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第二章 08話『機械の獣』

 キャド空港周辺に到着したウチら。アルビに聞いた所、日の出方から時刻は昼前くらいだろうとの事。日の光を感知せずにずっと森歩いてると時間解らなくなるね。

 稼働魔術を使い周囲を把握してみるが……そこまで賑わった街という訳でもないらしい。数日前に汽車で来た時はそのまま空港入っちゃったから解らなかったけど。



『空港付近は騒音も多いし、滑走路の都合で広い敷地が必要だからな。空港内は賑わうにしても、周囲はこんなもんだ』


 エムジが補足説明をくれる。なるほどそんなもんなのか。

 賑わって無いとはいえ、それでも必要最低限の店や施設はある。ウチ等はまず敵の血肉で汚れた体を洗うために銭湯に向かい、その後義足やエムジの体のためにパーツ屋に足を運んだ。



(結果的にエムジと一緒に風呂に入った訳だが、全くもってノンリアクションで悲しかったのぅ……)


 エムジには今体が無いし視力も無いので、ウチが裸になろうと見てくれる訳ではない。稼働魔力でセンサー的にウチの体は認識してるだろうが、それで興奮してくれる訳でもない。悲しみ……。


 というか今のエムジは脳だけだし、睾丸ついてないから男性ホルモン出ないのでは? 性欲どうなるんだろう。割とマジで心配。マキニトはじめ、脳だけになった人のためにホルモンが入った培養液は売ってるし、簡単に手に入る様になってるが、エムジはちゃんとそれを摂取するのだろうか……?

 アルビは女性ホルモン入りの培養液を使ってる。ホルモンてのは思いの外、人格に影響出るからなぁ。アルビの脳内に人格が存在するウチは、アルビが摂取してる女性ホルモンをそのまま使わせてもらってるわけだ。

 どっちかの人格が男性じゃなくてよかった。ホルモンバランスめんどくなるからなそれだと。


 そんな事を考えながら歩いてる内に、パーツ屋に付いた。エムジの体と、ウチの足と目を買わないと。



 身体の部位を欠損した場合、その治療法に大きく分けて2種類存在する。


 1つ目は今からウチ等が行う、機械で足りない部位を補う方法。

 直ぐに体が手に入り、カスタマイズも気軽に可能。ボールベアリング付き等、高級なパーツなら動かす際の魔力も少なく、省エネだ。

 マキナヴィス国民は宗教的にもこちらの治療を好むと聞く。


 2つ目はグーバスクロ流、肉による再生方法。

 成長の方向性を操作し、欠損した部位を徐々に再生させて行く。再生には時間と多量のカロリーがかかるが、元の肉の体を得られるし、その後の生活でも機械の体に比べて消費カロリーは少ない。

 成長の方向を通常の人体とは違う様にコントロールすれば、グーバニアンの様なクリーチャーライクな体にだってなれるという訳だ。


 ウチらには時間も無いし、さっさと出来る機械化の選択肢を取る。という訳でレッツパーツショップ。



「うおー!」


 思わず声が出る。やっぱりウチは機械部品好きなんだな。店内に並べられた義手義足、様々なアタッチメント、完全メカフルボディの数々に圧倒される。



「いらっしゃいませ。どの様なパーツをお探しで?」


 店員と思わしき人物に声をかけられた。

 ……全身を機械の体に改造した人間、マキニトだろうか。



(ズンコ……)


 見た目はズンコとは全く違う。あの日から毎日、ウチはエムジからズンコの記憶を見せてもらってるので彼女の容姿はハッキリと覚えている。目の前の店員は似ても似つかない別人だ。

 あぁ見た目って言っても今視力は無いから、把握した立体感でのお話だけど。


 でも──


 それでもやはり、ズンコを連想してしまう。ズンコは武器屋やる前は部品屋を営んでいたと聞いている。たぶんこんな感じで、来る客にパーツを売っていたのだろう。あのウザいテンションで。



(何で武器屋になったんだろうな)


