目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

34_俺はミントで『権力』を爵命する!

 俺のミントから精霊が生えた! のも束の間。


「こいつ、ちょっと寝るって言ってからまるで起きてきやがらねぇ!」


 俺ほど騒がしい感じだったティアは、ミントの溢れる大地を気に入って、すっかり寝入ってしまった。

 これから妖精女王になるべくビシバシ指導するんじゃなかったのかよ。

 呆れたもんだぜ、


「まぁまぁいいじゃないですか。あれこれ催促してくる方が面倒でしょう?」

「そりゃ、まぁ」


 アスタールさんのいう通りなんだけどさ。

 俺としてものんびりやっていきたいし。


「では当初の予定通り」

「だな」


 俺たちはウォール領へ帰還した。

 まだ完全にイスタール領は手放しに運営できないが、今は従業員が飽和状態。

 実際俺が手を出す場所はあまりなかった。


 やる気もあるのか休日申請もせずに毎日顔を出している。

 多分働くのが楽しいんだろうな。


 今までは食うのも寝るところを確保するのも大変だったらしいし。俺のミントが救えてよかった。

 ユウキが魔族を滅ぼした功績もあるか。

 安心度が爆上がりだよな、実際。


 あとは現地の住民で生活基盤を整えてもろて。

 俺たちは安心して帰れるってもんだ。


 つってもミント列車で一瞬だけどな!

 今まではことあるごとに話を持ちかけるもんだったから帰る暇もなかったつーかね?

 魔族がうろついてるって話もあってその場を離れられなかったんだよな。

 ほら、俺のミントって一度魔族を撃退してるからさ。

 お守り的な効果で。


 そこに偶然ユウキが居合わせてくれて助かったよ。

 カインズパイセンの公算では勇者がいない場合、半年はその場に釘つけにされてた可能性が高いって。


 理由は領主様と顔をつなげる存在がないという点。

 ちなみにその場合はグスタフのおっちゃんをスカウトしてそのまま帰還。

 運が悪いとユウキと二度と会えない可能性もあったって。


 勇者が負ける可能性なんて一ミリもあってたまるかって思うんだけどさ、今回の奴はレベルが高くて一筋縄じゃ行かなかったから、俺がいてよかったとも言っていたな。


 どこまで本心か知らんけど。

 そんなわけで列車はあっという間にウォール領へ。

 懐かしい顔に挨拶して回った。


「ハウゼンパイセン、ちっす!」

「坊主、そのミントはなんだ?」

「ちょ、パイセン、会うなり開口一番でそれっすか?」


 確かにティアは休息中。

 おかげで俺の右斜め上にはミントがふよふよ浮き沈みしている状態だ。

 確かに気になる人は気になるな。

 俺はすっかり日常の風景になって待ってたので気にならなくなってたぜ。


「いや気になるもんがあったら普通は聞くだろ?」

「それはそう」


 俺はパイセンにイスタール領でのあれこれを話した。

 グスタフのおっちゃんを無事スカウトできたこと。

 一緒に召喚された勇者との再会。

 盗賊の強襲。

 盗賊を裏で操っていたのは魔族で、肉体改造を施されていた。

 勇者によって撃退!

 全て解決! めでたしめでたし。


「なるほどな。向こうにも大量に恩が売れたってわけだ」

「そんな感じ」

「しかしミントは布や紙までなるとはな。エマールの婆さんは喜ぶんじゃないか?」

「なんでっすか?」


 布や紙を魔道具に使うって発想は湧かない。

 そんな顔をしていたら、おでこに強めのデコピンが入った。

 いて! おっさんの馬鹿力で弾いたら俺のデリケートなおでこが割れちゃうだろ!

 そんな文句に聞く耳を持たず。ハウゼンパイセンは話を続ける。


「バカだなお前、魔道具のスクロールが一体何でできていると思ってやがる」

「紙……いや、布なんすか?」

「両方だな。スクロール自体は厚紙で。それを包むのに布を使う。そのどっちにもミントが含まれてるってなれば、魔法の通りも良くなるってわけだ。聞いた話じゃ、勇者様の聖剣にすら祝福を与えたんだろ?」

「祝福?」


 聞きなれない言葉だ。


「お前何にも知らねーのな。いや、外の世界からきたんなら知らなくても仕方ないか。祝福ってのはな、超常存在からの恩恵、言い換えるなら特殊技能だ。本来なら武器に備わるはずのない、魔法的効果とかそういうのだよ」

