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第95話

「それにしても、魔力って面白いのね。今まで触ってこなかったのが、もったいない気がするわね」

 まるで新しいおもちゃを手に入れた子供みたいにキラキラと瞳を輝かせながら、私は何度も魔力を纏ったメイスを振り回す。


 ”めっちゃ嬉しそうで草”

 ”穂花ちゃんが楽しそうで、俺たちも嬉しいよ”

 ”リンリンちゃんの表情が、なんだか子供を見守る母親みたいになってるw”


 うん、まぁ気づいてたよね。

 凛子からの生暖かい視線を全身に浴びながら、それでも私は喜ぶことをやめない。

 どうせいまさら取り繕っても意味ないし、私はただ自然体な姿をみんなにお届けしていこうと思う。

 なんて言い訳をして恥ずかしさを紛らわせながら、私は仕切り直すようにひとつ咳ばらいをする。

「んんっ……。ところで、これってこうやって殴る以外に使い道とかないのかしら? どうせだったら、もっといろいろと活用してみたいんだけど」

「うーん、どうだろう? 別に私も、そこまで魔力に詳しいわけでもないし……」

 話を変えるための質問に、凛子は腕を組みながら首をかしげて唸る。

 その間にも、私はいろいろと試してみることにした。

 まずは魔力をメイスだけでなく全身に纏わせてみると、なんだか少しだけ身体が軽くなったような気がする。

 といっても、それは気のせいだと言われても分からないような微々たるものだ。

 その状態で適当なモンスターからの攻撃をわざと受けてみると、身体を覆う魔力はその攻撃を簡単に受け止めてしまった。

「へぇ、こんな風に防御にも使えるのね。これなら、防具をつけなくてもある程度なら身体を守れそう」


 ”すごっ!? これを使えば防具いらずじゃん!”

 ”防具を揃えるお金もない初心者にとって、かなり有用な使い方だろ”

 ”問題は、それくらいの初心者が習得できるような技術じゃないってことだよな”

 ”いやいや、意外と中級者とかも使えるぞ。ケチって防具を新調しない奴とか、この技術があれば死亡率下がるんじゃね?”

 ”こうなったら、管理局はこの技術を必修科目にするしかないな”


 この結果に、コメントたちは浮足立つように盛り上がっている。

 とはいえ、私にとってはあまり意味のない使い道だ。

 そもそもモンスターの攻撃はできるだけ避ける戦闘スタイルだし、直撃してケガをしたとしても修復スキルで一瞬にして直すこともできる。

 だから、魔力を使ってまでわざわざ防御力を上げる必要なんてないのだ。

「まぁ、そのうち使うこともあるかもね。他には……、逆に全力で噴き出させてみたらどうかしら?」

 今までは身体の周りで保つことばかり考えていたけど、今度はその逆だ。

 抑えるのではなく溢れさせるように、ただ身体から放出させてみたら面白いんじゃないだろうか。

「というわけで、念のためリンはカメラと一緒に距離を取ってくれるかしら?」

「うん、分かった。……先に言っておくけど、無茶はしないでね」

 不安そうな表情を浮かべながら距離を取る凛子に笑顔を見せながら、私は再び意識を魔力へと集中させていく。


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