バーニーとダリルの様子がおかしいと気づいたのは、店に戻ってすぐだ。
ときどき目が泳いでいる。これは何か隠していることがバレるのを恐れている顔だ。
オレはこれでも教師だったからな。すぐピンときた。
風が多少弱まったときを見計らって子分どもを一人残らず返したオレは、早速二人の尋問を始めた――。
「で? 何をしたって?」
「いだい、いだい、いだい! ごべんだざい、ごべんだざい!
オレに襟首を絞められたバーニーが、目を白黒させながら叫んだ。
その横では顔の下半分をすっかり包帯でグルグル巻きにされたダリルが、正座しながら『ごめんなさい』ジェスチャーをしている。
ダリルは久我の蹴りで顎を砕かれてしゃべれないからな。
「だ、だっで、
「あぁ、くそ。おい、ドロシー、キャシー、こいつ何言ってるんだか分からねぇ。いや、歯を折ったのはオレなんだけど、このままじゃ会話にならん。とりあえず通訳してくれ」
「ほいほーい」
「おっまかせぇー」
金髪ミニスカウェイトレスのドロシーが、顔中医療テープだらけのバーニーの左隣にひざまずいた。
思わずバーニーの目がドロシーの胸に吸い寄せられる。
キャシーはダリルの左隣だ。
こちらも、よだれでも垂らしそうな目でキャシーのメロンみたいな巨乳に釘づけになっている。
ここの制服はピンクの
あの太った店長の趣味なんだろうが、ドロシーやキャシーは、よくこんな制服を着ることを了承したな。
そのぶん、給料が高いのかもしれん。
「おい、若造ども。二人をエロい目で見るんじゃねぇ」
「ぐげっ!! わがっでる!! わがっでるがあぁ!!」
オレの軽いかかと落としを食らって床に突っ伏したバーニーが悲鳴をあげる。
ダリルは慌てて平身低頭。
まぁでも気持ちは分かる。こんなエッチな制服着たギャルがそばにいりゃあ、見たくもなるよな。若いし。
「ふんふん。え? あらら。え? あちゃあ……」
「えぇ!? うっそ、まじぃ? やっちゃったねぇ……」
「……なんて?」
しばらくバーニーの話を聞いていたギャルたちが振り返る。
「えっとね、この二人、風の塔の封印を破っちゃったんだって」
「今朝がたのことらしいよ。あららぁ」
「……風の塔? なんだそりゃ」
ドロシーとキャシーが顔を見合わせる。
「あ、そっか。テッペーさんたちって最近になって外からきた人だもんね。風の塔を知ってるわけないか。ならしょうがない」
「うちの町で唯一の、隠れた観光名所なのにね。にゃはは」
「コーヒー、淹れてきたぞ。飲みながら話そうじゃないか。えっと、風の塔だっけ? それがどういうものなのか、教えてくれるかい?」
四人分のコーヒーをお盆に乗せた久我が合流すると、ソファに座った。
ギャルたちが嬉しそうにコーヒーカップを手に取る。
「んとね? この先にだだっ広いだけの、山を利用して作られた広い公園があったんだけど、一年ほど前にそこに隕石が落ちてきたの」
「隕石ねぇ……」
オレはそれとなく久我と顔を見合わせた。
久我が小さくうなずく。
こいつはジャングルと同じパターンだ。ってことは、降ってきた隕石だかってのは、魔王に関係する何かの可能性が高い。
「それで山ががっつり削られて、そこに大きなクレーターができちゃったわけよ。でまぁ、危険ってことで立ち入り禁止にして周囲を防護壁で覆ったんだけどね」
「まぁそうだろうな」
「元々山だったところだし、言うほど人気がある公園じゃなかったから、町としては放置を決め込むことにしたわけよ。そしたらさ? いつの間にかクレーターの中央に、高さ四、五十メートルはありそうな塔が建っちゃってたの。誰も建てた覚えがないのによ? 不思議じゃない?」
「不思議だよねー」
そんないわくつきの場所に塔が勝手に建っただと? めちゃめちゃ怪しいじゃねぇか。
「しかも、それ以来クレーターの周囲を中心にこっちの方まで魔物が出るようになっちゃって。あんまりにも魔物が
「でね、でね? 魔物が出るには条件があって、必ず風の強い日なんだよ。ってことは、そういう日だけ避ければ安全じゃん? 防護壁を改良して魔物を封じ込めるように改めたし。だもんで、今までの不人気がどこへやら、風の塔って呼ばれて町の人たちの隠れた観光スポットになっちゃったんだー。って言っても位置が悪くて、塔はこっそり忍び込まないと見れないんだけどさ」
「なーるほどね。で? こいつらはそこで何をしたんだって?」
オレはジロっと横目でバーニーを睨んだ。
バーニーとダリルが身体を寄せ合って固まる。
むむ? 条件反射で怖がっている。ちょっとやりすぎたか?
「テッペーさんとミッチーさんにボコボコにされた腹いせで、防護壁を壊しちゃったんだって。あれのおかげで強風の日以外、魔物があんまり外までは出てこなかったんだけどね。多分今、魔物、
「笑いごとじゃないだろうに。まったく、余計なことしやがって」
「とはいえ、放っておくわけにもいかないだろう? 藤ヶ谷。何とかしないと」
「それはそうなんだがこの店はどうする。店長との約束ってものがあるぜ? コックが二人そろっていなくなったら店が開けねぇぜ、久我」
カランカラーーン!
入り口のカウベルが鳴る。
振り返ったオレたちがの視線の先にいたのは、スダレ頭に真っ白な包帯を巻いた樽のような腹の五十代の男――店長だった。
慌てて近寄る。
「店長、動いて大丈夫なのか? 無理しちゃ駄目だぜ?」
「おぉ、ありがとう、テッペーくん。テレビを見てちょっと心配になって。やはり魔物が現れたようだね。今日はお客さんもあまりこないだろうから閉めてしまおう。そこの子たちは……」
「きつくお
オレたちの視線が集中したせいか、正座状態のバーニーとダリルが縮こまる。身体はデカいけどな。
「それで? いくんだろう? テッペーくん、ミッチーくん」
「まぁ……ね。そのために来たんだし。悪いな、店長」
「気にしなさんな。頑張って行っておいで、二人とも」
オレは立ち上がった。
久我が隣に立つ。
ギャルたちも立ち上がってオレたちの手を取った。
「テッペーさん、ミッチーさん、気をつけてね」
「そのまま行っちゃう……んだよね? しょうがないよね……。でも、近くに来ることがあったら寄ってよ。うちらに会いにきて」
「あぁ、必ず。君らの無事を祈るよ」
ドロシーとキャシー、そして店長と握手をする。
「みんな元気で!」
「さようなら、みんな」
そして店を出たオレたちは、バーニーとダリルの馬にまたがると、風の塔に向かって全力で走らせたのであった。