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第192話 ウラジの嵐と言い争い

 泥舟は曲がり角で膝を付いて待ち構えている。

 チアキは床で腹ばいになっている。

 チアキの後ろには鏡子ねえさん。

 泥舟の後ろに俺とみのりがいる。


 Dスマホで『ウラジの嵐』を確認する。

 まっすぐ二十二階の下り階段へ進んでいるな。

 盗賊のアンドレイがスマホを見ている。

 顔を上げてVサインを出しているな。

 ふざけた奴だ。

 背中にはカバーが掛かった大きな物を背負っている。

 ロケットリュックか。

 他の奴の装備もチェックする。

 剣とか盾の他に、なにか長物を背負っている奴が多い。

 ミハエルは甲冑に剣と盾、重戦士だな。

 りっちょんは据わった目で『元気の歌』を歌い続けている。


 相手側にもこちらの布陣が見えて居るはずだ。


『やべー、ロシア諜報パーティ、なんかコエエ』

『長物は……、ライフルか、小銃か』

『ああ、そうか、対人だと銃器有りだもんな』

『やりたい放題じゃのう、ロシア人め』

『ひさびさの【鑑定】なんだが、ロシア人ミハエルのレベルが55、りっちょんは42だな、即生養殖っぽい』


 おお、【鑑定】さんはお久しぶりだな。


「初手でりっちょんをヘッドショットしていいかい、タカシ」

「うーん……」


 りっちょんはヤバイ奴だけど、殺しちゃうのは抵抗があるなあ。

 だが、ロシアと手を組んだ訳で、どうしたものか。


「りっちょん、殺すべし!」

「殺すべし!」


 肉食姉妹のヘイト率が高いな。


「一度救った相手だから殺したくないのね、タカシくん」


 みのりの言葉でハッと気が付いた。

 そうか、あの日助けた人間だから、なんだか嫌なんだな。

 助けたのが無駄になってしまう感じがして。


「タカシくんのそういう優しい所、好きだなあ」

「あー、ありがとう」


 というか、みのり、背中さわんな。

 そういう雰囲気じゃない。

 やるかやられるかの瀬戸際だ。


 廊下の向こうにライトの灯りが見えた。


 スマホ配信を見るとケースから小銃を取りだし、腹ばいになって構えている。

 なんかバズーカ砲みたいのも無いか?

 え、大丈夫なのか?


「りっちょんが歌い始めたら煙幕玉を撃つ」

「たのむ泥舟」


 【お止まりなさいの歌】にレーザー砲を噛まされたら各個撃破になる。

 その前に煙幕玉は定石だ。

 りっちょんの前でミハエルがタワーシールドを構えて立った。


「タカシくんっ、誤解を解きたいデース!!」


 ミハエルの声が聞こえる。


「昨晩はりつこさんが迷惑をかけまーした、あれは我々の計画ではありませーん。我々はタカシくんとなかよーくしたいデース。どうか落ち着いてくだサーイ」

「AKを構えて仲良くも無いだろう」


 泥舟がつぶやいた。

 AKというのはロシアの小銃の名前だ。

 頑丈な銃で泥水に漬けた後でも発射できるという。


「要求はなんだっ!」

「タカシくんとみのりさんの身柄をあずかーりたいデース。どうか、降伏してくださーい。我々も手荒な事はしたくありませーん」

「他のメンバーはどうするんだ!」

「武装を頂けレば解放しまーす。どうか私たちを信じてくだサーイ。おねがいデース」

「信じられない!」

「悪魔の迷宮は打倒しなければなりまセーン。一刻も早く大魔王をタオして、地球を正常に戻すのデース。そのためにロシアは戦ってマース。人類全体の為なのデース。どうか聞き分けてくだサーイ」


 時間を引き延ばせば『チャーミーハニー』か『ホワッツマイケル』が介入してくるだろう。

 そろそろ奴らは実力行使をしてくる。

 降伏しても、泥舟と鏡子ねえさんとチアキの安全は保証されない。


 Dスマホを見る。

 りっちょんがウクレレを取りだした。


「撃て、泥舟!」


 バシュ!!


 ミハエルの盾に煙幕玉が着弾してモクモクと白煙が上がった。


「聞き分けが無いデース、撃ちまーす」


 バラララと小銃の音がして、近くの壁にバシバシと着弾した。


「あなたたち死にマース、でも大丈夫『蘇生の珠』二つありマース。タカシくんの収納袋にも四つありマース。死体を運んでロシアで蘇生させまーす」


 くそ、こっちの『蘇生の珠』も勘定に入れるとは、さすがはロシア、雑すぎるっ。


『わあ、銃撃戦始まったッ!』

『ぎゃっ、タカシ奧に逃げろっ!!』


 コメントを見てはっとした。

 後ろ頭にチリチリとした感覚。

 【危険察知】


「みんな奧に!!」


 俺はとっさにみのりを抱いて通路の奧に飛びこんだ。

 ちあきと泥舟を抱えて鏡子ねえさんも回転して通路奧に飛びこむ。


 ヒュウウウウウ。

 ドグワアアアアアン!!


 もの凄い轟音がして、俺たちは吹き飛ばされた。

 ミ、ミサイル?


「9M133コルネットでーす。死になさーい」


 AKの射撃音が響き、『ウラジの嵐』の連中が駆けてくる足音がする。


『奧へ逃げろ! タカシ!』

『え、ロシア人馬鹿じゃね?』

『対戦車ミサイルってマジか?』


「ははは、私たちは六人でーす、どんな現代兵器を使っても~『軍隊殺し』はでませ~ん、終わりで~す、タカシくん~」


 みのりが俺の下で歌い始めた。


「『ぐるぐるぐるぐる♪ おまわりおまわりなさい~~♪ 空も地面もぐーるぐる♪ 足下ぐらぐら気を付けて~~♪』」


 よしっ!

 俺はみのりを抱き上げて通路の奧へと急ぐ。

 鏡子ねえさんが泥舟とチアキを抱えて俺を追い越していく。


 ロシア人が倒れる音、口汚くののしる音がして、パパパと散発的に銃声が響く。


『ロシア人馬鹿じゃねえの?』

『やつら、『軍隊殺し』の発生条件を解っておらぬな』

『人数じゃないよね、余さん』

『そうじゃ威力値じゃわい』


 GAOOOOOON!!


 腹に響く吠え声がして真っ赤な巨大なドラゴンが通路から頭を出し、ロシア側に火を吐いた。

 『軍隊殺し』だ!!

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