朝の気配に目を覚ましたオレは、身体を動かそうとして両腕が動かないことに気がついた。
左右とも肩の辺りでガッツリ動かなくなっている。
なんだ? まだ三十歳なのに
仰向けに寝たまま、左右を見る。
右を向いてもギャルの寝顔。左を向いてもギャルの寝顔。
そうでしたそうでした。
「おっはよぉ、テッペーさん……」
オレの右腕を枕として寝ていたドロシーが、愛おしそうに自分の頬をオレの頬にスリスリすると、唇に軽くキスをしてきた。
にひひと笑ってベッドから立ち上がる。
上から下まですっぽんぽん。背中が綺麗なんだよな、この子は。
「あっれぇ。パンツどこいったろ。パンツぅ、あたしのパンツ、返事しろぉ……」
半分寝ぼけながら、履いていたアニマル柄のTバックを探し始める。
ソファに引っかかっていたパンツを見つけたドロシーは、パンツを右手の人差し指に引っかけると、クルクルと回しながら事務所の奥にあるシャワールームに向かった。
この事務所には簡易的ながらシャワールームがある。
何かのトラブルで泊まりになったとき用に店長が用意していたのだろう。
「あえぇ? もう朝ぁ? うぅ……起きなくっちゃ……」
ドロシーに遅れること三分。
オレの左腕を枕に寝ていたキャシーが、これまた眠そうな顔で起き上がった。
まだ眠いようで、頭をかきかき、半開きの目でそこらへんを見ている。
こっちもすっぽんぽん。胸がメロン並みにデカい。
「あ、あったあった、私のパンツ……。よいしょっと」
起き上がったキャシーは床に落ちていたグレーの綿パンツを拾うと、ベッドに腰かけてオレの唇に軽くキスをした。
キャシーの眠たげな視線が、真っ白なシーツをかぶったままのオレの下半身に移動する。
目的の場所を見つけたようで、キャシーがシーツ越しにオレのパオーン号をツンツンと突いた。
「……キミ、何やってんの?」
「
屈託なく笑ったキャシーもまた、立ち上がるとパンツ片手にシャワールームへと向かった。
中で合流して昨夜の話でもしているのか、シャワールームの扉の向こうからドロシーとキャシーの笑い声が聞こえてくる。
オレはベッドに腰かけたまま、軽くため息をついた。
一人あたり三戦。二人で計六戦もしたから、さすがに腰が痛い。
オレも若くないなぁ。
ガチャ。
やがて、バスタオルを身体に巻きつけたドロシーとキャシーがシャワールームから出てきた。
二人そろって意味深な笑みを浮かべつつ、オレの前に立つ。
「ねね、どっちが良かった? もちろんアタシだよね?」
「私だよぉ。でしょ? テッペーさん。にゃっはは」
「いやいや、二人ともとっても魅力的だったぜ?」
「「ずっるぅぅぅぅぅい!!」」
バスタオル姿のドロシーはオレの右隣に座ると、オレの右腕にしがみついた。
「ね、シャワー浴びてサッパリしたことだし、今からまたしちゃう?」
「いやいや、開店準備をしないと」
「そんなに張り切らなくっても、今日はそんなにお客さん来ないって」
「どういうこと?」
キャシーがオレの左隣に座ると、オレの左腕にしがみついてきた。
「今日は昼くらいから風が強くなる予報だったってことよ。ねね、何だかんだ言ってコッチは正直だよ? にゃはは」
「これはその、朝の習性ってやつで……。それより風が強いと何で客が来ないんだ?」
ドロシーとキャシーがニヤニヤ笑いながら、シーツ越しにオレのパオーン号にちょっかいをかけてくる。
ムクムクっ。ムクムクっ。
お相手したいのはやまやまだけど、店主と店は休まないって約束しちまったからな。もったいないが、ここはお仕事優先だ。
ガチャっ。
そこで事務所の扉が開いた。
「久我、戻ったか。体調は大丈夫か?」
それは、珍しく頭に寝ぐせを作った、オレの相棒の久我だった。
昨夜はここまで抱えて戻るのが無理だったから飲食店に預けてきたのだが、どうやら朝起きて、ここまで歩いて戻ってきたらしい。
久我が無言でこちらを見る。
上半身裸で、下半身に真っ白なシーツをかけただけでベッドに座ったオレと、素肌にバスタオルを巻いて、オレの両隣に引っついて座るギャル二人。
うん、まんまやね。
久我は立ったまま大きくため息をつくと、口を開いた。
「二人同時にか。相変わらず元気なもんだ」
「そう言うない。さ、じゃ、開店準備といこうぜ、久我」
「その前に、シャワーを浴びてからだな。お互い臭うぞ」
慌てて体臭を確認するオレを放っておいて、久我はさっさとシャワールームに向かったのであった。
◇◆◇◆◇
だが、勢い込んで開店したものの、ギャルたちの言葉通り、今日はなぜか客がこない。
昨日はあれだけ店がにぎわったのにだ。
「どうなってるんだ、これ」
「だから言ったでしょ? テッペーさん。えっと天気予報のチャンネルは……」
ピンクの縦縞の入ったミニスカウェイトレス服を着たドロシーが、店のテレビをつけた。
見た目は小さなブラウン管テレビなのだが、電気とか電波とか、ここの文明はどうなっているんだろうな。
移動手段はまだ馬なのに。
テレビに映ったのは、画質の悪そうな白黒映像だ。
女性アナウンサーがしゃべっている。
『……というわけで、今日は一日通して風が強くなる予定です。
「……ね?」
ドロシ-は肩をすくめると、テレビを消した。
ダイナーの中を沈黙が占める。
「ゴースト? って何だ?」
「んとね、子供みたいな背丈した真っ黒な影みたいな魔物なの。見た目の割に結構強くってさ。武器持った大人でも敵わないんだけど、風が強い日にしか出ないからさ」
「それに、扉さえ閉めちゃえば建物の中には入ってこれないんだよ。やり過ごしちゃえばいいのよ。にゃはは」
ドロシーとキャシーの話を聞いていてピンときたものがある。
そう、ジャングルで戦ったシャドウだ。
あまりに特徴が似すぎている。
オレと久我は腰に巻いた白エプロンを外しつつ、そろって窓際まで行った。
予報でいう風の強い時間帯に入ってきたようで、窓の外では
ダンブルウィードも勢いよく転がっていく。
いずれにしても、客が来るまではコックの出番はなさそうだからな。なら、キッチンで突っ立って待とうが店内のソファに座って待とうが同じってもんだ。
「どう思う? 久我。ゴーストってのはつまり……」
「この地の影響を受けて変化したシャドウなんじゃないか。かな?」
オレと久我の視線が交錯する。
そのときだ。
「うわぁあぁあぁぁぁぁあぁあああああ!!」
「助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!」
店の外から、複数の男性の叫び声が聞こえてきたのであった。