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第194話 レッドドラゴンと戦う

 通路に座り込んで、かーちゃんも交えて計画を練る。


「かーちゃん、ドラゴンの急所は?」

「心臓やな、脳を破壊してもええけど、心臓の方が近いやろ」

「心臓かあ、どこら辺にあるのかな」

「胸の真ん中や、懐に潜り込めば届くで」


 なるほど。


「問題は鱗を貫けるかやな。うちの戦技で鱗を吹っ飛ばして、そこに一撃を入れればええで」

「近づいて、一撃か」

「問題はブレスと噛みつきだな」

「ブレスを放つ前に、カチカチと牙で火花を散らしている感じだ、発火性のガスを吐きだして着火してるんじゃないかな」

「炸裂玉を撃ったらどうかな」


 炸裂玉は弾ける火薬のような物を滞空させて火が上がったら破裂する物だ。

 まだ実験してないから威力が解らないなあ。


「頭の真下に入ればブレスは撃ってこないと思う」

「せやな、ただ、噛みつかれたり、顎で打たれたりはするやろうな」


 かーちゃんは黙ってドラゴンを見つめた。


「レベルは百二十や、スキルに【気配察知】あるな」

「とんでもないなあ」

「ただ、動けない今がチャンスやで、こんな事めったにあらへんわ」


 『暁』で貫けるのかどうか解らないな。

 もの凄く出た所勝負の賭けになるな。


「【ぐるぐるの歌】は固定されているから無理よね。【スロウバラード】はどうかしら?」

「掛けて見れば解る」

「そうね」


 みのりはリュートを抱えてジャラーンジャラーーンと弾き始めた。


「『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪ あせってもしかたがないからのんびりいこうじゃないか~~♪』」


