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反攻に転じる

 鬼族の侵攻により蛮族の集落は大きな被害を受けた。ジルが確認したところ、十名の死者が出た。集落の三分の一の蛮族が命を落とした事になるが、敵の数を考えればそれでも最小限に抑えられたといえよう。


「放っといたらまた大軍で押し寄せるぜ。敵は王の命令とか言ってたし、ボスを倒して大人しくさせた方がいい」


 カストルの提案に反対する者はいなかった。ケントも先程の戦闘で一方的な虐殺に抵抗を覚えたので、首謀者を直接倒してしまう方が気が楽だと思っていた。


「鬼族の王ってどこにいるの?」


 コレットがライオネルに聞く。


「ここから北に半日ほど歩いた先に奴等の本拠地があります。恐らくそこにいるでしょう」


 道路が整備されていないので馬に乗って行くわけにもいかない。森の中を歩いて進むよりほかにないのだ。


「森を進むなら、私がお役に立てそうですね」


 アイリスの魂を見る能力は視界の悪い場所でも遠くまで見通す事が出来る。特に鬼族のように体の大きい生物が相手なら障害物に身を隠しやすいので、敵の見張りを避けて潜入する事が容易になる。


「じゃあ、俺と応援に来てくれたみんなで行こう。集落の立て直しはジルさん達に任せて」


「そうですね、それが良いでしょう」


 カストルの言葉に同意するライオネル。さすがに好き嫌いで同行を拒否するような事は無かった。


「お兄ちゃん、クウコは出さんといてね」


 道中マキアがアベルに釘を刺す。空狐の技を使うとマキアやライオネルが戦えなくなるので、本当に必要な時にだけ使うように決めたのだが改めて念を押した。先刻の戦いで剣を振るえなかった事が不満だったのだ。


「わかっとる、ボスまではワシの出番は無しじゃな」


 アベルも彼女の気持ちは理解しているので素直に返事をした。


「そのクウコはどういう仕組みで効果の違う弱体化を行っているんだい?」


 質問されて少し躊躇ためらうが、勇者相手に隠し立てするのは良くないと判断して自分達の知っている事をありのまま、全員で手分けしながら説明した。


「そんなわけで、生まれつき持ってる強さが無くなって後から手に入れた強さだけで戦う事になるんじゃ」


 説明を受けたカストルは少し考えてから誰にともなく呟いた。


「なるほどねぇ、その後から手に入れた強さっていうのは俺達が言うところの『神の奇跡』なわけだ。そして才能値の低い黒騎士が強くなる方法を教えてくれたと」


 なるほどと言いながら頷く彼の様子を見て、安心するケントだった。


(良かった、受け入れてもらえそうだ)


 人間の常識ではなかなか受け入れがたい事実なので、アウローラのように協力を断られるかと思っていた。だが目の前の先輩勇者からは拒絶するような様子は見られなかった。


(……これは、どうしましょう?)


 だが、ケントの横にいたアイリスは無言で不安そうに拳を握っていた。そして、誰もその様子に気付く事はなかったのであった。


◇◆◇


 鬼族の本拠地にて。


「ブレンダは勇者カストルにやられました」


 地図の前に立つ王に向かって片膝をついて報告する大柄な男の鬼族がいた。


「勇者達はここを目指してこのルートで攻めてくるであろう。ダンカイルよ、敵にはこちらの魂を目視して存在を察知する者がいる。この杖を持っていけ、あの女の目を欺くことが出来よう」


 ダンカイルと呼ばれた鬼族は、恭しく両手を挙げ王から奇妙な杖を受け取った。


「はっ、必ずやかの勇者どもを打ち倒してご覧に入れましょう」


「邪魔な勇者達を倒せば、蛮族など恐るるに足りぬ。期待しているぞ」


 そう言って王はまた地図を睨むのだった。


 ダンカイルは兵を率いて敵を迎え撃つため、本拠地を後にした。

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