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勇者カストル

 鬼族と蛮族の戦いが始まった。各陣営で先陣を切るのはブレンダとカストルだ。二人は最前線で対峙した。


「勇者か、善人ヅラして他所の争いに介入する迷惑者めが」


 ブレンダが吠え、巨大な棍棒を振り下ろす。


「そりゃしょうがないさ、モンスターはミナゴロシが勇者の使命なんでね!」


 カストルは軽いステップで棍棒の一撃をかわし、左手の剣で棍棒を押さえるように刃を立て右手の剣でブレンダの脇腹を刺そうとした。


「フンッ!」


 ブレンダが身体を捻って攻撃をかわし、力任せにカストルの剣ごと棍棒を横に薙ぐ。


「おっと!」


 カストルはその力に逆らわず数歩先の地面へ跳び、着地点の横にいた鬼族の首をねた。


 二人の周囲では既に両軍が衝突しており、二つの種族が入り乱れて戦っている。カストルが近くの鬼族を倒すのと時を同じくしてブレンダも近づく蛮族を棍棒で打ち倒していた。蛮族の指揮を執るジルは二人の周辺から離れて戦うよう指示を出す。


「無用な被害を出したらあかん、あの大女はカストル殿に任せるんや!」


 蛮族達が二人から距離を取ると、鬼族もそれを追うように二人から離れ彼等と交戦した。


「ありゃ、獲物が遠ざかっちまった。さっさとお前をぶっ殺して鬼族を掃除しに行かないと」


「まったくだ、とっとと貴様を始末して蛮族どもを狩りに行かなくてはな」


 カストルとブレンダ、二人が武器を構え向かい合う。言葉とは裏腹に、慎重に間合いを詰めていく二人。先程の攻防でお互いが侮れない事を認識したのだ。数秒間ジリジリと近づき、一足飛びの間合いに入った瞬間二人は同時に地を蹴った。




「急げ! もうぶつかってる!」


 ジャレッドが馬の背から仲間を急かす。ケント達は馬車ではなく馬に乗って戦場へ急行していた。アイリスは馬を駆った経験がないのでケントの背中から腕を回してしがみつくようにして後ろに乗っている。二人を乗せた馬は健脚ではあるが他の馬にスピードで劣り、少し遅れて進んでいた。コレットはジャレッドの馬の首に張り付いている。


 依り代はアベルの部屋に置かせてもらった。クウコが置いていけと指示したのだ。


「申し訳ありません、ケント様。私のせいで遅くなってしまって」


「気にしないで。アイリスがいないと安心して戦えないからね」


 慰めの言葉より、戦闘において彼女が頼りになる事を伝える。そうやって仲間を必要とする姿勢を常に見せるケントの事をアイリスは人として尊敬していた。


 だがそんな彼女に抱きつかれているケントは、背中から伝わる女性の感触に意識が向いてしまう自分を心の中で必死に叱咤しったしているのだった。


(うう、こんな時に余計な事を考えるな僕! 今は蛮族の危機に意識を集中するんだ! ……柔らかい)




 カストルが片方の剣で防御しながらもう片方の剣で斬り付ける。ブレンダは棍棒で力任せに防御ごと打ち払う。戦いを続けるうちにカストルは息が上がり、ブレンダの身体にはいくつもの傷がついていた。


「大したタフさだ」


「貴様も大した素早さだ」


 二人が互いを称える言葉を発し、息をつく。そして、同時に口を開いた。


「だが、これで終わりだ」


 一字一句全く同じ言葉を発し、二人は必殺の一撃を放つ準備態勢に入った。


 先に技を繰り出したのはブレンダだ。


『ギガントスマッシュ』


 全力で振り下ろされる棍棒の一撃。単なる力任せの攻撃ではなく持てる限りの魔力も込めた、正真正銘、全身全霊の一撃だった。


 カストルは口角を上げて細い目を更に細める。


『カウンターエッジ』


 相手の攻撃をかすめるようなギリギリでかわし、真っ直ぐにブレンダの喉元へ剣を突き出す。これは相手の突進力を利用して威力を増す反撃技だ。ブレンダの全力を乗せた攻撃は、そのまま自身へ向かう刺突威力に変換されたのである。


「ヒュウッ、また賭けに勝ったみたいだ」


 相手の懐に飛び込み攻撃を紙一重でかわさないといけない、常に死と隣り合わせの技だ。ほんの少しのミスで自分が敵の攻撃を無防備な状態で喰らう、極めて危険な必殺技なのだった。


 喉から脳天へと串刺しにされ絶命したブレンダをその場に残し、次の敵を求めて走り出すカストル。


 リーダーが倒されても、鬼族が戦いの手を止める様子はない。戦場には武器のぶつかる音と怒号が響き、大地が血で赤く染まっていく。数で劣る蛮族は、劣勢に立たされていた。

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