「ただいまより、ステア魔法学校、第一学年魔法戦闘トーナメント大会の開会を宣言する」
花組が戦闘魔法の授業を受けたことにより大会の開催条件が満たされたので翌日、各組の一学年全員が学校の敷地にある闘技場に集まった。
アリスに関しては、気絶こそしていたものの体はそこにあったので柏木が授業に参加したとみなし大会に名簿に入れた。
ステア魔法学校の魔法戦闘大会自体は学校創立当初から開催されていたもので、かなりの歴史がある、そしてステアの卒業生は大体自衛隊や魔法関係の大学で多大な功績を遺すことが多いわけもあってか、開会式も盛大に執り行われる。
ステアの闘技場は楕円形に出来ており、中心のステージを観客席が360度囲っている。
ステージには一学年全員が集まっており、全員が組関係なく立ってはいるが視線はステージ内部に設けられた特設の壇上に教師陣と校長、また来賓を代表して神報者の龍が座っている。
また観客席には極稀に天皇陛下が観覧されることもあってか一部豪華に作られているが、今回は開会の時期が大幅にずれ込んだ影響もあってか観客席はスケジュールがあった人と上級生のみとなった。
アリスはというと香織と共にステージ中央に立っており視界の中に常にサチとコウを入れていた。
花組のボイコットの影響でサチとコウは名家との新たな関係の構築も出来なかったため、この開会式を使って主要な名家のメンバー(まずは五議席の名家)たちと話していた。
主に話しているのは同じ学年で議席を持つ、西宮雪と東条信一郎だが二人とも名家の跡取り候補にはなっていないので本当の意味で交流のつもりだった。
そんな名家たちとの関係構築のやり直しに対して賛成はしていたアリスだが完全に信用していなかったアリスはサチとコウが見える位置に立ち動向を観察していた。
(問題ないか……まあ問題あったのは親の方だしなあ)
サチとコウが仲良く話をしている様子に安堵したが、いつも通りに校長開会の挨拶は聞く気が無く観客席の人間を観察し始めるアリス……だがここでふと気づく。
一人だけ、フードを被った人が居たのだ。
他の客席座る人は全員被り物はしていない、が誰一人フードの人を気にする様子はない。
(魔法が使える……ある意味フードは必需品?なら問題ない……のか?)
アリスの悪い癖で校長が喋っているのにも関わらず色々と視線を移すアリスだが真後ろに視線を写した瞬間、ある男が視線に入って来る。
そしてその男を少し注視した瞬間、ある種の既視感を感じた。
アリスは男に気づかれないように視線を校長に戻しながらも思考を働かせる。
(……あれ?あいつ……どこかで……学校関係者?いや違う。だけど見た事ある……どこだ?学校で?いや外だ……思い出せ……しかもいい思い出じゃない……あたしの中の何かが訴えてる、あいつは敵だって……なんだ?……あ!)
アリスの中で思い出した記憶の中の男と一致するかゆっくりと顔を動かし、男に気づかれないように視界の端に男が入った位置で止め、確認する。
そう、アリスがまだ転生したばかりの頃、香織を誘拐しようとした男だ。
(なんでここにいるんよ?捕まったんじゃ……いや、ワンチャン未遂だから釈放?でもだったら何しにここに?襲撃に来るにしても……人数少なすぎ……もしかしてあのフードの男も敵?……どうする?気づいてるのあたしだけじゃあ……ん?)