 お、ドラゴンの動きがゆっくりになった。

 効いてるな。

 【お休みの歌】も試して見たが、眠りには耐性がある感じだ。


「【スロウバラード】が有効と。だが、『大神降ろし』を仕掛ける時は止まるという事だな」

「『大神降ろし』を掛けるにはフツノミタマが足りないね」

「私が『金時の籠手』の最終段階まで持って行けばいい」


 やることが多い上に、タイミングがシビアだな。

 一手間違えただけでブレスで全滅だ。

 一か八かだな。


『美味しいと言えば美味しい、だけど、危ないと言えば危ない』

『俺なら一週間待つ、だが強行したい気持ちも解る。倒せれば大金星の上に大量の経験値、あとドロップも良さそう』


 うーんどうしようか。


「行こうぜ、タカシ」


 鏡子ねえさんが良い笑顔で笑った。


 みのりと泥舟とチアキは黙った。


「危ない橋を渡るのが冒険者やで、タカシ」


 かーちゃんが笑顔で言った。


「よし、行こう」


 この決断で誰かが死んだら、俺は俺の事を許せない。

 だけれども、誰かが助けに来てくれるのを待つのは配信冒険者っぽくはない。

 勝てる可能性はある。

 ねえさんが居る、かーちゃんが居る、みのりも泥舟も居る。


「何かあったらチアキは一人で生き延びろ」

「まかせろ、タカシ兄ちゃん、それが『盗賊シーフ』の仕事だって、師匠に教わった」


 俺がうなずくと、チアキも力強くうなずいた。


「いけるで、『Dリンクス』やからなっ」

「ああ、そうだね、かーちゃん」

「うちは一度帰るわ、ドラゴンに取り付いたら、呼び」

「ああ、たのむ」


 かーちゃんは粒子になって消えた。


 さて、タイミング勝負だ。


 問題はいかにしてドラゴンにブレスを吐かせないかだ。

 位置関係として、ドラゴンの頭はこちらを向かないので半分まで距離が詰められる。

 ドラゴンのブレス発射まで三秒ほど掛かる。

 初手はみのりの【スロウバラード】で発射までを六秒に広げる。

 泥舟が煙幕玉で通路の視界を隠す、そして炸裂玉を発射。

 その間に、俺と鏡子ねえさんがドラゴンの頭の下に潜り込む。

 取り付いたら、かーちゃんを呼出し、鏡子ねえさんはドラゴンの頭が下がらないように攻撃し、『金時の籠手』の段階を三段階まで上げる。

 ドラゴンの頭が下がらなければこちらに吹き込むようなブレスは吐けない。

 みのりは[謡]にチェンジして『大神降ろし』

 かーちゃんの武技でドラゴンの心臓前の鱗を吹っ飛ばす。

 『暁』の真権能[浄化]で心臓を貫く。

 以上だ。


 なにか想定外の事が起こったら俺と鏡子ねえさんは死ぬ。


「行くぞっ!!」

「「「「おおっ!!」」」」


 俺と鏡子ねえさんは走り出す。


『行くのか、勇気があるな』

『タカシだからなっ、頑張れ『Dリンクス』』

『正直勝率はどんなだろう』

『ブレス攻撃さえ押さえれば目はある、退魔武器は優秀だから』

『動けないドラゴンだしな、美味しい気もする、が、Dクラスだと博打だな』

『ドラゴンスレイヤータカシ爆誕を見せてくれっ!』


 ドラゴンの目がぎょろりと動いた。

 頭を動かそうとするが、壁に当たって曲がらない。


 ボシュ!


 泥舟の煙幕玉が飛ぶ。

 ドラゴンの頬に当たり辺りは白煙に包まれる。

 ジャラーンとみのりのリュートが鳴り響く。


 GYAO?


 【気配察知】で壁を認識しながら走る走る。

 ドラゴンのなんて強大な気配なのか。


『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪ あせってもしかたがないからのんびりいこうじゃないか~~♪』


 呪歌を聞いてドラゴンは息をすいこみはじめる。

 だが、遅い!

 俺と鏡子ねえさんの速度を舐めるなよ。


 一。


 全力で気合いを速力に変えて走る走る。


 二。


 気配のドラゴンがどんどん大きくなる。


 三。


 ボシュ!

 パアアン。


 炸裂玉が飛んでドラゴンの気配の頬に当たり、近くに何かが浮遊しはじめる。


 四。


 ドラゴンの気配がこちらを向こうと壁に頭をあて続ける。


 五。


「ひゃあああるりいいいいいいっ!!」


 鏡子ねえさんが【狂化】バーサークしてドラゴンの顎の下に飛びこみ、アッパー気味に乗用車ほどもある頭を打ち上げた。


 GAHU!!


 六。


 俺もドラゴンの頭の下に到着した。


「【オカン乱入】!!」


 ガチン!

 ゴワアアアア!!


 ドラゴンが天井に向いたままブレスを吐いた。

 光の柱からかーちゃんが現れる。


「『そは光の障壁、我が願いによって邪悪なる攻撃より守りたまえ、障壁ホーリーバリア』」


 おお、かーちゃんの障壁魔法!

 業火はこちらに回り込まない。

 煙幕は火に焼かれて消える。

 バチバチバチと炸裂玉の黒い粒子が破裂して炎の流れをグネグネとねじ曲げる。


「きゃりあるうううううぅぅっ!!」


 ねえさんが戻って来たドラゴンの顎に向けて見えない連打を叩き込んだ。


 GAGAGA!!


【輝く戦棍】シャイニングメイス!!」


 かーちゃんが体を開き光輝くメイスをドラゴンの胸に叩き込んだ。


 ドキャーン!!


 轟音と共にレッドドラゴンの胸の鱗と肉がはじけ飛んだ。


「ここやで、タカシ!!」


 ねえさんの『金時の籠手』がガシャンガシャンと変形した。


 みのりの曲調が変わった。


[複数のフツノミタマの存在を確認]


 よし!


[神オロシ術式展開]


 時間が止まった。

 動いているのは俺と鏡子ねえさん、そしてみのりだけだ。


[執行者確認せり、神力微弱、魔道力大、執行階位初段]


 声はたんたんと術式の進行を伝える。


[問う、汝は神降ろしを望むか]


「『大神降ろし』!」

「『おおがみおろしっ!!』」


[『暁』に畏くもアマテラス大御神、『金時の籠手』に畏くもタジカラオノ命、古の約束にのっとり降りたもうねがいまする]


 天から赤い光球が『暁』に宿り、地面の下から黄色い光球が『金時の籠手』に宿った。


「あいありるぅぅうううううぅうっ!!」


 ねえさんはすかさず体を丸め真権能[剛力]をドラゴンの顎に打ち込んだ。


 ドガン!!


 GUGYA!!


 ドラゴンの頭は打ち上げられて通路の天井にぶち当たった。


「行くぞ! 『暁』!!」


 『暁』は太陽のように光輝く。

 真権能[浄化]の光だ。


 俺はかーちゃんが砕いたドラゴンの胸板に『暁』を突き入れる。

 ほぼ何の抵抗も無く『暁』はドラゴンの肉を切り裂きどこまでも入って行く。


 GAOOOON!!

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