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涼音の部屋にて 3

 ある日の夜。涼音すずねの部屋に来ていた涼香りょうかが急に部屋の電気を消した。


「今から怖い話をするわよ」

「やめてください」


 涼音が今にも泣きそうな声を出しながら涼香にしがみつく。


「これは本当にあった話よ」

「だーかーらーやーめーてーくーだーさーいー‼」


 涼香の声をかき消す勢いで涼音が叫ぶ。


「ちょっと涼音、静かにしなさい」


 静かにすべきは涼香の方なのだが、涼香は涼音を黙らせようとする。どうしても怖い話をしたいらしい。涼音にとってはただの嫌がらせでしかないが。


「あれは私が深夜の山に入った時……」

「あーーーーーーーー!」


 耳を塞ぎながら、布団に潜り込んだ涼音がバッタバッタ動いて涼香の声を遮る。


「……」


 その様子が面白いため、涼香は見守ることにする。怖い話はもうしない。


 やがて疲れたのか、涼音の動きが止まる。そしてチラリと布団の剥いで顔を出す。


「もう一度お風呂に入る?」


 涼香が布団を剥いであげると、涼音の髪は汗で肌にひっついており、頬も少し赤みを帯びていた。


「いえ……大丈夫です」


 息を整えている涼音のはだけかけているパジャマを整える涼香。


「どうしてそんなに汗をかいてるのかしら」

「先輩が変なこと言うからでしょ」

「あら、そうなの?」


 元凶は白々しかった。


「ちょっと顔洗ってきます」


 そろそろ扇風機を出さないと、と漏らしながら部屋を出ていく涼音を、涼香は見送るのだった。

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