ある日の夜。
「今から怖い話をするわよ」
「やめてください」
涼音が今にも泣きそうな声を出しながら涼香にしがみつく。
「これは本当にあった話よ」
「だーかーらーやーめーてーくーだーさーいー‼」
涼香の声をかき消す勢いで涼音が叫ぶ。
「ちょっと涼音、静かにしなさい」
静かにすべきは涼香の方なのだが、涼香は涼音を黙らせようとする。どうしても怖い話をしたいらしい。涼音にとってはただの嫌がらせでしかないが。
「あれは私が深夜の山に入った時……」
「あーーーーーーーー!」
耳を塞ぎながら、布団に潜り込んだ涼音がバッタバッタ動いて涼香の声を遮る。
「……」
その様子が面白いため、涼香は見守ることにする。怖い話はもうしない。
やがて疲れたのか、涼音の動きが止まる。そしてチラリと布団の剥いで顔を出す。
「もう一度お風呂に入る?」
涼香が布団を剥いであげると、涼音の髪は汗で肌にひっついており、頬も少し赤みを帯びていた。
「いえ……大丈夫です」
息を整えている涼音のはだけかけているパジャマを整える涼香。
「どうしてそんなに汗をかいてるのかしら」
「先輩が変なこと言うからでしょ」
「あら、そうなの?」
元凶は白々しかった。
「ちょっと顔洗ってきます」
そろそろ扇風機を出さないと、と漏らしながら部屋を出ていく涼音を、涼香は見送るのだった。