ソルジャーシャドウ。
それはその名の通り、影の身体を持った兵士の姿をしたモンスターである。
もちろん影の身体を持つということは、物理攻撃がほとんど効かないモンスターでもある。
そのため、まだダンジョンに慣れていない中層に入りたての探索者にとって最悪の相手としても知られている。
といってもソルジャーシャドウの出現率はかなり低いから、そこまで心配するようなモンスターではないのだけど。
「それにしてもまさか、こんなに狙い通りのモンスターが出てくるなんてね。日頃の行いのおかげかしら」
「どうだろう? どっちかっていうと、穂花ちゃんの魔力に引き寄せられただけな気がするけど……」
そう言われてみれば、ソルジャーシャドウはまるで酒に酔っているかのようにフラフラとしながら私の方へと近寄ろうとしているような気がする。
「もしかして、ソルジャーシャドウって魔力が好きなのかしら?」
もしそうなんだとしたら、これからも狙ってソルジャーシャドウを呼び寄せることができるようになるかもしれない。
「問題は、それができるようになったからどうという話なんだけどね」
ソルジャーシャドウは出現率が低いわりに、倒してもなにもドロップしないうま味のないモンスターとしても有名だ。
そのうえ物理が効かずに倒しにくいせいで、「中層で最も出会いたくないモンスター」の名をほしいままにしている。
「だけど今の私にとっては、一番会いたいモンスターと言っても過言ではないわね。さぁ、実験の始まりよ」
魔力を放出したままメイスを取り出すと、そのメイスの頭に巻きつけるようにしながら魔力を纏わせていく。
「んんぅ……。けっこう難しいわね、これ」
気を抜けば霧散して空気に溶けるようになくなってしまう魔力に四苦八苦しながら、眉を寄せながら何度も繰り返し魔力を纏わせる練習を続ける。
その間にもすぐそこにまで接近してきたソルジャーシャドウが影でできた剣を振り回して攻撃してくるけど、それはスッと私の前に割り込んだ凛子が防いでくれている。
そうやって、どれだけ時間がかかっただろう。
「なるほど、こうやればいいのね。やっとコツが分かってきたわ!」
何度も試行錯誤を繰り返したおかげで、私はついに魔力をメイスに纏わせることに成功した。
「ありがとう、リン。もう大丈夫よ」
ずっと私を守ってくれていた凛子に声をかけながら一歩踏み出すと、そのままメイスでソルジャーシャドウの頭をぶん殴ってみる。
本来であれば、ぶつかることもなくただその身体をすり抜けるだけのはずのメイス。
それが、魔力を纏わせただけで寸分違わずソルジャーシャドウの頭を軽々と粉砕してしまった。
「やった! 実験大成功ね!! リンの言う通り、魔力を使えば触れられないモンスターでも殴れるようになるみたい!」
これで、今まで倒すことが難しかったモンスターでも普通に倒せるようになった。
その喜びに、私は普段あまり出すことないような明るい声を上げて喜びを露わにする。
「ふふっ。良かったね、穂花ちゃん」
そんな私の姿を見て、凛子はまるで自分のことのように嬉しそうに微笑んでいた。