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第29話

 僕たちは、元凶あろう敵のいる場所へと向かう。部屋を回るのは5箇所目。だけど、感じた気配が強まることはない。


 前へ。ただ前へと進む。大元の気配以外何も感じない。敵はどこだ。蓮の欠片はどこだ……。


 遠くから気配を感じる。だけどかなり遠く。相手はこちらに気づいていない。


 怜音たちも把握できてないようだ。本当に僕は、このようなものに敏感なんだなと思った。


 相変わらず、研究所内は赤く点滅している。周囲からガラスが割れるような音がする。耳鳴りがしているような金属音もする。


 どこからか焦げ臭い何か。火事? だけど魔力は感じない。星咲副隊長のものでは無さそうだ。いや彼は味方だから当たり前の話だろう。


「そういえば、優人くんさっきの戦闘でかなり魔力消費したみたいだけど……」


「氷像。そんな悠長に話してる暇なんざねぇよ……」


「まあたしかにそうだね。だけど心配だから」


 怜音は僕の右肩に肘を置き、ペースを合わせて歩き出す。僕を理解しようとしていることに戸惑ってしまうのはなぜか。


「かなり魔力を使いましたけど大丈夫です。魔力生成速度を速くしているので」


「それならよかった。君の魔力のおかげで、難なく戦えた気がするし。ありがとう」


「こ、こちらこそ……」


 紛い物の僕なのに、『ありがとう』という言葉で棘が刺さったように胸が痛い。


「まあそうだよね……」


 怜音が小声でつぶやく。


「ボクたちも最初は信じようか悩んだよ。だけど、優人くんは大事な友達で仲間だから、信じることにした」


「怜音……」


 彼は僕の前に立ちこちらを見る。その表情は満面の笑みを浮かべていた。バイトでもよく使う営業スマイルだ。


 眩しいくらいの明るさに目を覆いたくなるが、『ポジティブで行こう!』と言われてる気がした。


「優人くん。敵はどの辺にいる?」


「え。あ。はい……。ここから数十メートル離れたところに10体ですね……」


「了解!」


 怜音は氷の矢を複数用意する。それに鎖状のものをつけて天井に投げた。空中を素早く移動して見えなくなった時、敵の気配が消える。


「みんな! こっち終わったよー!」


「ありがとうございます。怜音」


「氷像の野郎良いとこ取りやがって……」


 それでも、すぐに実行できる怜音はさすがだと思う。僕も頑張らないとと思っている中、再び地響きが起こる。


 ここが崩れるのにもう時間が無い。急いで大元を倒さないといけない。怜音が言うにはこれを〝ボス〟と言うらしい。


 スマホを持ってもゲームをしなかった僕には、とても新鮮な文字列だった。そのボスというものを倒せば、平穏が訪れる。


 ボスの気配が強くなる。蓮も気づいたらしい。『これは俺とよく似ている』そう、言ってるかのように、存在感が強い気がする。


 突然星咲副隊長がいいことを思いついたと、足を止める。両手に球体状の炎。それをありとあらゆる方向に投げると爆発した。


「ちょっと斬くん! 危ないよ!」


「は? こっちの方が手っ取り早いに決まってんだろ? 壊れる前に壊しちまえばいいんだよオラァ!」


「『あはは……』」


 壁が崩れる。視界が広くなる。天井が落ちてきても、怜音が対処してくれた。


 こうなったらと、僕も参戦する。水壁で瓦礫を流して、足場を良くさせる。歩き

やすい方が楽だ。


 いつの間にか怜音も参加していた。凍結魔法で物体そのものを凍らせて、爆発させている。


 共同作業がここまで楽しいなんて。とても良いメンバーだ。


「星咲副隊長! そっちはどうですか?」


「順調に決まってんだろ! オレを誰だと思ってんだ!」


「『日本魔生物討伐部隊・第一部隊副隊長です!』」


 なんだか、とても賑やかだ。3人だけなのに、かなり結束力が増した。こんな僕を拾ってくれた副隊長が好きだ。


「怜音! 副隊長! 敵総数5万。来ます!」


「やってやんよー!」


「斬くんが面白くなってるね。ボクも負けないよ!」


 結束した僕らは、討伐バトルへと移行する。やがて迫ってくる敵の群れ。盲視術をすぐに発動させた僕は、黒の大群に突っ込む。


 右からは熱風。左からは極寒の冷気。なら僕はその中間だ。蓮の戦い方を完全再現させる。


 敵を中心に集めるため水壁を使用。幻水陰速で分身を大量に作り、スパーク・ブレイクで一掃させる。


 今の僕には魔力消費という概念がない。魔法は無限に使える。残量を気にせず戦う。加えて、怜音と副隊長への供給源にもなる。


 これが僕の本来の姿。これが僕にしかない能力。もっと魔法を上手く使えるようになりたい。


 盲視術が切れる。視界が回復する。怜音も副隊長も無事だった。だけど、それ以上の物が目に入る。


 今まで見たものよりも明らかに大きい、異型の龍。最悪なことに僕と目が合った。ギラリとした鋭利な眼光は、戦闘意欲を削ってくる。


 こんなの倒せるわけがない。体長は僕の数百倍まで大きく、押し寄せるは重苦しい威圧感だけだ。


 ――『優人。アイツの中だ。アイツの中に俺の何かがある』


「わかった。怜音、副隊長。あの龍がきっとボスです。戦闘準備用意!」


「『ラジャー!』」

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