自室に戻ったあとは、部屋の整理を始めた。まさか戻ってくるとは思わなかったが、最終的にはここを出る。
「蓮……」
――『なんだ?』
「あのさ、僕たちって一体何者なんだろうね……」
ずっと考えていた。僕は人、蓮は魔生物。属性が違うのに一緒にいる。最近では僕は水と光を、蓮は水と雷を使っている。
どうしても気になったので、景斗さんに質問する事にした。送るとすぐに返信が来る。そこには、『複数属性を使う者はいるが、非常に希なケース』と書かれていた。
――『ほんとそうだよな……。俺も自分が何したいのか……。完全に忘れちまってるし……』
「そうなんだ……」
――『そういや、研究所に行く日は決まったのか?』
「ううん。決まってない。あの時行こうと思ったけど、怜音に呼ばれちゃったし」
――『そうだったな……』
本当はすぐに行きたい。この状況をひっくり返したい。だけど、それにも準備が必要だ。蓮が作った魔法『ライジング・レイ・ラビリンス』。
蓮もあの後どうなったのか覚えていないらしい。だけど、一掃はできたと個人的に思っている。きっと大丈夫だ。
「蓮。あの魔法の調整は進んでる?」
――『いいや、進んでないな……。俺からの要求なんだが……。しばらくオマエの身体を貸してくれないか?』
「え? 別に……いいけど……」
そんなことなら別に問題ないし。僕はバックに移動する。するとすぐに蓮が行動を開始した。向かった先は景斗さんの部屋だ。
何度見ても、部屋が眩しすぎる。それだけでもすごいのに……。蓮は景斗さんの机の引き出しを物色し始める。そこからたくさんの注射器が出てきた。
どれも前に使ったものと一緒で、中に黒い異物――蓮の欠片が入っている。彼はそれを次々と僕の身体に刺し始めた。
――『やっぱりこれくらいやっておかなくちゃな……』
「蓮嬉しそうだね」
――『まあな……』
合計10本。全て入れた身体はどうなっているのか……。だけど、蓮はこれでいいと思っているのだろう。
少しして部屋の主が戻ってきた。蓮が引っ込むかと思ったがそういうことはなかった。
『君は蓮さんだね?』
『な、なんでわかったんだよ……』
『うーん。勘……かな?』
景斗さんはぼかす。それは何を意図してなのかわからない。景斗さんは机の方へと向かう。開きっぱなしの引き出しを見て、僕は彼が怒るのではと身構えた。
『注射……。全部やったみたいだね……』
『すまない。勝手にやらせて貰った』
『いいのいいの。僕は気にしてないから』
景斗さんは優しい。だけど、蓮はまだ何かを欲しそうな感情をこちらへと向けてくる。僕は彼がしたいことであれば、なんでも付き合う。
すると、景斗さんはゲートを開き黒い物体のを取り出した。
『君が探してるのはもしかしてこれ?』
景斗さんがそう言って見せびらかしてくる。スクリーンが揺れる。蓮が暴れ回っている。
『返せ!』
『やだね。これはまだ研究途中なんだ。きっとこれに原点が隠されている。そんな気がするからね』
『それでも返せ! それは俺のものだ!』
だけど、手が届かない。僕はただ眺めることしかできない。ガリッっという音がした。スクリーンは真っ暗だ。
『あはは……。食べられちゃった』
景斗さんが呆れたような声をこぼす。どうやら蓮が食べたらしい。だけど、彼の声が聞こえない。まだ食べている最中なのだろうか。
『まあいいや。まだ君の残骸はたくさんあるし、僕なら複製もできるからね』
『なら一個くらい、いいんじゃないか?』
『そうだね……。どう? 自分の失ったものを取り込んだ気持ちは?』
『気分はいいな……。ただまだ本来の力は引き出せなさそうだ……』
『そう』
景斗さんはもうひとつ同じものを出す。そしてそれを僕たちの方へ渡してきた。蓮が受け取ると、再びガリッっという音が聞こえる。
すると、目の前の彼が言った。
『人の身体なのに。優人くんの身体は耐えられるんだね……。気をつけて、研究所には一般人に魔生物の遺物を食べさせて凶暴化した戦闘人間がいる。君も。ううん。君たちなら大丈夫。きっと世界を救えるはずだよ』