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連絡鳥

 鳥が1羽、街の上空を大きく旋回している。


 ひとりふたりと、その鳥に気付いた魔女探し達が口笛で呼んでみるが、降りてくる気配がない。

 遠目のきく人間がその脚に手紙がある事に気付いたが、降りて来ない事には中身の確認が出来ない。

 矢や魔法で撃ち落とすのは、連絡鳥が貴重な現状、皆が躊躇した


 黒い魔女探しが、商店街の屋根に登って鳥を見据えていた。


「丸腰じゃ捕まえられないだろ、リース。やるなら網か何か持ってこようぜ」


 真似して一緒に屋根に登りかけた格好で、仲間が声をあげる。本気というより面白半分だ。


「いや、大丈夫だ」


 何かを探しているのか、戸惑ったような鳥の動線をじっとみつめる。

 つと頭上を通過する機会を見計らって、リースは身を屈めてから、トンと屋根を蹴った。

 体重を感じさせない跳躍に、それを目撃した人間は、呆然と口を開いた。

 相当な高さを飛んでいる飛行中の鳥をぱっと掴んで、空中でくるりと一回転し、通りを挟んだ商店の屋根に軽やかに着地する。


 リースを知らない魔女探し達は、そういう風魔法の使い方があったのかと、先を越された事を悔みながらも納得した。

 が、彼と一緒に来た人間達は、逆に驚くだけだった。

 ――リースは、魔法を使えない。

 普通の人間でも学習すればごく簡単なものは使えるのだが、彼にはその素養が全く無い。


「すっげー! お前は、猫か?!」

 鳥の羽を両手で包み込んだリースは、小さく笑んでみせる。


「俺は人間のつもりだ。猫なら、まだ可愛いだろうがな……。それより、北門の方へ急ぐぞ。今跳んだ時、路地を向こうに走る怪しい人影を見た」

「何だそれ? 雑貨屋はどうするんだ」

「リーオレイス人が長時間無駄に立て篭るなんて、らしくないだろう?」


 手際よく連絡鳥を袋に詰め込んで、見上げる仲間に放り投げる。

 彼が慌ててその荷物を受け取って再び目を上げると、リースが屋根伝いに北門の方向へ軽々と跳び移っていくのがちらりと見えた。


 そのとき突然、爆発音が街を震わせた。

 一気に黒い煙が南から立ち上る。


 動揺のなかで聞こえた南門が破壊されたという声に、魔女探し達は走り出した。

 北のリーオレイス帝国に向かう筈なのだからと北門に集結していたのに、南門から逃げられたのではたまらない。

 北門を占拠していた魔女探し達が南門へと殺到する。


 もうもうと立ち昇る黒い煙が、山地から吹き降ろす風で街に流れ込んできて、住人たちは迷惑そうに家屋に避難した。


 やっと職場を取り戻した北門の門番が、ため息をつきながら門を開ける。

 その直後に門の外へ駆け抜けた男女には、声をかける隙も無かった。

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