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第22話 同志と契約




らぶ☆さばいばー~戦わなければ生きられない!~、略してらぶ☆さば。


らぶ☆さばのまず1クール30分、12本を見た感想を言おう。




「し、しんどい」




私は今タオルを片手にばだばだと涙を流していた。


私だけではない。

エドガーも私の横でほんのり泣いており、あの無表情なバッカスでさえも辛そうな顔をしている。




「無理だろ、こんな…、雪ぃ…生きててくれよ…2人で最後まで足掻けよ…。こんなのダメだろ…」




放心状態のエドガーが1人でぶつぶつと言っている感想に私は全力で頷きたい。

いや頷いている。


らぶ☆さばは1話の前半だけほのぼの日常系アニメで後半からガラッと内容の変わるものだった。

ほのぼの日常系アニメからシリアス100%のデスゲームアニメに変わったのである。


ある日突然、中学生の主人公、葵と親友の雪、それから30人の年齢や職業の違う美少女、美女たちが見知らぬ学校に閉じ込められる。そしてそこで葵たちは最後の1人になるまで毎日いろいろなゲームで殺し合いをしなければならないというデスゲームに強制参加させられることとなるのだ。


誰がそのゲームに選ばれるのかは決まった時間になるまではわからず、主催者に指名された人間は殺し合うしかない。

もしその試合を放棄しようものならその場で惨殺、決着がつかなくても同じ目に遭ってしまう。


所々に謎が散りばめられており、いつでもハラハラドキドキと休ませる気配のないテンポの良いストーリーにさらには簡単に命が散っていく鬱展開。


1クールの最終回では心理戦の末、主人公葵は最後に残った親友雪の優しい裏切りにより望まぬ勝利を得て1人生き残ってしまった。


とても面白いアニメだが、それと同じくらい情緒がぐちゃぐちゃにされてしんどいアニメだ。




「黒幕は一体…。葵はどうなるの…。雪は…。あの時のあの描写がもしかしたら…」




私もエドガーと同じようにぶつぶつと感想を言いながら2クール目を見るためにリモコンの再生ボタンを押した。




*****




「…っ」




アニメを全て見終わり、最新映画、つまりギャレットに言われたノルマの映画3本目も見終わった。


エンドロールが流れる中、私はここ3日間ほぼ寝ずにぶっ通しで見続けたらぶ☆さばにただただ拍手を送っていた。


名作だった。

睡眠時間を削ってでもみたいと思えた作品だった。




「やばい。すごいよかった…」


「…そうだな。俺もこれ買おうかな…」




涙声で何度も同じ感想を口にする私と大真面目にDVD購入を検討するエドガーの姿をもう何度見たことか。




「先が気になる」




バッカスはエンドロールが終わると無表情だが、どこかそわそわした様子でそう言った。私とエドガーはそんなバッカスにうんうん!と力強く首を縦に振った。


ギャレットに渡された3クールのアニメと3本の映画ではらぶ☆さばは完結しなかったのだ。

また気になるところで映画が終わってしまった。



先が気になって仕方ない!




