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第99話

 翌日、私たちは再び管理局に呼び出されていた。

 と言っても、その理由は昨日の地震騒動の話ではない。

 ついでに言えば呼び出されたのは私であって、凛子はその付き添いである。

 それでも、「穂花ちゃんをひとりで行かせたらまた騒動が起きそうだから」という理由で彼女も半ば無理やり同行してきたのだ。

 なんとも解せぬ言い分だけど、私にだって多少は自覚もあるのでおとなしく受け入れたというわけだ。

 そうしていつも通り受付まで行くと、私の顔を見るなり小春さんは申し訳なさそうな表情で頭を下げた。

「ごめんね、昨日の今日で呼び出しちゃって」

「ううん、大丈夫よ。小春さんだって仕事なんだし、どうせ私たちもダンジョンに来るつもりだったから」

 そもそも別に呼び出したのは小春さんじゃないし、むしろ突然の呼び出しにほぼ確定で機嫌の悪い私を出迎えるなんて役まで振られた彼女もまた被害者だろう。

 そんなわけでなんの罪もない彼女と軽く言葉を交わしそのまま雑談に興じていると、私たちの到着から少し遅れてふたりの男がこちらへと近づいて来た。

「どうも、不知火さん。突然の呼び出しにも関わらず応じていただき、ありがとうございます」

「いえいえ、拒否するのも面倒だったから仕方なく。私って、面倒なことは一気に済ませちゃうタイプなので」

 管理局からの仕事として私たちを迎えることになった小春さんと違って、このふたりは私を呼び出した張本人たちである。

 ゆえに気を使ってやる理由は毛ほどもない。

「私なんかよりも、あなたたちの方がよっぽど忙しいみたいで。人を呼び出しておいて相手より遅れてくるなんて、よっぽどスケジュールが詰まってるのね」

「いやぁ、これは手厳しい……」

 出会い頭に吹っ掛けてみれば、少し引き攣った表情を浮かべて笑う初老の男。

 そんな初老男の少し後ろにいた男は、不機嫌さを隠そうともしない表情を浮かべたままフンっと鼻を鳴らす。

「当たり前だろう。俺はお前たちガキどもと違って、やらなくてはならない仕事が山ほどあるんだ。その貴重な時間をお前たちに使ってやるんだから、ありがたく思ってもらわないと」

 ……なんだ、このバカは?

 そもそも呼び出したのはそっちで、貴重な時間を割いて応じてやったのはこちらの方だ。

 私の嫌味の意味すら理解できずに、それどころかこうまで偉そうな態度を取れるなんて。

 きっとよっぽどの大物か、それか底抜けの馬鹿なのだろう。

 すでに呼び出しに応じたことを後悔し始めた私に向かって、バカはさらにこちらを睨みつけながら声を荒らげる。

「そもそも、本来ならそちらから謝罪に来るのが筋じゃないのか? それすら分からないとは、やっぱりガキは常識が足りなくて困るな」

「も、盛岡さん……。少し落ち着きましょう。ここでは、人の目もありますし」

 はたから見ればこの光景は、大の大人が女の子ふたりを恫喝しているようにしか見えない。

 初老男の指摘で周りからの視線に気づいたのか、男は小さく舌打ちをする。

「チッ! だったら場所を変えるぞ。早くしろ、俺は忙しいんだ」

 そう男が吐き捨て、私たちは小春さんに案内されるがまま受付の奥にある応接室まで移動することになった。


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