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第122話 一也の記憶編④~魂の交わり~

「おそらく、この世界にいた一也さんの魂があなたの魂へ干渉したんですよ」

「この世界の俺?」

「はい。あなたが来るまでこの世界で生活をしていた人です」


 この世界の俺のことなんてレべ天に言われるまで考えたこともなかった。


(ゲームを楽しみにしていたり、剣士中学校に合格するなど、冒険者に憧れをいだいていたはずだ)


 俺は数か月前にこの世界に来たばかりのことを思い出していた。

 そんな時に4人が歓声のような声を出す。


「やったぞ!! バフォメットを倒した!!」


 佐々木さんが叫ぶように杖を振り上げながら喜んでいた。

 バフォメットは地面へ倒れており、黒い煙を出して消えようとしている。


「まずい!」


 俺はすぐにテレポートを行い、バフォメットへ近づいた。

 消えそうになっているバフォメットから強引に鎌を奪う。


「危なかった……」


 鎌まで消えてしまったらもったいないので、消えないように回収した。

 4人は突然現れた俺に驚き、花蓮さんが剣を突き付けてくる。


「次はあなたが代わりに戦うっていうの?」

「そういうことじゃなくて、この鎌を回収しただけですよ」


 花蓮さんが剣を降ろさないので、レべ天を呼んで部屋へ鎌を送ってもらう。

 鎌を不思議そうに見ていた真央さんが、鎌が消えた後に俺へ話しかける。


「あの鎌って必ず落とすんじゃないのか?」

「最初に落としてから何十回か倒しましたけど、強引に奪わない限り残らなかったです」

「何十ってお前……」


 真央さんが回数を聞いて頭をかかえた。

 興味深そうに佐々木さんが鎌について聞いてくる。


「きみはあの鎌がそんなに欲しい物だったのかい?」

「鎌がアダマンタイトでできているので、溶かして他の防具にしています」


 俺の言葉を聞いた瞬間、佐々木さんが杖を落としそうなくらい驚いて俺を見た。


「さっきの鎌が1キロ10億するという、アダマンタイトでできているのか!?」

「そんなに高いんですね。ちなみに、黒騎士で着けている防具は全部アダマンタイトにしました」

「全部でいくらするんだ……」


 佐々木さんからアダマンタイトの値段を聞いて、他の3人は目が点になっていた。

 俺は杉山さんと相談をしている内容を4人へ伝える。


「余っている材料と、さっきの鎌でみなさんの武器を作ってもらうので楽しみにしてくださいね」


 4人は俺の言葉が信じられないのか、何も言わずに動こうとしない。

 この先に見たいものあると思うので、行くために促す。


「それよりも、この先へ行かないんですか?」


 俺はそびえ立つ富士山を見上げて、4人へ道を示す。

 花蓮さんが一番早くその言葉に反応する。


「行くわ。自分の足で富士山へ」


 花蓮さんが歩き出すと、佐々木さんと真央さんがその後に続く。

 なぜか夏美ちゃんが富士山を見上げたまま固まっていた。


「夏美ちゃん、行かないの?」

「え!? 行く! すぐ行くよ!」


 俺の声を聞いてようやく富士山から目を離して、夏美ちゃんも3人の後を追うように走っていった。


(いきなり富士山が現れて驚いたのかな?)