*****




「へぇ。本当にらぶ☆さば全部見たんだ。感想は?」


「名作でした」




らぶ☆さばのアニメ、映画を全て見終わった私は寝ずにすぐにギャレットの部屋へと向かった。

今日がギャレットに指定されたテストの日だったからだ。


相変わらず人をバカにしたように笑うギャレットのことなど特に気にもせず、私は深く頷いていた。


多少は腹も立つが、いちいち怒っていては何も進まない。

ギャレットはいつもあんな感じだからだ。

慣れた方がいい。




「正直最初はほのぼの日常系アニメかと思ってたけどシリアスデスゲーム展開で涙腺が死んだよね」


「わかってるじゃん。俺のテストを受ける資格はあるね」




今ギャレットの部屋には私とギャレットしかいない。

エドガーもバッカスも私について来たが、ギャレットの部屋の前で門前払いを食らっていた。




「部外者は立ち入り禁止」



と言うギャレットにエドガーは



「ふざけんな!俺は咲良の契約悪魔だぞ!」



などと言いながら扉が閉まる寸前まで猛抗議していたがその猛抗議は当然ギャレットには届かなかった。


逆にエドガーの隣にいたバッカスは無表情、無感情といった状態でただこちらを見つめているだけだった。


エドガーもバッカスも居てくれたら心強いが、必ず居て欲しいというわけでもない。

なので私はエドガー、バッカス、ギャレット、3人のやり取りに特に何も口出しはしなかった。

しようとも思わなかった。




「じゃあ早速問題」




つい先程の出来事を思い浮かべているとギャレットは真剣な表情で私にそう言って、早速本題へと入った。




「初級からね。らぶ☆さばの正式名称は?」


「らぶ☆さばいばー~戦わなければ生きられない!~」


「主人公の名前、年齢、学年は?」


「坂本 葵、14歳、中学2年生」


「まあ、ここまでは常識問題だね」




互いに目を逸らすことなく、ギャレットの問題に私が答えるラリーが続く。




「次行くよ」




こんな感じのやりとりをこれから30分も続けることになるとはこの時の私は思いもしなかった。





*****





「…認めるよ。お前…いや、咲良は俺の同志、俺が認めたオタクだよ」




ついにギャレットが用意していたらしい全ての問題が終わた。

ギャレットは全ての問題に正解した私を称え、感動した様子で私に握手を求めてきた。

私はその手をすぐに掴んだ。




「ありがとうございます」




やっと終わったのだ。


らぶ☆さばは思っていた以上に面白かった。

だからアニメを見るのも映画を見るのも苦ではなかったが、3日間ほぼ寝ずに見続けたことは24歳社会人には少々辛い所業だった。


ギャレットに認められた。

これで寝れる。また一歩人間界へ近づける。




「…あのさ、契約する前に聞きたいんだけど」


「何?」


「咲良が俺と契約する理由って何?ミアちゃんに言われたからってだけじゃないでしょ?」




不思議そうに私を見つめるギャレットの言っていることは意外と的を得ていた。


自分のことばかりだと思っていたが、ギャレットは私が思っている以上に人を見ているようだ。


ギャレットと契約を結べば人間界へ帰れるとギャレットに伝えてもよかったが、それを一から十まで説明するのは今は面倒だと私は思った。

あまり寝ていない24歳の私の体と脳はもう休みを求めている。




「…私の願いを叶えるため、かな」




だから私はギャレットへの答えを濁すことにした。




「…そう。エドガー、バッカス、それから俺と契約して叶えたい願いって世界でも滅ぼすつもり?」


「…」




逆だ。

ギャレットを含めた5兄弟が魔界を滅ぼすという予言があるらしいからそれを阻止するために契約をさせられているのだ。


相変わらず私をバカにしたように笑うギャレットに私は心の中で真実を言っておいた。




「…そんな訳ないじゃん」




もちろん表では何となく濁しただけだったが。




「まあ、いいや。ミアちゃんのサイン付きチェキ欲しいしさっさと契約するよ」




ギャレットは私の濁した答えに特に興味を示すこともなく、そう言うと私との距離を詰めた。

早速始まるのだろう。

あの契約の儀式みたいなことが。




「我が名は特級悪魔ギャレット・ハワード。今人間桐堂咲良と契約を結ぶ」




ギャレットが呪文を口にすると私とギャレットの足元に魔法陣のようなものと紫色の光が現れる。


3度目なのでもうお馴染みだ。

この後の流れも大体わかる。




「代償はミアちゃんのサイン付きチェキ。それから俺の同志であること」




ギャレットはそう言うと私の右手を自身の方へぐいっと引っ張り人差し指に牙を立てた。




「…っ」




わかっていた展開だが、わかっていても普通に恥ずかしいし、痛い。


ギャレットの牙につけられた傷によって指から少量の血が流れ出る。

その血を吸うようにギャレットは自身の唇を私の指に押し当てた。


こちらから見ると指にキスされているようにしか見えない。


ギャレット本人はキスのつもりは一切ないだろうが、私には王子様がお姫様の指先にキスをする、そんなロマンチックな光景にしか見えなかった。


…でも指は普通に痛い。




「これで俺は咲良の契約悪魔だ。…必ずミアちゃんのサイン付きチェキ持って帰って来いよ」




私に先程までまるで王子様のように指先にキスを落としていたギャレットはどこへ行ってしまったのか。


私の指先から唇を離すとギャレットは一切笑いもせず、むしろ私を睨んで圧をかけてきた。


まあ、契約できたし、このくらいいいか。





*****




「と、いう訳で!ギャレットと契約してきました!」




4日の休みが明けた後。

早速ナイトメアで会ったミアにこの4日間の出来事を全て話した。


契約を結ぶ為にこちらが無理難題を言われたこと、その無理難題をほぼ寝ずにエドガーとバッカスとクリアしたこと、30分もしたギャレットのテストなどなど。


話せば話すほど話題は尽きず、私はそれはもう壊れたおもちゃのようにずっと話し続けていた。


その間ミアは「うん」「そっか」「大変だったね」などと終始笑顔で相槌を打ってくれていた。

優しいしやっぱり悪魔だけど天使だ。




「すごいね。あのギャレットと本当に契約できたんだ」




私の話を全て聞き終えたミアは本当に感心した様子で私を見つめていた。


ん?

その言い方だとまるでギャレットとの契約についてあまり期待していなかったと捉えてしまうのだが?




