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継承されし技 4

「……ん?……ここは……うん?」


 目を覚ましたアリスは酷く困惑した。


 何故なら目の前が真っ暗だったためだ。


 先ほどまで居た道場ではなく、自分以外は存在しないのではないかと思うほど漆黒の空間だ。


 いきなり現れた空間に困惑しながら状況を掴むべく顔を動かし辺りを見回すが、ただただ漆黒の空間というほかないほどないにもない。


(もしかして……あたし死んだ!?顔面にパンチ食らったのは覚えてますけど!まさかあれで頭打って死んだとか!?いやいやそんな死に方ダサすぎてありえないでしょうよ!……いや……ていうかこの空間見覚えあるな)


 そう、アリスがまだ転生したばかりの頃、初日に見た夢の空間と酷似していた。


「……もしかしてあの時と同じ空間?ならあたしの腹をぶっ刺した野郎いるのか?おい何処だよ!いったい何の用ですか!あたしまだやることあるんですけど!ねえ!」

「……うるさいなあ……こっちの世界でも変わらないね」

「ふぉ!」


 突然の後ろからの声で思いっきり振り返るアリス。


 振り向いた先に居たのは……恐らく中学生くらいの少女?だった。


 何故断定できないのか……それは体こそはっきり認識出来てはいたが何故か顔だけは黒い靄が掛かっており見えなかったからだ。


「あ、あんた……誰だよ」

「……それ言う必要ある?分かるでしょ?」

「…………うっそ……でしょ?」


 そう、顔を確認しなくても誰か聞く必要はなかった。


 何故なら……アリスが今耳にしている声は多少年齢による音の高低こそあるがそれでも一瞬で判別がつく……そう自分の声だからだ。


「……ま……まった!まったまった待った!あたし!?今あたしが話しかけられているのあたし!?」

「まあそういうことになるね」


(マジかー……つまり目の前に居るのは前世で死んだときのあたし?)


 まさかの事態に顔が引きつるアリス。


「因みにあんたが心で思ってることもここではあたしに聞こえるからね」

「……」


(プライバシーとは)


 だがそんなことはどうでも良いかのように話を続けるアリスと思われる少女。


「ここはあんたの心の中……精神世界って言った方が良いかな」

「どうでも良い事一つ聞いていい?」

「良いよ」

「どうして少し背が……中学生っぽい見た目?」

「そりゃああんたが死んだのは中学三年でしょ?今のあたしの見た目は前世……あんたらの言い方だと旧日本で死んだときの情報で再現した物。そして口調も今の人格も旧日本の記憶を頼りに再現された物だよ」

