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30_俺はミントで『終戦』を宣言する!

「ユウキ!」

「大丈夫だ、寝てるだけだよ」


パイセンに連れられて、親友がスヤスヤ眠ってるところへ駆けつけた俺。


「勝ったんすか?」

「このとおりさ」


 パイセンの手元には拳大の魔石『賢者の石』が握られている。

 俺が宿屋で遭遇した魔族が残した石と似たような、命の煌めきを見せていた。血のように赤く、うっとりするほどに見惚れてしまう魔性の石ころ。


「封印したってことでいいんすか?」

「ああ、二度とこいつが起き上がることはないだろう。大活躍だな」

「俺はなんもしてないっすけどね」

「お前はそう思ってるんだろうけどな、嬢ちゃんの中じゃどうかわからんぜ?」

「そういうことにしておきます」


 よいしょ、と立ち上がるなりカインズパイセンは出口に向かって歩いていく。

 俺がきたから看病はもう必要ないと言わんばかりだ。


「旦那は嬢ちゃんの世話を頼む」

「パイセンは?」

「領主様に報告してくるよ。賊の頭領は追い払ったが、まだ残党がいるだろ? バックには魔族がいた。その魔族は勇者様が討ち取った。そのことは伝えとかなきゃダメだろ。兵たちの士気に関わる」


 それは確かにそうか。終わりに見えない戦いに身を置くより、これを済ませばおしまい! と明確な目標が見えてる方が働食い欲が枠もんだ。


 先輩を見送り、俺はユウキが寝かされた部屋でずっとその寝顔を見つめてた。

 そこし視線を外すと、そこのは見覚えのない槍が置かれていて。なぜかミントが根を張っている。


 あー、もー。

 勝手に生えちゃダメでしょ?

 俺は引きちぎるようにミントに手を伸ばすが、


「バカな! 俺の力でも引き剥がせないだと!?」


 なんなら弾き返されたよな。

 ミントの君主なのに泣けるぜ。


 まぁいいや、武器には否定されたけど、本質はそこじゃない。

 こいつがあの場所にユウキと一緒にいてくれたおかげで魔族を打ち取れたのだ。

 無碍に引きちぎる方が無粋か。


「俺の親友を助けてくれてありがとうな」


 今度は引きちぎるのではなく、優しく撫でてやる。

 すると武器全体が光って、その姿を聖剣の形に変質化させた。


 巻きついていたミントは、ちゃっかり聖剣の模様の一部に置き換わっていた。

 金色に輝く刀身も、うっすら緑かかってるし。


 俺、何かやっちゃいました?


