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霊魂のねぐら、うろつく咎人①

「前回あんな感じでしめたら本当に幽霊ゆうれいと戦う仕事が来やがった!!」


 とある夜、地上艦・レトリバーのいつもの食堂。壁にもたれかかるニッケル・ムデンカイは、ガラにもなく憤慨ふんがいしていた。


「いやいや大丈夫っしょ。どうせ雑魚盗賊ざことうぞくがハッタリかましてるとかだって」

「盗賊なら盗賊でもっと普通の奴ら相手の仕事でいいだろ! こんな得体の知れない奴らが相手じゃない仕事で!」


 苛立いらだつニッケルをリンコ・リンゴがなだめるのを横でカリオ・ボーズが見ている。


(ニッケルがゴネるのめずらしいなあ……)

「……もしかして、虫の他に幽霊もこわいの?」


 リンコの指摘してきが図星だったのか、ニッケルは押し黙ってしまう。それを横でカリオが見ている。


(図星なのかよ……)

「あっはっは、だいじょーぶだってニッケル! リンコお姉さんが守ってあげるから」

「うるせえ……うるせえ!」


 からかうリンコとさわぐニッケルの横で、カリオは依頼いらいの詳細が書かれたプリントを読み直す。


(モリオカタウン跡地あとちの調査。付近を通行した複数の民間地上艦から、発光現象・発砲音などの報告あり。先行して調査に向かったビッグスーツ部隊が、正体不明の〝光り輝く〟複数の機体から攻撃を受け、撤退てったいを余儀なくされた。現場は一年前に壊滅かいめつしたモリオカタウンの跡地であり、そこで新たに人間によるコミュニティが形成されたという情報は確認出来ていない……)


 カリオは別のプリントにせられた写真を見る。恐らく先行調査を行ったビッグスーツが記録したものだろう。青白い光を発して輝く、輪郭りんかくのはっきりしない人型の影。なるほど、確かに幽霊っぽさがある見た目ではある、とカリオは一人納得なっとくする。




さわがしいが何かあったか?」

「ニッケルがオバケ怖いんだってよ」

「ッ!? カリオ……テメェ……!」


 わなわなとふるえるニッケルを差し置いて、様子を見に食堂に現れた艦長のカソック・ピストンに、カリオはプリントを見せながら話しかける。


「そもそもなんでこの町壊滅したんだ?」

「それがな、壊滅した理由も謎なんだよ。壊滅する少し前に兆候ちょうこうはあったのかもしれんが」

「兆候?」

「ああ、そこの管轄下かんかつかの学校でいじめによる生徒の自殺事件が発生してな」


 カソックは手に持っているファイルから一枚、別のプリントを取り出してカリオに見せる。モリオカタウンの近隣の街の新聞記事のようだ。事件の概要がいようが記載されている。


「事件の隠蔽いんぺいを図った学校・加害者に対し、遺族いぞく・町民が激怒げきどして暴動に発展。学校職員と複数の加害者、それらの関係者合計十三人が殺害される事態に……」

「……とそこまでは近隣のメディア連中が取材・記録しててわかっていることなんだが、ある日をさかいに暴動真っただ中の騒々しい町から忽然こつぜんと、住民が一人残らず消えたそうだ」


 カリオがプリントに向けていた視線をカソックに向ける。


「それって……一日とか一夜でか?」

「そう。まあ消えたといっても死体はいくつか出たらしい。もっとも、誰の死体か判別できる状態じゃあなかったらしいがな」




 その横でニッケルとリンコが「ひえー……」とおびえたような声を出す。カリオはプリントに視線を戻す。


うらみありの怪現象かいげんしょうありの……確かにホラー扱いされてもしょうがない内容ではあるよなぁ」

得体えたいのしれない相手と戦うこたぁねえだろ、もしいじめられていた子の怨念おんねんとか……待て今のはナシだ」

「何がナシよニッケル。無理そうになったら引き上げるとかでいいじゃん。依頼の内容的にはそうでしょ?」


 リンコもカリオの見ているプリントをのぞきに来る。報酬については基本報酬を設定したうえで、そこに得られた情報の分、加算していくむねが記載されている。


「意外に悪くないがく設定されてるねー。依頼主さんはもしかして怪現象の正体予想できているとか?」

「かもしれねえな。もし騒動そうどうを丸ごと解決出来たりしたら、結構もらえたりして」




 乗り気になっていくカリオとリンコに対してニッケルは不満そうに眉間みけんにしわを寄せる。


「ニッケル~」


 ニッケルは腰下こししたから聞こえた声に反応して下を見る。そこにあったのはおそろろしい顔をした般若面はんにゃめん――


「オワァ!?」


 ――をかぶったマヨ・ポテトであった。


「ニッケル。一人でトイレ行くの怖いです。ついてきてください」

「なんでそんなもん被ってんだよ!」

「これを被ると強くなれるような気がします。さあオトナなニッケル、トイレついてきてください」


 流石さすがに子供にたのまれてはことわれないようで、ニッケルはマヨと手をつなぎ、不自然にキョロキョロしながらトイレに向かっていった。




 ◇ ◇ ◇




「ここかあ。いやぁ……」


 積み上がった瓦礫がれきの上に立った青年は、周囲を見渡して思わずため息をこぼした。


 夜のモリオカタウン跡地。内戦終結後、とんとん拍子びょうし復興ふっこうしていたかに見えた町は、しかし、一夜にして誰も住まう者のいない瓦礫の山と化した。


 いや、何者かが住んでいるのかもしれない。瓦礫の山からは蛍のような小さな青白い光が、いくつも飛び出してきてはちゅうを舞っている。


「ひどい場所だなぁ」


 柔和にゅうわな顔つきで、毛先がハネたセンターパートの黒髪くろかみの青年は、大きなリュックサックを背負ったままその場に腰を下ろし、飛び交う小さな光を目で追いかけていた。




霊魂れいこんのねぐら、うろつく咎人とがびと② へ続く)

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