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ep.19 ウェスト領事変②

「おっちゃん! ラーメンの替え玉三つ」


「あいよ! あんちゃん、いい食いっぷりだね~!」


 これで替え玉は十玉目だ。こいつは無限の胃袋を持っているけれど、私たちに無限のお金はない。そろそろ終わりにしてくれないと困る。


「替え玉三つお待ちっ!」


 たった今届いた替え玉もどうせ三秒後にはどうせ、


「おっちゃん! お代わり二玉!」


「リュシェ、お金なくなるからこれで終わりにして」


 私の耳打ちにリュシェは不満そうな顔をしたけれど、首を縦に振ってくれた。

 なんだかんだ言って常識は持ち合わせているのだ。


 お金を払い、店を出た後は宿探しだ。

 ラーメン屋で大分お金が減ったので、財布と相談しながら探さなければならない。

 近くの安そうな宿は……


「おい、ノア。あれ見ろ」


 リュシェが指さす先にあるのは城門だ。町に出入りする人を一人一人チェックしている。何の変哲もない門がどうしたというのだ。

 ちなみに、私たちは城壁を超えてきた。ウェスト領最大の城郭都市に侵入するのにはさすがに苦労した。


「城門がどうしたの?」


「違う。それじゃなくて、あの兵士たちだ。次々に外に出ていく」


 兵士? 遠目からでも、たくさんの人が門から出て行っているのは見えるけれど、全員普通の人に見える。変装? 

 逆探知される恐れはあるけれど、一瞬だけ魔力探知の範囲を最大まで引き上げる。

 近くの商店街、奥の住宅街、公園、城門……丁寧に練り上げられた魔力を待った人をたくさん感じる。

 でも、あそこにいる人たちは全員が一般人に見える。これは、


「秘密裏に動いているということ?」


「一般人に知らせないように、こっそり何かをしようとしている……」


「でも、なんで?」


 私の問いに、リュシェは険しい表情を浮かべる。手を顎にやり、ひとしきり悩んだのち、一つの結論を伝えてくれた。


「ノース領に戦争を仕掛けるのかも……あの門はノース領とつながっているはずだ」


 長年争い続けていたノース領とウェスト領、そろそろ雌雄をつけたくなったのかもしれない。

 最近も貿易でひと悶着あったみたいだし、十二分にあり得る可能性を導き出したリュシェに感動した。ポンコツだけど、元幻魔騎士団は魔法も頭も伊達じゃないな。


 それよりも、兵士がぞろぞろと町から出て行っている今は、


「「チャンスだ!」」


 セルフもかぶり、顔を上げたタイミングもぴったりだったので目もあった。つい笑みがこぼれてしまう。


「どこかで作戦会議をしないと」


 チャンスはうれしいけれど、少しタイミングが悪い。夕方に町に着いたばかりで、まだ右も左もわからない。唯一分かることといえば、町のど真ん中にある城に領主が住んでいるということだけだ。



 あれから少し時間がたって今は深夜。きれいな三日月が雲から顔をのぞかせている。

 私たちは今、領主の根城の周りに広がる庭園の植木に隠れている。


「ざっと三十人だな」


 三十人とは今、城の中にいる戦闘要員の数である。リュシェの魔力探知は、マントのおかげで逆探されない。


「魔力は今どれくらい?」


「ラーメン食って満タンだぜ!」


 満タンなのはいいことだけど、


「声がでかい! バレたらどうすんのよ!」


 できるだけ声を抑えて、リュシェに注意する。


「なら、作戦はさっき話したまま」


 私の夢の本当の意味での第一歩だ。心を落ち着かせ、言葉を続ける。


「決行よ!」

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