「え?だってミアがきっと契約できるって言ったんだよ?そんな感心するようなことじゃないよ?」


「あー。そんなことも言ったね。あれ、嘘なの」


「…え」


「咲良に協力する為の嘘。ごめんね」




愛らしい笑顔のミアを私は思わず凝視する。


嘘?

うそ?

ウソ…?



「USO?」




ミアの言葉に頭がついていかない。

そんな私を見てミアは「ごめんね」と再び笑顔で形式上だけ謝った。




「ギャレットは誰とも契約を結ばない特級悪魔だってこっちでは結構有名な話なの。だからこのくらい強引にいかないとこれからも契約は難しいかなって。咲良からギャレットの話を聞いた時、チャンスだと思ったの」


「…なるほど」




やっぱりミアはいい子だった。

先のことを考えて、私に優しい嘘をついてくれたらしい。




「…さて。契約も結べたし、約束を果たそうかな?ユリアさーん!」




ミアは私ににっこりと微笑むとユリアさんを呼んだ。


〝約束〟とはサイン付きチェキのことだろう。

ミッションコンプリートまであと少しだ。




「もう、何~?大きな声出して。今はそんなに忙しくないからいいけど2人とも早くこっち来なさいよ~」




ミアに呼ばれたユリアさんが私たちの元へ困ったように笑いながらやって来る。


そんなユリアさんにミアは「待ってたよ、はーい」と言ってカメラを渡した。


ん?

いやチェキを撮るならわざわざユリアさんを呼ばなくても私が撮ればいいのでは?


そう思いはしたが、ユリアさんとミアだけで、どんどん話が進んでいたので、私はそれをただ黙って見つめていた。


とりあえずミアのチェキが撮れてサインさえもらえれば何でもいい。

気がつけばミアは私の隣に移動していた。




「…私も一緒に撮るの?」


「うん。だって私1人のチェキが欲しいなんて彼、言ってないでしょ?」


「まあ、うん」




ふふ、とちょっとだけ意地悪そうな笑みを浮かべているミアに私は歯切れの悪い返事をする。


何かを企んでいるように見えるミアに嫌な予感がする。

気のせいであって欲しい。




「それじゃあいくわよー」




ユリアさんが私たちにチェキを撮る合図をする。

私はユリアさんの合図に合わせてカメラのレンズに笑いかけた。




「はーい」


「…っ!?」




そしてユリアさんがシャッターを押したのと同時にミアは私の唇すれすれのところにキスを落とした。


驚きを通り越して頭が真っ白になる。

今何が起きた。




「あらあら~。ミアったら大胆ねぇ」


「ふふ、咲良が可愛かったからつい。本当は唇に直接したかったんだけどね」




固まっている私なんてよそにユリアさんとミアが楽しそうにお話をしている。




「て、咲良、生きてる?」




私の様子がおかしいことに先に気がついたのはユリアさんだった。

未だに動けずにいる私の目の前で大きな手をブンブン振っている。




「…お姫様を起こすのはやっぱり唇への口づけかな?」


「おはようございます。起きてます。元気です。チャオ」




ミアに今度はゆっくりと迫られて私は慌てて意識を回復させた。

心の中でもう1人の私、リトル咲良の頬を往復ビンタしたところだ。




「じゃあこのチェキ。ちゃーんと渡してね?」




いつの間にか出来上がっていたミアのサイン付きチェキをミアから渡される。


チェキに写っているのはこちらに微笑む私のほぼ唇を奪うミアの姿で、ミアのチェキだというのにミアの可愛い顔があまり綺麗に写っていない。


そしてその写真には約束通りミアのサインもあり、さらにはメッセージまで書かれていた。


『大好き』と書かれたメッセージを見て思う。


これキスされている私へのメッセージにしか見えないのだが?

これギャレットに渡したら嫉妬で殺されないか?




「…あの~、すっごくいいできなんだけど、もう一枚とかは…」


「えぇ?無理」


「…」




撮り直しをやんわりと希望したがそれは笑顔だがどこか冷たいミアに却下された。


あー。これ渡すの怖いんだけど。


後日ギャレットにこの写真を恐る恐る渡すとやっぱりギャレットにものすごい勢いで嫉妬された。




「はぁー!?あり得ない!何これ!?羨ましすぎるんですけど!」


「ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!」


「俺は確かにお前を同志と認めたけどオタク歴は俺の方が何百年も上!レジェンドなの!」


「日本出身でしかもナイトメア勤めでミアちゃんのお気に入りだからって調子乗るなよ!」


「何の取り柄もないクソ女があああ!!!」




これら全てギャレットから言われた言葉である。


まだまだいろいろ永遠と逆によくそんなに言葉が出てくるな、と思うくらい言われたが、そこは割愛させてください。


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