「パイセンの施す『切断』とかそういうのとは違うんすか?」

「あれはただのルーンだろ。祝福ってのは武器や魔道具に限らずに宿せるんだ。ミントだけだったら宿らなかったが、精霊が宿ったミントならわからねーぞ?」

「へー」


 ことの重大さがいまいち掴めない。


「ま、何はともあれお前のミントは更に強くなったって覚えときゃいい。俺たち職人にとっちゃかけがえのないな。で、ものは相談なんだが」


 ハウゼンパイセンの要望は、定期的に鉱石にミントを生やして欲しいとのことだった。

 さっきの話で、ミントが根付いた場所に祝福が宿るのなら鉱石のうちから馴染ませた方がありがたいとのこと。


 武器の状態で祝福を与えるより、いろんなものへの加工が効くからだそうだ。


「鉱石より、インゴットに生やした方が良くないっすか?」

「馬鹿野郎。インゴット化は手間なんだぞ? もしそれで根付いた結果変形したらどう責任取ってくれるんだ?」

「あ、これ失敗前提の提案なんすか?」

「当たり前だろう。お前のミントを地面に生やしてどうなったと思ってるんだ?」


 あー、領地全体を覆って、爆速で繁殖しましたねぇ。

 祝福だなんて言葉で飾れる状態じゃなかった。

 ミントが強くなるってのは、繁殖力も生命力も強くなってるのだ。

 根付いた時の被害も更にデカくなってると。

 そりゃ失敗前提だわ。


「まぁ成功したら報告するからよ。気長に待っててくれや」

「うっす」


 俺は適当に鉱石の保管所にミントを生やし、パイセンの工房を後にした。

 次に顔を見せるのは……アルハンドさんのとこか。

 ミントの魔道具で一応意思の疎通は取れるけど、顔を合わせるのは数週間ぶりだ。


 アスタールさんがついて行ったおかげで顔パスで入れた。

 一応俺の顔も立ててくれちゃいるが、俺たちがイスタール領に赴いてから新顔も入ったらしくて知らない顔もあったからな。

 助かった。


「おう、坊主。イスタールでは大活躍だったってな?」

「大したことはしてませんけどね」

「魔族を追い払うってのは大したことなんだよ」

「坊ちゃん、耕平様のスケールでは大したことがないというお話ですので」


 ちょ、それ酷くない?

 アルハンドさんも「なるほどな」って納得しないでくださいよ。


「それで坊ちゃんにお話が」


 早速ハウゼンパイセンのところでの話題が領主の耳に届く。

 聖剣に第二形態があったことの判明。

 ミントの成長。

 精霊を宿した。

 そして武具への祝福と盛りだくさんだ。


「あまりに大量の情報を持ってくるな。お前を解任したことを悔いてくるじゃないか」


 アスタールさんはアルハンドさん付きの執事だったからな。

 その敏腕ぶりに何度も助けられていたのだろう。

 今となっては無事に卒業。

 うちの紹介の専属秘書だ。

 返せって言っても返しませんからね?


「坊ちゃんが向き合うべきお話ですよ。蔑ろにすべきではありません。領主としての心構えを持ちませんと」

「わかったよ。耳に入れておく。それとだ、こっちからも話がある」

「というと?」

「国から正式にお前の爵位が渡された。叙爵式に顔を出せとのことだ」

「嫌っす」

「そうだな、お前ならそういうと思って形だけ済ませてきた。向こうの都合で追い出しといて、向こうの都合で戻って来いは流石にな。俺の方で預かっておいたから、必要な時に借りにこい」

「預かってもらって大丈夫なんすか?」

「国外にでも出るとかじゃなきゃ、ミント商会の名は売れに売れてるからな。なんで会頭のお前にその自覚がないんだ?」


 そりゃ、名ばかりの会頭だからだよ!

 とはいえ、国も俺の功績にようやく対価を払い始めたか。

 今まではどこか許してやるから国のために働けよ? みたいな感じだったしな。


「でも爵位があると、何が変わるんすか?」

「国内で貴族に嫌味を言われづらくなる」

「俺、貴族とあんまり関わんないっす」

「耕平様。勇者様の口添えがなくても話を通しやすくなるというメリットもありますよ」

「あ、そうじゃん」


 ユウキの名前を出さなくても話が通しやすくなるか。

 他の街でどうやって商会を売り出していくか考えるたびにぶち当たる問題があったわ。

 それが領主に顔を覚えてもらえないって弊害。


「とりあえず、受け取っておきます」

「使う場所が見つかったか?」

「肩書きが増えただけっすけどね」

「その肩書きほしさに何億も積んでる貴族がいるんだが」


 貴族ってのは国への貢献度で昇格も降格もあるんだとか。

 爵位の維持にはそれなりの代償も必要で。

 まさに地位を金で買うというのが横行してるらしい。

 俺にはなんの関係もないけどな。


「で、爵位ってどのあたりの地位がもらえたんすか?」

「公爵だな」

「それってどのくらいの地位なんすか?」

「無知もここまでくるといっそ清々しいな」

「上から二番目でございすよ、耕平様」

「え、もらいすぎじゃね? ただの商人が」

「それだけ手放したくないのでしょう。むしろ家族になれと迫っていますね。普通貴族に迎え入れるのに、ここまで破格の条件を出しませんよ? 国はそれだけ本気だってことです」


 エマールの姐さんの高級ポーションの件だけではなく、勇者の魔族討伐のサポート。そこに街の復興と思い返すだけでもいろいろ役に立ってきた自負がある。

 でもそこまで欲しがられるか?


「まぁ、俺は所詮ミントを生やすことしかできないんで、マナーとか求められても困るっすけどね」

「そこまでは求めてないから大丈夫だ。他国に対しての切り札的な位置だろう。そして他の貴族にも干渉不可のお触れが出てる。もし癪に触ってミントを大量に投下されるだけで国が滅ぶからな」

「またまた、大袈裟な」

「大袈裟でもなんでもないぞ?」

「えっ」

「この通り、本人がことの重大さに気がついてない致命的な欠点がございます」

「頭の痛い話だよ」


 なぜか俺は周囲の人たちに憐れまれた。

 そうやって憐れむのやめてくれますぅー?

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?