないか。その時の動画があるのは知ってるか?」
「う、うん……レクトたちに見せて貰ったから」
「じゃ、その動画にサリアちゃんが映っていたことは?」
返事の代わりに、私は小さく頷いた。
「テレビニュースでは取り上げなくなったけど、ネットでは今でも調べてる奴が結構いるんだ。それで――」
それで……?
また、ハルキが言い淀む。私は黙って、ハルキの次の言葉を待った。
「そこに映っているサリアちゃんが超能力者じゃないかって。サリアちゃんが右手から、何かしらの力を発生させたんじゃないかって。そのシーンを何度もスロー再生なんかしてな。――それで、探し回ってるんだ。そいつらがサリアちゃんを」
「わ、私を!?」
「そう。実は昨日も、この辺りじゃ見かけないような奴らがウロウロしててな。事故があった周辺だけじゃなく、この辺りでも探し始めてる奴がいる。――でも幸いな事に、サリアちゃんが映っていたのは後ろ姿だけだ。だから、髪型とか髪色を変えたら気づかれないと思う。――多分だけど」
「――もしかして、帽子をくれたのも、それが理由?」
「あ、ああ……ごめん。先に言ったほうが良かったか」
「ううん、そんな事無い、ありがとう……」
その後、私もハルキも黙り込んでしまった。
私がやっていないのであれば、全力で否定するか、バカバカしいと大笑いでもしているところだろう。
だけどこんな時、私はとても不器用になる。