なにはともあれ、こうやって凛子と一緒に配信をしながらダンジョン攻略を再開できるのは嬉しいことだ。
頭を抱えて苦悩する担当医の姿が思考の隅にかすかに浮かんでくるような気がするけど、それはもう考えなかったことにしてしまおう。
「それじゃ、さっそく修行を始めましょう。まずは、魔力を垂れ流すところからかしら」
「う、うん……。できれば垂れ流すんじゃなくて、その場に留めたりしてみてほしいんだけどね」
「むぅ、難しいことを言うわね。まっ、とりあえずやってみてから考えましょう」
言いながら意識を集中させると、私はこの間と同じように全身から無色の魔力を溢れさせていく。
身体中から立ち昇るように溢れだした魔力は陽炎のようにゆらゆらと空気を揺らめかせるけど、病室の時のように空気を震わせたりはしなかった。
「うん、安定してるわね。この間は一気に出しすぎて危うく部屋を壊すところだったから出す量を調節してみたけど、正解だったみたい」
さすがにダンジョンが壊れたりなんかはしないだろうけど、それでも揺れや衝撃の余波でフロア中からモンスターが集まってくるなんてことは十分にあり得る。
そうなっても別に問題なく処理できるのだけど、ただ果てしなく面倒なことになるのは目に見えて明らかだ。
「あとは、これをどうやって攻撃に使うかよね。今のままじゃ、なんの効果もないただの魔力だし」
「うーん、そうだなぁ……。私だったら適当な属性の魔力に変えちゃうけど、穂花ちゃんはできないんだもんねぇ」
「ええ、無理ね。属性を変えるとか、たとえ天地がひっくり返ってもできる気がしないわ」
そもそも、どうやればいいのか見当さえつかない。
”穂香ちゃんにもそんな弱点があったとは”
”言うほど弱点か? 魔法が使えなくても物理で大体のことを解決するような女だぞ”
”そもそも簡単に言ってるけど、これに関してはリンリンちゃんのほうが異常だから。なんだよ、適当な属性の魔力に変えるって。俺もできねぇわ”
”そういえばこの子、魔法に関しては化け物クラスなんだった”
「あっ! だったらそれを纏わせたまま攻撃してみるとか? 上手くいけば、触れないようなモンスターにも攻撃が当たるかも」
「なるほどね。問題は、そう都合よくそんなモンスターが現れてくれるかだけど……」
なんてことを話していると、不意に離れた所から何かの気配を感じた。
その気配に反応してそちらへと視線を向けると、そこにはまさに今の状況にぴったりのモンスターの姿があった。
「ソルジャーシャドウじゃない。中層にコイツが出現するなんて、珍しいわね」
まるで中世の兵士のような形をした黒い影は、そのうつろな瞳でジッと私たちの様子を伺っていた。