生徒と教員が大急ぎで退避する中、以外にも敵勢力が追撃をすることは無かった。
まるで攻撃そのものが目的では無いように。
因みにアリスは面白そうだからという理由でその場に残っていたが、そんなアリスを見て心配に思った人間が三人、観客席から飛び降り来る。
小林、峰、柏木の三人だ。
「なんで降りてくんのさ」
「後輩のお前がこの場に残っている時点で先輩として守ろうとするのは当然だろう」
「あー、ん?」
納得するアリス。
しかし今度はこの場に居る必要すらないサチとコウ及び東條が三人固まるようにしてその場に佇んでおり、サチとコウにいたっては敵に杖を向けている状況に疑問が生じた。
「あっちは……なんで?」
「うっせーな!足くじいたんだからしょうがねえだろ!」
「だっさ」
「お前よく攻撃が分かったな」
呆れているアリスの傍に龍が感心した顔で近づく。
「そりゃあ観客席に一人だけフード被った奴いたら気になるでしょ」
「……でそいつは一体どこに行った」
「え?多分こっちに……居ねえ」
アリスが先ほどまでフードの男が居た場所を指さすがそこにはいなかった。
「……もしかしてあいつか?」
「は?どこに……マジか……移動すんの早、ワープしたのか」
先ほどまで仮設セットの上に居たフードの男はいつの間にか三人の敵の観客席側に移動していた。
そこに龍は声を掛ける。
「そこの奴!目的はなんだ!まさか遊びに来たわけでは無いだろう!」
「……ふふふ、仮に目的があっても君たちに言う義務がない。たつ……いや今は龍だったか?」
男はフードを取り顔をあらわにする。
一人を除いて全員がその男に対して抱いた印象はただのイケメンだった……一人を除いて。
「……400年ぶりか?シオン……いやシオティスと呼ぶ方がいいか?」
「どちらでもいいさ」
「……師匠知り合い?」
「400年前、ファナカスと戦った時のファナカスの右腕的なやつ」
「……じゃあ敵かあ」
アリスの反応でその場の空気が変わった。距離を保ちつつも確実に攻撃を防ぎつついつでも魔法が当たるよう、全員杖を構え直す。
「で?本来の目的は?」
「だから言うわけが無いだろう?まあ強いて挙げるなら君たちへの襲撃は単なる囮だ。もし本気で君たちを全滅させるなら闇の魔法使いを揃えるさ。ただの時間稼ぎだよ」
「時間稼ぎ……貴様らまさか!」
驚き声を上げたのは八重樫だった。
「まあご想像にお任せするさ。と言ってもまあ手遅れだろうが……そうだなもう少し遊んでいこうか。君たちの戦力を見ておきたいことだし。君たち簡単に相手をしてやれ」
シオティスは席に座り下にいる男たちに指示を出す。
すると三人の立っているだけの男たちは杖を構える。
「龍すまん至急確認することが出来た。柏木と一緒にこの場をお願いすることは出来るか?」
「構わん」
八重樫が走って闘技場を後にすると同時に龍が刀を取り出し帯に差し込みながらアリスの前に出る。
「師匠!あたしだって戦えるよ!」
「……相手がいくら闇の魔法使いでないとして、少なくともお前よりは戦闘経験のある魔法使い、比べてお前はこの世界にやってきて魔法を覚えたばかりの奴だ。確実的なのは俺が戦うことだ」
「……ッチ」
「すまないが今回お前はお呼びではないぞ龍!」
シオティスが再度立ち上がる。
「あ?」
「お前が戦えば、もちろん圧勝だろう。それではつまらん!お前は必要ない……そうだなお前には特別な場を用意しよう」
シオティスが龍に向けて杖を向ける、と同時に龍も杖を構える。
シオティスが呪文を唱えることこともなく、杖の先に魔法による球体が生成されるとアリスはあれが闇の魔法だと直感的に理解できた。
(黒い……魔法?あれが闇の魔法なのかな)
