「おっちゃん! ラーメンの替え玉三つ」
「あいよ! あんちゃん、いい食いっぷりだね~!」
これで替え玉は十玉目だ。こいつは無限の胃袋を持っているけれど、私たちに無限のお金はない。そろそろ終わりにしてくれないと困る。
「替え玉三つお待ちっ!」
たった今届いた替え玉もどうせ三秒後にはどうせ、
「おっちゃん! お代わり二玉!」
「リュシェ、お金なくなるからこれで終わりにして」
私の耳打ちにリュシェは不満そうな顔をしたけれど、首を縦に振ってくれた。
なんだかんだ言って常識は持ち合わせているのだ。
お金を払い、店を出た後は宿探しだ。
ラーメン屋で大分お金が減ったので、財布と相談しながら探さなければならない。
近くの安そうな宿は……
「おい、ノア。あれ見ろ」
リュシェが指さす先にあるのは城門だ。町に出入りする人を一人一人チェックしている。何の変哲もない門がどうしたというのだ。
ちなみに、私たちは城壁を超えてきた。ウェスト領最大の城郭都市に侵入するのにはさすがに苦労した。
「城門がどうしたの?」
「違う。それじゃなくて、あの兵士たちだ。次々に外に出ていく」
兵士? 遠目からでも、たくさんの人が門から出て行っているのは見えるけれど、全員普通の人に見える。変装?
逆探知される恐れはあるけれど、一瞬だけ魔力探知の範囲を最大まで引き上げる。
近くの商店街、奥の住宅街、公園、城門……丁寧に練り上げられた魔力を待った人をたくさん感じる。
でも、あそこにいる人たちは全員が一般人に見える。これは、
「秘密裏に動いているということ?」
「一般人に知らせないように、こっそり何かをしようとしている……」
「でも、なんで?」
私の問いに、リュシェは険しい表情を浮かべる。手を顎にやり、ひとしきり悩んだのち、一つの結論を伝えてくれた。
「ノース領に戦争を仕掛けるのかも……あの門はノース領とつながっているはずだ」
長年争い続けていたノース領とウェスト領、そろそろ雌雄をつけたくなったのかもしれない。
最近も貿易でひと悶着あったみたいだし、十二分にあり得る可能性を導き出したリュシェに感動した。ポンコツだけど、元幻魔騎士団は魔法も頭も伊達じゃないな。
それよりも、兵士がぞろぞろと町から出て行っている今は、
「「チャンスだ!」」
セルフもかぶり、顔を上げたタイミングもぴったりだったので目もあった。つい笑みがこぼれてしまう。
「どこかで作戦会議をしないと」
チャンスはうれしいけれど、少しタイミングが悪い。夕方に町に着いたばかりで、まだ右も左もわからない。唯一分かることといえば、町のど真ん中にある城に領主が住んでいるということだけだ。
♦
あれから少し時間がたって今は深夜。きれいな三日月が雲から顔をのぞかせている。
私たちは今、領主の根城の周りに広がる庭園の植木に隠れている。
「ざっと三十人だな」
三十人とは今、城の中にいる戦闘要員の数である。リュシェの魔力探知は、マントのおかげで逆探されない。
「魔力は今どれくらい?」
「ラーメン食って満タンだぜ!」
満タンなのはいいことだけど、
「声がでかい! バレたらどうすんのよ!」
できるだけ声を抑えて、リュシェに注意する。
「なら、作戦はさっき話したまま」
私の夢の本当の意味での第一歩だ。心を落ち着かせ、言葉を続ける。
「決行よ!」