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休日の昼にて

 ある休日の昼のこと。


涼音すずね。ケーキを」


 ローテーブルの前で座っている涼香りょうかが、向かいに座っている涼音に言う。


「……」

「ケーキよ、涼音」


 梅雨に戻ったかのような錯覚を覚えるジトっとした目で、涼音は涼香を見つめる。


「……」

「涼音。どうしたのよ?」

「自分で食べればいいじゃないですか」


 やっと口を開いたかと思えば冷たいことを言う。


 しかし涼香はめげない諦めない。涼音に訴えかける。


「あーんしてほしいの! いつもしてくれているではないの!」

「いつもしてませんけどね」


 肩をすくめた涼音は、自分の分のショートケーキをフォークで切り崩す。


 崩したケーキをフォークで刺し、無言で涼香の口元へ持っていく。


 顔を輝かせた涼香が口を開いてそのケーキを食べようとするが、ケーキが涼香の口に入ることはなく、Uターンして涼音の口へと入っていった。


「あー美味しいですー」

「涼音の意地悪!」


 涙目の涼香が涼音のショートケーキのてっぺんにいるイチゴを強奪する。


「ああ!」


 イチゴをモグモグ食べている涼香が勝ち誇った顔をする。


「意地悪をするからそうなるのよ!」


 そう言って自分のショートケーキのイチゴも食べる。


「先輩こそ意地悪じゃないですか!」

「意地悪には意地悪で返すものよ」

「ならあたしも先輩に意地悪してやりますよ」

「イチゴはすべて食べたわ! 意地悪できるものならしてみなさい!」


 ぐぬぬと唸った涼音はどうしようかと頭を回転させる。ケーキを食べて更に頭を回転させる。そして出てきた結論。


「もう先輩にあーんはしてあげません」

「――っ⁉」


 涼香は恐ろしいものを見たような表情を浮かべる。


「あーあ。先輩が意地悪してくるからなー」

「涼音、考え直して。ほら、私のケーキをあーんしてあげるから」


 かなり焦った涼香が瞬時に涼音の機嫌を取る。とても早口だった。


 涼香にあーんされた涼音は満足気な表情を浮かべる。


「そうですねー。考え直してあげてもいいですねえ」

「そうでしょう。そうしなさい。そうしてください」


 必死な涼香の姿に涼音は思わず吹き出してしまう。


「あっはは。もー、冗談ですって。はい、あーん」


 涼音にあーんされた涼香は、一筋の煌めく雫を流しながらケーキを味わうのだった。

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