 そういえば、夏美ちゃんをつれて富士山へ来たことが無かったことを思い出しながら、俺とレべ天も4人の後を追う。


 4人は森を抜けた先で並ぶように立っていた。


「富士山!! 来てやったわよ!!」

「おおおおおおおおおおおお!!」

「きたぞ!!」

「弓でやりましたよ!!」


 花蓮さんが叫んだのとほぼ同時に他の3人も富士山へ向かって叫び始める。

 佐々木さんが杖を振り回しながら雄叫びを上げていた。


 その姿をレべ天が涙を流しながら見ている。

 4人が叫ぶのはいいとして、レべ天が泣いている理由を聞く。


「なんでお前が泣くんだよ」

「あなた以外に富士山へ届く人が現れて嬉しいんです」

「ここからが大変なんだけど」

「人類にとっては大きな一歩です」


 レべ天は、今まで俺以外に1度も富士山に近づかれなかったことが寂しかったらしい。

 4人が叫び終わったので、俺は後ろから声をかける。


「喜びましたか? 終わったら、そのまま進んでください」


 俺が言い終わると4人の動きがぴたりと止まり、全員がゆっくりと俺へ顔を向けた。


 バフォメットを倒してから時間が経っているので、不要だと思いながら体力を回復してあげる。

 真央さんが苦笑いで俺へ近づいてきた。


「一也、冗談だよな? さっきバフォメットと戦ったばかりだぜ?」

「本気ですよ。行かないなら突き飛ばしますけど」


 俺が拳を構えたら、真央さんが後ろへ一歩引く。

 逆に、夏美ちゃんが足を踏み入れようとしていた。


「この先には一也くんしか戦いに行っていないんだよね?」

「そうだよ。他の人は俺の空けた道を歩いただけ」

「なら、私は進むよ。ここで戦って弓で冒険者になれることを証明する」


 夏美ちゃんが進もうとした時、花蓮さんが夏美ちゃんを止めた。

 花蓮さんは剣を握り締めて、夏美ちゃんへ笑顔を向ける。


「夏美は後衛でしょ。前は私に任せなさい」


 花蓮さんも行くことを決めて、2人で富士山へ向けて歩き出す。

 真央さんが1度下を向いた後、2人の前へ出る。


「ここから先に出たら、ドラゴンがわんさか現れる。やってやろうか!」

「俺も魔力の続く限り全力で攻撃をする。無くなったら杖でドラゴンをなぐってやるさ」


 佐々木さんが持っていた杖を富士山へ向けながら言っていた。

 4人とも覚悟が決まったようなので、俺は安心させるように声をかける。


「やられても回復は俺たちに任せてください」


 俺が言った瞬間、4人からにらまれてしまった。


(善意で言ってあげたのになぜだ!?)


 佐々木さんが何度もえぐられたことのある脇腹をさすりながら俺を見る。


「頼むから死にかけるまで待たないで、すぐに治してもらえないか?」

「死にかけないとヒールがいつまで経っても上手にできないですよ」

「佐々木さん、行きましょう。死なないことが分かっていれば大丈夫です」


 決意の固まっている花蓮さんが佐々木さんに俺への苦情を止めるように言ってくれた。


 花蓮さんは前衛として戦い、何度死線を彷徨ったかわからない。

 片腕でもモンスターと戦う姿を見て、成長を感じることができた。


 花蓮さんを先頭にして、4人はドラゴンの群れへ戦いを挑みに行く。

 その様子を見て、レべ天がさらに泣き始める。


「これも嬉しいの?」

「当たり前です。全力でドラゴンを倒そうとしてくれているんですよ!」

「俺も倒したけど」

「それとこれは別なんです!!」


 しばらく進んだ4人の前方からドラゴンがあふれるように現れ始めた。


 花蓮さんと真央さんは率先してドラゴンへ向けて走り始める。

 佐々木さんと夏美ちゃんもドラゴンと戦うために2人に続く。


 俺は富士山を見ながら疑問に思っていたことを思い出した。


「それよりさ、なんで白龍は黒く染まったの? やっぱり放置されたから?」

「そんなことであの方があんなことになることはないですよ」


 レべ天はきっぱりと俺の言葉を否定して、悩み始める。

 ドラゴンと4人の戦いが始まると同時に、レべ天が話を始めた。


「あの方が黒くなってしまった理由は子供がいなくなってしまったためです」

「ここには誰も入ってきたことが無いんでしょ? どうやって?」

「あの子が勝手に山から出てしまって、それから行方がわからなくなりました」

「それであの姿になったの?」


 レべ天が憂うように富士山の頂上へ顔を向けている。

 当時のことを思い出すように話を続けた。


「……最後に助けてくれと私が子供の気持ちを感じたのが1年ほど前で、それからどこにいるのかわからなくなりました」

「それを白龍に伝えたら狂気に染まったということか」

「はい。それで、あの方をおさえられなくなる前に、あなたのいた世界から救世主を待つ時間にリミットをつけるしか選択が無かったです」

「そんなことがあったから急にゲームの終了が告げられたのか……」

「力不足ですみません」


 レべ天が下を向いて謝るので、そんなことはないと言いながら顔を上げた。

 綺麗な金色をした瞳を見つめて、俺はレべ天へ感謝を伝える。


「レべ天、俺はお前がここに俺を連れてきてくれて心から喜んだよ」

「……私は天音です」


 レべ天は顔をそらしながら俺から離れて、ドラゴンと戦う4人の応援を始めた。

 その横顔には笑顔が戻り、安心しているようだった。


 俺は7月の熱くなり始めた太陽の光をあびて、思わず太陽へ顔を向ける。

 陽射しが強く、今年の夏も暑くなりそうだと思い始めた時、声が響いてきた。


『あの子にお礼を言いたいんだ!!』


 自分の声が頭の中で聞こえ、混乱しながら頭を手で押さえる。

 俺と意識が繋がっているレべ天にも伝わったのか、驚きながら俺を見ていた。


 遠くでは佐々木さんが魔力切れになり、ストーンドラゴンに飛び乗って背中を杖で殴っていた。

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