アリスは気づいた。
男の内ポケットと思われる場所から杖を取り出しているのを。
しかし、簡単には動けない。もし先んじて声を上げたりすれば男は逃げるだろう、それではアリスが式典の最中に大声を上げた変人扱いされるのがオチである。
別にアリスは他の転生系のラノベ主人公のように極力目立つことが苦手な人間ではない。
もし目的に応じて目立つ行為が必要なら普通に目立とうと動く。
ただ、何の理由も無しに悪目立ちするのが嫌なだけなのだ。
アリスは脳を高速回転し始めた。この状況で一番の最適解は何か。
(皆の視線は壇上に向いているし、壇上は少し高くなっているからあたしの行動は筒抜け……それに相手からしたら一人だけ後ろに歩いてくる人間は余計目立つか……なら取るべき行動は……最終目的はこの場のすべての視線を最終的にあの男に向けること、なら間接的に、一時的にでも私に向かせるのは問題ない……か。なら唯一の不安要素はあの男の魔法の照準だ。それが壇上の誰かなら問題ない……またもや賭けですなあ)
覚悟を決めたアリスはそばにいた香織にここに居てと目配せする。
そしてゆっくりと最前列へ歩いて行った。
最前列に到達したアリスはフードの男に気づかれないように顔を動かさず目だけで観察する。
するとフードの中の口がニヤリと笑うと右手を手すりに掛けた。
(……合図……でいいんだよな?)
アリスは一瞬だけ後ろを振り向く……すると先ほどの男がばれないようにか少し屈んだ状態で杖を構えた。
アリスは静かに腰の杖を抜くと大きく深呼吸をして前に歩き出す。
「……アリス……何をしてるんだ」
真っ先に異変に気付いたのは意外にも龍では無く柏木だった。
そもそも来賓という扱いである故、席も少し離れていた関係もあった。
しかし壇上まで約10メートル離れている最前列から一人人混みを抜けて歩いているのだ、誰だって注目する。それでも真っ先に気づいたのは何かやらかさないかある意味心配だった柏木だったのだ。
アリスは最初ゆっくりと壇上へ歩いていたが少し小走りになる。
そして……1メートルの高さにある壇上に向けて思いっきりジャンプする。
「なっ!」
「ん?アリス!?何してんだ!?」
ようやく龍も気づいた。そしてはたから見たら意味不明な行動をしているアリスを確保しようと立ち上がるが、その時だった。
壇上に注目している一年生の頭上を三つの火球が通り過ぎる。
と同時にアリスが壇上のヘリから二段ジャンプの形で生徒側へ大きく飛んだ。
「おおおりゃあああ!……あああ!?」
杖を前方に構えるアリス……だが迫る火球が一つでは無く三つという想定外の光景がアリスの目前に迫った。
(へ?三つ?三つ!?待て待て!あいつ以外に撃った奴いんのか!?やばい!一個ぐらいなら見事着地だけど三つは想定外過ぎますぜ!?どうする!?……あ、考える暇ないわ)
空中に居るということを考慮するともはやアリスに出来ることは無かった。
諦めてそのまま杖を構える。
数秒後……バン!という音と共にアリスの構えた杖が構築したシールドに三つの火球が当たり弾ける。
本来、地面に足を付け踏ん張れば同時だろうが連続だろうが魔法受けても衝撃は耐えれるはずなのだ。
しかし現状、完全に空中にいるアリスが受けた衝撃はそのまま体を動かす要因となる。
「うぐ……、……お?」
1メートルほど後方に吹き飛んだアリスはもはや体制を変えて壇上に着地することは不可能と判断、転んでもいいように受け身の体制を取った。
……が、以外にもアリスの体を支えたのは校長の八重樫だった。
「……あ、どうも」
ほっとしたアリスは前方を確認する。
以外にもステアの生徒だからか第二日本の国民はある程度訓練を積んでいるのか、アリスが三発の魔法を防いだ瞬間、魔法の出どころを即座に確認し即座にしゃがんだ。
しかも杖を持っていた者は脅威がある方向に対して杖を向けて防御姿勢を取っている生徒もいた。
(マジか……もっと大騒ぎになるもんかと思ってたけど……すげー、やっぱり日本って言っても国民性違うのか)
訓練された生徒の動きに感心していると、アリスを支えていた八重樫が右手に持っていた杖を口元に持ってくると簡潔に一言言い放った。
「総員退避!」