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第23話 (後編)

 僕が他とは違う……。みんなとは何かが違う。そんな思考が渦巻いていく。


 自分とはなにか。蓮とは何者か。この世界に生まれて来て良かったのか。僕は人であって人ではない。そんな含みのある景斗さんの言葉。


 それが何か。何かが崩れる。世界が真っ白に染まっていく。ここにいていいのかな。自問自答するほど迷宮の中に吸い込まれていく。


 怜音が言っていた〝〟。そして〝〟。そのふたつの意味を理解できない。


 たしかに、僕は怜音を守った。梨央を守った。住宅街の住民を守った。だけど、それは蓮がいたから。自分とは違う存在が活躍してくれた。ただそれだけなのに……。


 蓮がきっかけで第一部隊にも入った。僕の立ち位置としては訓練生だろう。だけど、この第一部隊では訓練生であっても現場で戦う。


 それでも、僕は誰よりも活躍した。攻撃魔法が使えないと思っていた僕は、いつの間にか使えるようになっていた。


 属性は違えど変化はしている。蓮はあの後、景斗さんと魔法式の研究をしていた。〝盲視術〟と〝ライジング〟の改良と完成を目指すためらしい。


 その間僕はずっと寝ていた。なんか久しぶりに夢を見たような気がする。広い、広い平原の中。そこは公園になっていて、近くに博物館がある。


 よく親と一緒に行っていた恐竜博物館だ。僕は恐竜が好きだった。それは間違いない。小さい時僕は黒い獣に会っていたのも、少しづつ思い出してきていた。


 多分それが、蓮との出会いかもしれない。その時から僕は彼と会っていた。僕は魔生物と争いのない世界を願っていた――のかもしれない。


 だけど、実際はどうだ。目の前の獣は人間に狩られ、絶命した。そんなのを見たくなかった。たしかにそれで家族を失った人は大勢いる。


 大昔に起きた無差別的な争いは、兵器を使ったものがほとんどだった。しかし今では兵器がなくても魔法で争える。


 魔法を使った犯罪まである。それも、もし景斗さんの親族や子孫だとしたら。全く赤の他人になったとしても多少は血が繋がっているのに……。


 そう考えると、僕はどっちでもない。どっちつかずな存在なんだと思ってしまう。もっと、もっと世界を知りたい。多分、研究所に行けばわかるのだろう。


 ふと目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。改良は上手くいったのだろうか。蓮の状況を確認すると、もう既に寝ている。


 スマホで時間を確認すると、日付が変わった3時だった。そして、ロック画面を外すと、メモ書きのページ。そこには様々なことが書かれている。


 改良研究に5時間から6時間以上かかったこと。盲視術とライジングの安全性。盲視術で希望している能力。それが全てクリアしたということ。


 そして、蓮の就寝時間まで。彼が寝たのは今から1時間前。そこまで書いてくれるのならば、自分の身体のケアはしやすい。


 久しぶりに自分で作った魔力水でも飲むか。そう思ってジョッキを出して注ぐ。飲んでみるとかなり薄く感じた。


 魔力が回復しているような感覚はしない。やっぱり、景斗さんが作った超濃縮魔力水の方がいい。そう感じてしまう。


 自分ももっと濃い魔力水を作れれば。もっと自分の魔力を操作できるようになれれば。自分を満足できれば。


 まだ早い時間だけど、僕は景斗さんの部屋へと向かった。彼に研究所への道を開けてもらうためだ。彼はすぐに引き受けてくれた。


 ゲートをくぐる。ズンと重い空気が立ち込めるそこは、廃工場のように荒れていた。正面に立ちはだかる建物。これが例の研究所なのだろう。


 まずは、周辺探索。だけど裏手に回る道がどこにもない。門はとても高く、シャボン玉で飛んだとしても僕の精神が持たない。


 外は暗い。だけど、この時間が一番良い。蓮が書いたメモ書きには、魔物が活発に動く時間は深夜帯。明朝には鈍くなると言っていた。


 だから正解と言える。門の壁にはモニターが設置されていた。まずはこれを壊そう。僕は無詠唱でライトニングを放つ。電光は機械を破壊した。


 水壁での水流で門を無理やりこじ開ける。並に乗って入口まで行くと、寝ている門番がいたので気絶させておいた。


 なんか自分が悪いことをしているようで面白い。ここからが本番だ。研究所を、蓮の故郷を破壊する。魔生物として残るのは蓮だけで十分だ。

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