◇◇◇第一部隊本部拠点にて◇◇◇
「優人くん! 優人くん! いない……」
「いないですね……」
ボクの声に麗華さんが応える。今日は朝から様子がおかしい。ボクや麗華。斬くん。他の隊員たちも加わって、優人くんを探している。
もしかしたらと景斗くんの部屋にも行ったが、鍵がかかってて入れない。ボクが早く気がついていれば……。
外は快晴。もっと言うと雲ひとつなく、青と言うよりは海の色が反映されていない白。薄曇りという訳ではなく、カンカン照りになっている。
優人くんは外出をしている? 一体どこへ。ボクは色々と考えた。たしか今日は学校がある日だ。
麗華タクシーを利用して斬くんと一緒に学校へ行く。そこの生徒に優人くんが登校しているか聞くと、誰も知らないと口を揃えて言った。
じゃあ、どこへ。すると、ゲートが開く。中から出てきたのは景斗くんだった。そのまま腕を掴まれると、グイっと引き込まれ気づいたら彼の部屋。
「景斗くん。もしかしてボクに用事?」
「うん。あと、斬さんも……。きたきた」
斬くんがあとから部屋に入ってきて、ここには3人だけ。景斗くんがボクたちに用があるなんて、非常に珍しい。
「景斗くん。ボクたちに用事があるって……」
「それねー。まず優人さんがいる場所を教えてあげるけどどーする?」
「優人くんがいる場所?」
景斗くんは1枚ののプリントを取り出す。そこは工場のような建物だった。
「ここに今優人くんはいる。この研究所を破壊するためにね」
「あいつが一人でっつーことか!?」
「そう」
「クソッあの馬鹿野郎め!」
「まあまあ。斬くん落ち着いて……」
ボクが斬くんを宥めると、すぐに肩を竦めて落ち着いた。ただ、優人くんがここに一人で行ってるというのは、正直無謀だ。
書かれている説明を見るに、魔生物を研究している場所。いくら彼が――彼たちが異常な強さを持っていたとしても、厳しいものがある。
「君たちにも、優人くんが行ってる場所へ行って貰いたい。その前に斬さん。これ飲んで」
景斗さんが用意したのは濃縮魔力水だった。斬くんはそれを持つと一気に飲み干す。体調不良にはならなかったようで少し安心した。
「よし。斬さんのことがわかったから。これでメンバーは揃ったね……」
「『メンバーが揃った?』」
「三龍傑。いや、三英傑のメンバー。優人くんを筆頭に怜音さんと斬さん。このメンバーなら、魔生物暴走事件を早期解決に導ける」
ボクが三英傑……。聞けば、それは第一部隊の特殊部隊枠に相当する本物の最強部隊。つまりは……。
「ボクたちも、優人くんがいる研究所に?」
「そういうことになるね。ただ、今の君たちだと、魔生物に襲われた時感染する可能性が高い。だから抗体を作ってもらう」
「抗体?」
景斗さんは引き出しから注射器を取り出す。そこには何やら赤い液体が入っていた。これは――。
「優人くんの血液。彼の血液を検査してら抗体が既に出来上がってることがわかってね。彼の身体は魔生物に対する耐性が非常に強いことが判明したんだ」
「つまり、それをボクたちの身体に打つってことかな?」
「そうだね。本当はワクチンまで作れば安全性を高めることが出来るんだけど、さすがに無理だった。この状態だとかなり濃度が高いから、それなりの危険性がある……」
景斗くんの声色が暗い。そんなに危険なことをしないといけないなんて。ボクはもう覚悟はできてる。だけど、斬くんの判断が聞きたい。
斬くんは首筋を掻きながら注射器を見つめていた。なにか気になったことでもあるのだろうか。すると、彼はこんな問いかけをした。
「総司令。優人は何者なんだ? なんでこんな抗体を持ってるんだ? 成分とか情報項目は物を見ただけではわからない。けど、総司令ならあいつの正体を知ってるんじゃねぇか?」
「斬くん……。たしかにボクも知りたいかな? あの子は自分の本当の実力をしっかり理解できてない。最近は意識するようになったのかもしれないけど、それでも、あの子は何もかもが違いすぎる気がする」
ボクが言いたいこと、聞きたいこと。それは斬くんも一緒だったらしい。景斗くんは相当な困り顔を見せる。
なにを渋っているのかは定かではないが、優人くんに重大な秘密があるのは確定した。蓮くん含め、彼の魔力量は異常に高い。
ボクの魔力や斬くんの魔力を持ってしても、全然届かない。それは、ブラックホールでもあるのではないかという、容量の大きさだった。
だから、気になってしまう。魔力水を大量に入れても魔力中毒にならないこと。そして、蓮くんの正体を――。
「じゃあ、僕から2人に条件がある」
「『条件?』」
「そう。この情報を絶対漏洩させないこと。そして、この第一部隊でも広めないこと。きっと彼は僕たちの敵として扱われるかもしれない。それをさせないために、僕たちだけの秘密にしてもらいたい」
その言葉に、ボクと隣の彼は互いの顔を見る。そして、同時に頷いた。約束は絶対守る。それは彼も同じのようだ。
「約束は守ります。優人くんと蓮くんは、ボクたちにとっても必要な人材です。なので、教えてください。景斗くん――いや、総司令」
「オレからも頼む!」
「わかった。じゃあ、ゆっくりと説明しようか」