紫とも黒とも言えない……いや漆黒という言葉が一番似合う色を帯びた球体が杖の先に生成されたのだ。
龍が警戒態勢を取り魔法を撃とうとするがシオティスが一歩早く魔法を放つ。
魔法の直撃を防ぐために杖を眼前に構えるが、漆黒の球体は龍の少し前方に着弾する。
「……?」
龍はシオティスが魔法を外したことに困惑しながらも視線をシオティスに移した瞬間だった。
漆黒の球体は地面に着弾すると同時に地面に黒い線を伸ばしながら龍のいる地面に伸びていく。
すると黒い線は龍を中心として魔法陣となった。
「なっ!」
驚いた龍は後方に飛びながらその場から逃げようとする……も遅かった。
龍の居た場所の魔法陣の中心部が黒く染まるとそこから影のような無数の漆黒の手が飛び出すと空中に居る龍の片足にがっちりと掴む。
龍はなんとか引きかがそうとするが驚異的な力で龍を魔法陣の中心部へ引きずり込もうとしてくる。
「……ッチ。仕方ない」
龍は杖を自分の足に向けて強引に魔法で足を吹き飛ばそうとする。
それを漆黒の手が察したのか定かではないが引きずり込むスピードが上がる。体制を保てなくなった龍はそのまま倒れこみ中心部に吸い込まれていく。
「師匠!」
「アリス来るな!仕方がない相手してやる!柏木!アリスを絶対に死なせるな!分かっているな!」
「問題ない……守るだけならな」
「アリス!お前もだ!勝手に突っ込んで死ぬような馬鹿な真似だけはするな!」
龍の言葉が終わり、全身が魔法陣の中心部に吸い込まれるとそのまま魔法陣は消えてなくなった。
「……マジかい」
「はぁ……さてどうするかな」
大きな溜息を吐いた柏木がアリスの前に出てくる。
「シオティス……だったか?お前は戦わないのか?」
「呼びづらいならシオンでも構わないですよ。それに本気で君たちをつぶそうとは思っていないですしね。まあそこの三人を倒せないようでは私を倒すなんて夢のまた夢でしょう。先ほども言いましたが僕の目的は時間稼ぎですから」
「そうか……なら私も教師の一人だ。君を倒すのも確保して警察に渡すのも骨が折れそうだが早急にご退席してもらうためにも努力はしないとな。そこの馬鹿三人!霞サチコウ!アリスに魔法の戦闘がどんなものか見せてやれ。これは訓練ではないぞ!遠慮はいらない」
「言われなくたって!」
笑顔の小林は杖を構えながらも順や峰とは少し距離を取りながらも移動していく。
それが織り込み済みなのだろう、順と峰は小林と共に敵を挟み込むような陣形で移動する。
「さて……霞姉妹はまあ問題ないだろう。……アリス」
「ん?なに?」
「一応言っとくが杖はちゃんと握って構えろよ?」
「……は?うお!」
アリスは何のことだと思ったが、相手の魔法が直撃すると思いのほか衝撃が手に伝わる。
(地味に衝撃あるなあ)
「さて……授業である程度教わったことをここで復習と行くか」
「授業の記憶がないんですけどね」
「なんだあ?お前、授業中寝てたのか?ちゃんと授業は受けろよ」
「あんた、私に何したのか忘れたんか?」
「ちゃんと覚えているさ。私の記憶では皆楽しく授業を受けたじゃないか」
「自分の記憶を歪曲しないでもらっていいすか?」
「……冗談だ。だからこの場で教えてやる。とりあえず耳塞げ」
「は?なんで?」
「大きな音が鳴るからだ」
柏木は杖を左手に持ち替えると右手を腰に持っていき何かを取り出す、その際カチャっという音を添えて。
アリスは柏木の構えたものを見て驚愕した……拳銃だった。
「へ?……はあ!?」
(待て待て待て!なんで日本の一教師がグロック持ってるんだよ!)
「……」
バン!という銃声と共に銃弾が正面に居る敵の構えた杖のシールドに弾かれる。
敵は驚きながらも杖を構えた状態を維持している。
「なんで銃持ってんの!?」
「私は元自衛官だからな」