「生体反応なし、随分ボロい機体だが……」
三人の傭兵は倒したビッグスーツにスキャンを掛けながら、その機体のあちこちを目で確認する。劣化の激しい箇所が多く、まともなメンテナンスが行われていないことは明らかだった。
「……」
カリオはふと、自分の乗るクロジの手で、そのビッグスーツの胸部にあるコックピットカバーをこじ開けようとする。すると、思いの外呆気なくカバーが外れ、思わず「おわっ」と驚きの声をあげてしまう。
三人は機体のカメラをコックピットに向けてズームする。円形レンズのアイカメラがキュルキュルと音を立てる。
「……」
「……」
「……いないねパイロット」
三人のコックピットのモニターには、パイロットの居ない空のシートが映っていた。血が付いている様子もない。もしパイロットが乗っていたなら先ほどの戦闘によるフィードバックで出血し、コックピットに痕跡が残るはずだ。この不思議な光景を目の当たりにしたニッケルは失神し、彼の機体が傾いて倒れそうになる。
「……って危ねえ、おいニッケル倒れるな! まだオバケの仕業と決まったわけじゃねえだろ!」
「やっぱりさっきの小さい光……だよね。探さないと」
力の抜けたコイカルを揺さぶって中にいるニッケルを起こしたカリオは、周囲からの視線に気づく。
「……探すっつーか、向こうから来たな」
ガシャリ……ガシャリ……ガシャリ……
三人を囲むように、四方から多数のビッグスーツがゆっくり歩いてくる。そのどれもが青白い光に包まれ、輪郭は朧気に見える。
「多くない!? 三十はいるでしょ!」
リンコが二丁のビームピストルを構える。カリオとニッケルもそれぞれ別の方向を向いて、武器を構える。青く光るビッグスーツ達は、それぞれが手に持つビームライフルの銃口を三人に向ける!
ビビビビビビ!
青く光る機体達のライフルから一斉にビームが放たれる! カリオとニッケルは左右にそれぞれ跳躍、リンコは真上に飛び上がって回避する!
ビビビビビビ!
躱されたビームの一部が、別の光る機体に命中し、破損させる。フレンドリーファイアだ。
(コイツらもパイロットが居ないとしたら……コックピットは狙っても意味ないよね!)
一方上空に飛び上がったリンコは逆さまになり、回転しながら二丁のピストルを連射、三百六十度全方位にビームの雨を降らせる! ピストルのビームは六機の敵の手足を撃ち抜き、それを機能停止に追い込む。銃を持てなくなったり、転倒した機体は動きを止め、またもそれを覆っていた青白い光が小さく分かれ、散り散りに飛び去って行く。
回避行動とともに光る機体の懐に飛び込んだカリオは、ビームソードを抜く。次の瞬間、いくつもの青い剣閃が宙に浮かぶ!
横一文字! 袈裟! 逆袈裟! 逆水平!
カリオのクロジが光る機体の隙間を駆け抜けると同時に、八機の光る機体が真っ二つに切断される!
バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ!
二基の楔形の手動操縦式浮遊砲台「チョーク」、そしてニッケルの乗ったコイカルが、光る機体の群れのすぐ上を飛び回り、素早くビームで敵機の手足を射抜いていく! チョークと自機、そして敵機複数体の位置関係から、コンマ秒以下の時間で最適な攻撃行動を選択。時には囮で釣らせて、時には同時射撃で、素早く七機の光る機体を行動不能にする!
カリオとニッケルが倒した機体からも、覆っていた無数の青白い小さな光が飛び去って行った。
◇ ◇ ◇
「んー、ここっぽいなぁ」
モリオカタウン跡地を歩いていた、先ほどのセンターパートの黒髪の青年は、ある建物――の瓦礫の山――の前で足を止めた。
巨大な瓦礫の隙間からは地下へと続く階段が見える。青年は頭を瓦礫にぶつけないよう、身を屈めながらそこへ入り、階段を下りていく。
地下の廊下に入ると、ヴヴヴ……と耳鳴りを低くしたような機械の駆動音が辺りに響いている。青年は懐中電灯の電源をオンにして持ち、廊下を照らしながら電子音の元へ歩を進める。
青年の近くに、いくつもの青白い小さな光が寄ってくる。ふわふわと浮かぶ小さな光は、青年から少し距離をあけた状態でついてくる。
(……結構好戦的な『エメト』とは思っていたけど、僕がガン飛ばしてたらそこまで危なくないか。)
歩く青年についてくる光は少しづつ増えていく。青年はさらに下の階への階段を見つけ、そこを下りていく。
(それでも、僕の言う事を完全に聞いてはくれないな。『主』を止めないとダメか……多分この地下だと思うんだけど)
別の廊下に出た青年はどんどんと進んでいく。駆動音は大きくなっていく。この階になると、建物の損傷は地上に比べて小さい。廊下に接する部屋の様子を窓から覗くと、それほど荒れておらず、中には稼働したままの電子機器すらある。
やがて青年は廊下の突き当たりに辿り着いた。他の部屋に比べて大きめで、頑強な両開きの扉がある。電子ロック式の扉のようだが、緊急動作か何かの影響でロックはかかっておらず、少し開いた状態になっている。
青年はそこに手をかけて扉を開くと、部屋の中に足を踏み入れた。
(霊魂のねぐら、うろつく咎人④ へ続く)