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第62話:神竜の子

「そなたも試してみなさい」

「はい」

 法王クラルスはもう1人の少年レンも魔法陣の中央に立たせてみたが、それが光る事は無かった。

「………ついでに、そなたも」

「えっ?」

 続いて試す事になったのは、イルを演じていたセイラ。

 双子のようにそっくりだからもしかしてと期待されるが、そんな事は無かった。

 溜息をつく法王。

「トワの聖剣を得られるのは、100年に1人いるかいないかと言われておるのだが…」

 チラリと見る先には、壁際で大人しく待機している白いローブを着た子供がいる。

「すみません」

 要望を拒絶して、子供は頭を下げた。

 優しそうな顔立ちだが、その意志は強い。

「何故、聖剣を拒否するのだ? 勇者になっても束縛などせぬ。自由に行動して良いのだぞ?」

 法王は懐柔を試みる。

「勇者とは、その国に危機が迫れば真っ先に駆け付ける者でしょう。それが出来ないからです」

 あどけない少女の姿をしながら、はっきりとした答えが返される。

「惜しいな。そなたならプルミエの勇者のような優れた剣士となるであろうに…」

(…っていうか本人です)

 残念がるクラルスに、レンが心の中でツッコミを入れた。




 大陸の端に突き出た半島に位置する国・トワ。

 朝日は海から昇り、夕日は海に沈む。

 海は命の源とされ、太陽は輪廻する魂の源とされている。

 見張りの塔に上り、3人の子供は海へと還る太陽を眺めていた。


『聖剣って、使う者がいなければ水晶に戻るのかな?』

 脳波通信アプリでコッソリ会話する。

 魔法陣から送り出された場所での出来事を、映像として他の2人に見せてみた。

 セイラの予知夢によるとトワでも聖女襲撃が起きるとの事で、イルはまだ影武者続行中だ。

 現在は私服に着替えているので、ローブ姿より更に女の子っぽくなっている。


『戻らないよ。多分ずっとそのまんま』

 レンでもセイラ(本物)でもない、瀬田でもない誰かの声が脳内に流れ込む。

「???」

 キョロキョロと辺りを見回すセイラ(イル)を、他の2人が首を傾げて眺める。

 すると、服の胸元から神樹の妖精と顔を揃えて青い子竜がヒョッコリ出てきた。

「?!」

 3人の子供が一斉に注目する。

 勇者の資質ある者のみ行ける場所、そこに居る筈の子竜がこちらに来ている。

『聖剣の代わりに神竜をお持ち帰りしたの?』

 少年イルの服を着たセイラが聞く。

『いや、聖剣と一緒にあっちに置いて来たよ』

 セイラの服を着たイルが答える。

 連れて来た覚えは無かった。

『あれか? カバンに入り込んでたの気付かずに連れて来ちゃったみたいな』

 会話を共有しているレンが、冗談混じりに言う。

『それをやるのは仔猫くらいだろ』

 とりあえずツッコんでおく。

『聖剣とその主は絆が出来てるから、それを辿れば普通に来れるよ』

 脳波を使ったグループ通話に難なく加わる子竜。

 リスくらいのサイズのものが入っていれば気付かないわけがない。

 さっきまでいなかったものが、突然懐に入ったのだ。

 カバンに入る仔猫より高度な技術だ。

『…って、持ち場を離れていいのかよ?』

『問題無いよ。どうせ100年は暇だから』

 レンのツッコミを子竜はあっさり返した。

『…で、何しに来たの?』

 そこへセイラ(本物)がツッコミ追加。

『せっかく現れた聖剣を置いて帰るなんて前代未聞だからね。面白そうだから観察に来たんだよ』

 服の胸元から顔だけ出してる子竜が、キュルンとしたつぶらな瞳で見詰めてくる。

『見せてよ。 聖剣無しでどれだけ戦えるのか』

 神竜の子が、見学者(?)として加わった。


 ストレージに保管している日本刀カタナは使えないので、抜刀術は封印。

 6歳児の小さな身体で扱いやすいのは短剣で、攻撃有効範囲は狭い。

 ステータスは星琉の時と同じだが、ヒューマンに目視出来ないスピードを出すわけにはいかない。

 魔法は女神アイラから授かった最上級回復魔法エクストラヒールや学校で習った属性魔法は使えるが、瀬田から授かったオリジナルは使えない。

 少々制限が多い気がするが、正体がバレないように立ち回るしかなかった。



「セイラ様、サラは寂しいですぅ~」

 沐浴の手伝いを断られ、聖女専属の修道女サラが目をウルウルさせて訴える。

「ごめんねサラ。今は1人で入りたいの」

 と言いながら花びらが浮かぶ浴槽に浸かるのは、女の子のフリをしている男の子だ。

 ちゃっかり一緒に子竜と妖精も浸かっている。

 廊下でウルウルしているサラには申し訳無いけれど、沐浴を手伝ってもらうわけにはいかない。

 服を着ていれば見分けがつかないが、タトゥーの無い胸元を見られればバレてしまう。

 入れ替わりを開始してから、セイラ(イル)は着替えや沐浴を1人で済ませていた。


 一方、レンとイル(セイラ)は…

「レン、背中流してあげる」

 ニコニコしながら背中を流す6歳女子。

(何故俺は幼女に背中を流してもらっているのだろうか…)

 微妙な表情で背中を流してもらっているレン。

 第二次性徴が始まる前なので、セイラとイルの体つきはほぼ変わらない。

 胸元のタトゥーが無ければ上半身裸でも見分けがつかないくらいだった。




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