「え、これ聖剣だったの?」

「ん……うぅん」


 武器をいじってるとユウキが寝返りを打った。

 胸当ては寝るのに適さないので外されているが、随分とキツく締められたコルセットが窮屈そうだった。


 はだけた布団を掛け直していると、その視線と目が合った。


「おはよう、耕平。俺はどのくらい寝てた?」

「俺も今来たとこだよ。パイセンがその間看病してた。時間のほどはわからないが、1時間も経ってないと思う」

「そうか……」


 ユウキは布団を巻き込みながら俺とは逆向きに寝返りを打って、手の甲をおでこに置いた。

 瞳に涙でも溜めてるんだろうか。

 全くこっちに顔を合わせてくれない。


「パイセンでも手を焼いたって聞いた。よく勝てたな」

「耕平のおかげだよ」

「俺?」


 そういえばパイセンも同じこと言ってたな。

 全く何もしてない自覚があるぞ、俺は。


「あ、そういえば武器!」

「そう、あそこで耕平がオレに力を貸して……なんで戻ってんの!」


 思い出したようにこちらを振り返ったユウキは、武器の状態を見て大声を上げた。

 若干瞳が赤いのは、気にしないでおこう。


「ごめん、触ったらその形になって! でもほら見ろよ。ここにミントのレリーフついてるじゃん。若干緑かかってるし。これは今までの聖剣じゃないって。な?」

「耕平がこわした」

「壊してねーって!」

「壊した!」


 そんな言い争いをしてると、廊下から大勢の足音が聞こえてきた。

 面会を申請するノックが数回。


「領主様が面会を求めております」


 俺たちは顔を見合わせ、即座に居住まいを正した。

 ユウキなんかは即座にはだけた胸元を隠すためにライトメイルを着込んでたもんな。

 そんなに女であることを露見したくないか。


 まぁ王族のお嫁さん確定ならわからんでもないが。


「どうぞ」

「失礼する。耕平様もおられましたか」

「今来たばかりだよ」

「ユウキさん!」

「シズク姉ちゃん」


 領主様の他にシズクお姉ちゃんも居て、無事を確認するなり抱きついてきた。

 部屋が一層湿っぽくなる。

 俺はミントに指示を出して扉を開ける。

 室内に爽やかな香りが充満した。


「シズク姉ちゃん、オレは無事だから」

「さて、こうも湿っぽい場で報告するか悩むが、事は急を要するのでな」


 背に腹は変えられない、と領主様。


「また何か問題が?」

「いや、盗賊の無事撤退した。問題という問題はないが、砂漠のあちこちに大量のミントが繁殖して、大地が緑化現象を起こしている。心当たりはないかね?」

「心当たりしかないっすね」


 ミント列車に、盗賊捕縛用のミント拘束縄。

 それをあらゆる場所に仕掛けたし、それで賊は大体捕まえた。

 その際に、ちょっと多めにばらけた気がする。

 そこから大繁殖を起こした?

 いつものやつっすね。


「やはり貴殿の功績か」

「功績?」


 怒られるんじゃないかと身を縮こませていると、領主様をはじめ、騎士達も俺に感謝の言葉を並べはじめた。


「ありがとう、ありがとう」

「これで家族を呼び戻せる」

「小さな子供をこの地で育てるのは本当に厳しかったんだ。これで彼女に子を産ませてやれる」


 要するに、盗賊や魔族以外にこの街を最も悩ませていたのが環境。

 かつて緑あふれる大地だった周辺が砂漠化してから一気に防衛網が傾いた。


 暑さによる疲労。

 金属鎧の撤廃。そして魔法使いを雇用する上での水の獲得手段。

 他の砦と比べてもコストがかかりすぎる。


 最後の城砦となったイスタール。

 若くしてこの地に派遣された領主も、騎士たちも。

 今回、魔族を体よく追い払えてもまた同じ生活の繰り返しを覚悟していたところにこの結末。

 感謝で涙が止まらないというわけだ。


 日本も北と南じゃまるで気温違うけど、この国はちょっとあちこちで異常気象起きすぎ!


 王国とここの領地、東京から千葉くらいの距離しかないのにこの温度差はやばいでしょって他人事ながら思うもん。

 それもこれも魔族のせいなんだけどね!


「そんな、大したことはしてないけど。まぁ今後ともミント商会をよろしくって感じで」

「私たちの子々孫々まで語り継がせよう。吟遊詩人に歌わせても良いな。どうだろうか?」


 領主様は乗り気でそう答える。

 しかしパイセンはあまり乗り気ではなかった。


「勇者様はともかく、うちらはあまり目立ちたくないんだが」


 それはそう。

 俺が目立って魔族から狙われたら本末転倒。

 それに魔族に俺のミントの効果を知られたら俺が暗殺されかねない。

 魔族には順調に侵略が進んでいると思わせてる方がまだ安全まであった。


 特に今回みたいに人間をそそのかして魔物化させるやつがなりふり構わなくなってくると怖いからな。

 守護も信仰が高まらないと意味ないし。

 ミントはここに置いてくけど、その際に俺が活躍したことをあんまり主張してほしくはないんだよね。


「でしたら殿下、このような案はどうでございますかな?」


 俺たちが領主様へ異議申し立てをしていると、今までどこに行っていたのか、アスタールさんがしれっとこの場に混ざって主導権を握った。


「……なるほど、それは面白い。だったらここはこうやって」

「いえいえ。それだと耕平様が目立ってしまいます。なのでここはこのように脚色して」

「なるほど、これならば我々は堂々と耕平殿に感謝できるか」

「ここに商会の支部も置きますし、この度攻めてきた賊もうちで引き取って更生して」

「そこまで頼んでしまうのも申し訳ない」

「いえいえ、うちも人手不足ではありますから。賊も道を外す何かしらの境遇をお持ちでしょう。そこの隙間に入っていけるのが我が商会のすごいところ。奪うよりもこの商会で働いていると言うステータスが彼らに安心感を与えるのです。なんだったらうちはそうやって取り込んで大きくなってきましたからな」

「さすがアスタール殿、衰えませんな」

「こんな老骨を捕まえて何をおっしゃる」


 昔取った杵柄ですよ、と豪胆に笑う。

 本当この人何者なんだろうな?

 元勇者パーティの一員というだけで歴戦の猛者感がプンプンしてるんだよな。


 こうして、イスタール防衛戦は無事閉幕。

 魔族も倒して勇者の株も上がり、操られていた盗賊達はうちで構成させて従業員に。

 砂漠も俺のミントで緑化して、交通の便も良くなった。


 めでたしめでたしってな!

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