「そ、そう……それなら」


 異世界転生したとはいえ、自分の前世に関する記憶が無いのは転生者全員の共通ルールだがこれ以上ないチャンスに質問するアリス。


「ならどういった理由で死んだの?」

「……残念ながら契約で喋れないかな」

「……契約?誰との?」

「喋れない」

「おいおいおい!じゃあ聞きますけども!あんたは何しにあたしに会いに来たのさ」

「それが一番重要、理由は言えないけどさ、今のあんたの状態のままだとさ、ユニークだっけ?チート使ってもあんたがこの先この世界で生き残るのは難しいのよ」

「なんでだよ魔素格闘術だって今習ってる最中でっせ?」

「それも十分とは言えないんだよ、今のままだと師匠の大塚さん?にだって一生勝てないし」

「マジかよ……じゃあ意味ねえじゃん」


 驚愕の事実を知ったアリスはうなだれる。


「そう今の今のままならね、あたしがやってきたのはそんなあなたにとある武器を教えるため!」

「武器?……三つ目のユニークとか?」

「うーん……違うかな。これはいうなれば……あたしたちが旧日本で代々受け継がれた呪い?継承されてきた技?」

「はあ?そんな物知らない……いや知るわけないか」

「そうだね記憶がないんじゃー知るわけない。でもこの技の詳細も歴史も教えられはしないけど。やり方だけは教えられるからさ、それを教えに来たってわけ」

「そう」

「なに?何かご不満でも?」


 アリスはこの少女から違和感を感じていた……何処かすべてに絶望し、すべてを諦めており、アリスに教えるのも本意ではなく、頼まれて仕方がなく来たような感じだ。


「今のあたしがあんたの過去……つまりあたしの記憶を知るすべがないことは知ってるんだけどさ……何かあった?」

「……っ!」


 表情は読めなくとも体の動き方で動揺しているのが分かる。


「あたしの生前に何が起きたのかは分からないけどさ、これだけは分かるよ。あたしの前世言って相当精神的に来るようなことが起きたってことでしょ?」

「…………まあ……そうなるかな。詳細は言えないけど」

「言わなくていいよ。少しは知りたいよ?自分の記憶だし、知ればもっとこの世界での生き方が変わる気がするし」

「そうならないために転生者には記憶がないんだと思うけどね」

「ああ、なるほど」


 この世界に転生者……つまり旧日本人が来た理由は第二日本国を発展させるための助力をすること、龍はそう言っていた。


 そしてそれは400年前から変わっていない。


 つまり旧日本の記憶が戻ってしまえば、皆やり残したことをこの世界でやろうとし、識人としての務めが務まらない。


 だからこそ記憶が無いのかもしれない……そう龍が言っていた。


「じゃあさ、最後に一つだけ」

「何?」

「あんたさ……今のあたしの記憶分かる?」

「……ちょっと待って……うん……見えた」

「どう?前世で過ごした期間とは比べものにならないけど……この世界の記憶と比べたらどっちの方が良いのかなって……それぐらいは答えられる?」

「…………」


 少女は少し考えこむが、すぐに口を開いた。


「……ふっ……そうだね、こっちの方が幾分かましかな」

「……まーじで言ってらっしゃる?確かに魔法は使えますし、空も飛べるけども!何度か死にかけてますけど!?」

「うん……でもこっちの方が刺激的で……楽しいよ」

「ハリーポッター補正入ってません?」

「ふふ、そうかも」

「……」


(こっちの方が素か)


 アリスに伝承を教えるまでのテンションと今のテンションはまるで違っていた。


 まるで台本があるかのように。


「さ、技を教えるんだけど……私からも最後に一つだけ」

「お、何かね……ん?」


 ここでアリスは少女の雰囲気が変わったことに気が付いた。


 恐らくこれが本当に感情なのだろう、ひどく重く……そして冷たい。


「いい?アリス……簡単に人を信用しちゃだめだよ?よく友達は選べとは言うけどその友達も人だから自分の為に行動するのは当たり前、だからね?必要なのは人を利用すること、必要だと感じた人だけを助けてその他は切り捨てる。そしてその人にとって必要不可欠な存在になること、そうすればそう簡単には裏切らないから。いい?欲しいものがあるなら人でもなんでも利用して最終的に勝ちとればいい……分かった?」

「……あのさあ」

「ん?」

「最後の最後になんちゅう言葉言ってんだよ!それじゃあんたが誰かに裏切られたみたいな言い方じゃん!気になりすぎるわ!」

「ふふふごめんね……じゃあ最後の特別サービス、何であたしがこうなったかは教えられないけど……体感させてあげることは出来る」

「へ?体感?……ん?おおっ!」


 アリスは突然、何とも言い難い……変な感覚に襲われた。


 絶望、消失感、悲しみ、それらの感情が一気に押し寄せる感覚だ。


「……お……お」


(何だよこれ……もしかしてあたしが旧日本で死ぬ間際に感じていた感情か?……そりゃあ死にたくもなるわ……は……ははは!)


「何がおかしいのよ」

「ごめんごめん……いや……たった今決意したことがあってさ」

「何」

「もう過去は変えられない。それは不動の事実だ、でも未来は……この先あたしがどうするかはあたしの選択次第だろ?なら旧世界のあんたが泣いて笑うような……転生して良かったと思えるような人生をこれから歩んでやるよ!過去の記憶すら将来いい酒のつまみになるレベルで良い人生を送ってやるよ!」

「……っ!」


 同じ自分とは言え、ここまでの感情をぶつけられたにも関わらず、それでもなお元気に前に進もうとするアリスに少し驚く少女。


「そう……なら頑張って……もう会うことは無いだろうけど……どこかで見守ってるわ」

「おう!さっさと技教えて見物しとけ!」


 そういうとアリスの意識がまた歪み、黒い空間から抜け出した。


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