業火が赤竜の口から吐き出され通路を舐め尽くす。
かなり離れた俺たちにも熱風が吹き付ける。
ドラゴン!
ゆかにゃんを焼き殺した『軍隊殺し』のレッドドラゴンが三年ぶりに迷宮に帰って来た。
でかい! 圧倒的な存在感の差だ。
真っ赤な鱗が火炎の光でビカビカ光る。
「ドラゴン……」
鏡子ねえさんが魅入られたようにドラゴンを見つめている。
『ウラジ! 二名ブレスで死亡だ! りっちょんはロケットマンに助けられて高速後退、ミハエルがレア盾なのか、障壁でブレスを割った! その後ろで僧侶が生存!』
『おお、しぶといのうロシア人め、あ? ややや!』
なんだ?
曲がり角に飛びこんでスマホを取り出す。
ウラジの嵐は装備を投げ出して撤退中だ。
AKの木製部分が床で燃えている。
対戦車ミサイルも燃えて、爆発した。
レッドドラゴンは息を吸い込んだ。
一秒、二秒、三秒。
ブレスは連発出来ないようだ。
ミハエルと僧侶が焼け焦げた仲間の死骸を引っ張り、曲がり角に隠れた。
僧侶が珠を死体にぶつける。
ピカッと光ってみるみるうちに蘇生して全裸のロシア人が二人立ち上がった。
ドラゴンは顎をカチカチと鳴らした後、再度ブレス攻撃。
直線通路を焼き払う。
ブレスは連射はできないようだ。
しかし……、ウラジを追うか、こちらに来るか、とドラゴンを見ているが、奴は動かない。
何故だ?
『ああああっ!! でかいから通路に詰まってるんだ!!』
『二十階から三十階までは通路が狭いのだのう、これは誤算じゃ!!』
そうか、狭いところに呼び出されたから、動けなくなっているのか。
昔、『軍隊殺し』が出た時は五階から十階の浅い階だしな。
洞窟階は通路が結構広いんだ。
レッドドラゴンは横目でこちらを見た。
が、頭がこっちに曲がらないのでブレスはされなそうだ。
「ふう、びっくりした」
「しぬかと思ったよう」
「ドラゴン、綺麗だなあ」
「鏡子が暢気だ」
ウラジの嵐は撤収するようだ。
重火器も無くなったからな。
しかし、ミハエルのドラゴンブレスも防ぐタワーシールドか、レア物だな。
それともウラジ騎士団の魔法武具か?
「困った、タカシ」
マップアプリを見ていた泥舟がそう言った。
「どうした?」
「ドラゴンの前を通らないと、上り階段に行けない。下り階段はドラゴンの体の向こうに行かないと」
「げ、雪隠詰めか」
「そんな感じ」
「ドラゴンが消えるまでどれくらいだっけ?」
「一週間」
それは長い。
「水場は?」
「奧に小さいのがあるね、ただ、パンの木はないよ」
「飯はデモゾンで頼めば良い」
「い、一週間、迷宮生活ですか~?」
そうか、水も食糧もデモゾンで頼めるな。
なんとかはなるが、安全地帯は無いな。
二十二階の魔物なら安全に狩れるがキツイな。
テントとか、キャンプベットとかも頼むか。
トイレも無いなあ。
『これは詰んだなあ』
『外から救出は期待できないか?』
『ホワッツマイケル……、んー、[
『それに、メリケンに借りを作るのもなあ』
ドラゴンがぐぎぎという感じで通路から抜けだそうとしているが、無理そうだ。
変な事になったなあ。
まったくロシア人め。
「こっち側のブロックは?」
「宝箱ゾーンだね、三カ所あるよ」
「占有してたらサチオが来ないかな」
「来たって助けてはくれないだろう」
「うぐぐ」
電話が鳴った。
誰からだろう?
『やあやあ、少年お困りだね』
「鮫島さん!」
『今から助けに行くよ、一時間ほど待ちたまえ』
「レッドドラゴンをなんとか出来ますか?」
『【必中】あ、あるから……』
「急所打ち抜けますか?」
『わ、わかんない、前の戦いだと、対戦車ミサイルが通じなかったけど、スキルなら、スキルならワンチャン』
『チャーミーハニー』さんもあてにならないなあ。
ドラゴンを観察する。
瞬きをした。
瞬膜がある、ような気がするな。
視力を奪って、隠密で逃げる?
「ドラゴン倒したい」
鏡子ねえさんがぼそりとつぶやいた。
「「「「え~~~~」」」」
無理じゃないか?
ドラゴンだよ。
どう見ても最下階層で出てくるようなモンスターだ。
伝説級の武器でないと……。
おれは腰の『暁』と『浦波』を見た。
伝説級武器はあるな……。
しかし、『大神降ろし』には、フツノミタマが……。
『金時の籠手』が最終段階だと、『タジカラオノミコト』のミタマが出る。
みのりの呪歌で近づく。
煙幕玉、炸裂玉。
表権能[楔]
『暁』でドラゴンの急所を貫けば……。
いける、のか?
今、ドラゴンは通路に詰まって動けない。
攻撃手段は頭だけで、前足は出て無い。
ぬぬぬっ。
「【オカン乱入】」
困った時はかーちゃんに相談だ!
「おお、かーちゃん!」
「かーちゃん」
「おかあさまっ」
「タカシのお母さんっ」
光の柱からかーちゃんが出て来た。
「おおっ、タカシどうしたん? え、は? なんやあれはっ!」
「ドラゴン」
「なんで通路にパンパンに詰まってん?」
「こっち側の特別ルールで現代の重火器を持ち込んで発動させると『軍隊殺し』として、あのレッドドラゴンが出るらしいんだけど、ここら辺で発動させた事が無いらしくて、通路のサイズが合わなくて詰まったみたい」
「あはははは、阿呆やなあ。そうかそうか、これは狙い目やな、うん」
かーちゃんは悪そうに笑った。
よし、かーちゃんにドラゴンの情報を貰って倒せるように計画を練ろう。
一時間待てば『チャーミーハニー』の【必中】も使えるし。
なんとか出来るかもしれない。