目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第27話  「きみだけのいろ」読み聞かせ会

「ねぇ、航平さん。今度、障がいをもつ子どもたちのための絵本イベント、開いてみない?」


ある晩、夕食後のテーブルで、紗英はそう切り出した。

航平は驚いたように目を瞬かせたが、すぐに微笑んだ。


「いいね。それ、すごく素敵なことだと思うよ。何か、きっかけがあったの?」


「うん。この前の女の子……“足がちょっと弱いの”って話してくれた子。あの子の笑顔が忘れられなくて。あの子だけじゃない。社会の中で“特別”にされてしまう子どもたちにも、ちゃんと“居場所”を感じられるような時間を届けたいなって…」


航平は頷いた。

「僕も手伝う。きみと一緒に、形にしよう」


ふたりは市の子育て支援課や障がい福祉課に協力を依頼し、児童館や地域の特別支援学校に案内を送った。イベントの名前は、紗英の新作絵本のタイトルからとって――


「きみだけの いろ」読み聞かせ会。


そして迎えた当日。

会場となった地域センターの多目的室には、色とりどりの風船、床にはカラフルなクッションが敷き詰められていた。

車椅子の子、補助器具をつけた子、声を出すことが難しい子、さまざまな子どもたちが家族とともに集まっていた。


開演前、紗英は一瞬、手が震えた。

でも隣で航平が優しく手を握ってくれる。


「大丈夫。きみの言葉は、ちゃんと届くよ」


読み聞かせが始まる。

「くまくんの帰りみち」、「しろい ことりの ひみつ」、そして最後に、「きみだけの いろ」。


それぞれの絵本に、子どもたちはまっすぐな目で耳を傾けた。

あるページでは、ひとりの男の子が

「ぼくのいろは、あお!」

と叫び、

別のページでは、女の子が

「わたしは、きいろがすき!」

と笑った。


読み終えたあと、紗英がそっと語りかける。


「みんな、それぞれ違う色を持っているの。でもね、その色は、まちがいじゃないんだよ。世界に一つだけの、たいせつな色。誰の中にも、きらきらした色があるんだよ」


その言葉に、静かだった部屋が、拍手と涙と笑顔で包まれた。


終演後、子どもたちは手作りの「いろのカード」に自分の“好きな色”を描いて、ボードに貼っていった。


「あの子が“生きててよかった”って、心から思える時間が、今日だったかもしれないね」

と、帰り道、航平が言った。


紗英は小さく頷いて、空を見上げる。


「わたしも、今日がその日だったのかも」


ふたりの心に、たしかな光が差し込んでいた


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?