 売れるからとズンコは言っていた。そう日記にはかいてある。でもそれだけだろうか。ウチ等の幸せを願ってたズンコが、戦争を助長する店を損得勘定だけでやるのだろうか。



「お客さん?」


「あ、あぁすみません! 迷ってて」


 いかんいかん。今はパーツに集中だ。



「ウチちょっと両足と目をやっちゃいまして……良い足とレンズないですかね? 予算は割とあるので、戦闘向きの動きやすいやつ」


「戦闘──ああ軍人さんでしたか。これは失礼。よく見れば背中にユニットも着いてらっしゃる。足は……ああ切れた足を義足として代用してらっしゃるんですね」


「あとこのユニットの中に1人、まだ生きてるヤツがいて……軍人仲間なんですが、コイツの体も欲しいんですよね」


『よろしく頼む』


 エムジが店員に挨拶する。



「かしこまりました。フルボディとなると少々お高くなりますが……」


『構わない。そっちの女と同じで、戦いやすい体を頼む』


「かしこまりました」


 店員はリストを取りに、店の奥に姿を消す。

 あとエムジに女と言われると何か興奮するね。



「アルビは体いらないの? ズンコに沢山お金貰ったし、この機会に変えれば?」


「いや、ボクはいいかな……ズンコからもらった体に愛着湧いちゃってね……」


 その気持ちはとてもよくわかる。ウチも暇があれば左手を触り、ズンコを思い出している。



「それにボクはシーエから離れられないしね。体あってもあんまり意味ないかな」


 確かにそれはそうだ。



「不便な思いさせてごめんな」


「何年一緒にいると思ってんの? 今更だよ」


 そう言って笑うアルビ。ウチは恵まれてるな。こんなに良い相棒を持って。



『こんな変態と何年も一緒に』


「ボクもそれは悩みの種」


「人が感動してたのに酷くない!?」


 そうこうしてる内に奥から店員が戻ってくる。リストを取りに行ったと思ったら、足とレンズを沢山抱えて持ってきた。



「実際に試着して頂いた方が良いと思いまして。オススメを何点かお持ちしました」


 この店員さん、めっちゃ親切やな。



「脳だけのお客様は、宜しければこちらでお運びさせて頂いて、奥にある戦闘用のフルボディを直接ご覧になって頂きたいと思うのですが、いかがでしょう?」


『ああ、それは助かる。手間をかけてすまないな。じぁあシーエ、また後で』


「うい」


 背中から外され、店員に持っていかれるエムジ。


 一瞬、店員が実はスパイかなんかでエムジが危ないのではと頭を過ぎったが、恐らく考えすぎだろう。というかエムジなら何かあれば戦えるしウチも直ぐ駆けつけられる。

 ……エムジの首が飛んだシーンは、心臓が止まるかと思った。大切な人が亡くなる恐怖、そう簡単には拭えるものではない。


 ウチは様々な義足を試着しながら、お気に入りのものを見つける。ズンコの足に似たものだ。完全に同じデザインではないが、おそらく同じ制作会社のものだろう。これにしよう。

 レンズは割と直ぐに合うやつを見つけた。眼窩に入れるタイプのものだ。とりあえず左目に装着してる。レンズ入れるために抉り出した目はせっかくだし食べておいた。……あんまおいしくない。

 しかし義足、レンズ共にこれは中々カッコイイし動きやすい。店に備え付けられた姿見の前でキメポーズ。うむイケてる。何より少しズンコの姿に近づいたのが嬉しかった。



 後は料金払って、足の骨と義足の金属をしっかり接合させればOKだ。そうすれば魔力で足を抑えておく必要も無くなり、関節部を動かす事にだけ魔力使えば良くなるから省エネまっしぐら。

 切断面の傷は殺菌しつつ魔力でバリア貼っとけば勝手に塞がるだろう。



『何変な踊りしてんだ? お前』


「変な踊りとは失礼な!」


 ウチの新しい目と足を存分に味わうためのポーズなのに!

 不満を言いながらエムジの方を振り返ったら、凄まじい物体がいた。


 全長2m強の、獣のような機械だった。

 足は鳥のような構造になっており、手の先には長く鋭い爪。尾はいったい何メートルだ? 長い尾の先端には攻撃と作業の両方が出来そうなアームがついていた。

 ヤバい。クソカッコイイ。



「とんでもないイメチェンしたなお前」


『いけてるだろ? マグネウト制の全身パーツだ』


 いやまあそうだか。日常生活しにくくない? その体。



『この会社の製品気に入っててな。前の俺の義手もこの会社のだよ』


「ウチが持ち帰ったこの義手か。売れますかね? これ」


「お買取も出来ますが、中古ですしそこまで高い値は出せません」


 店員さんが親切に教えてくれる。



『まぁ俺も期待はしてなかったな』


「お前左手だと思って慌ててただけだろ……まぁ今回の足みたいに、四肢は結構簡単に欠損するから、ウチの右手が無くなったらつけるよ」


『お前の一部になるの超ヤダ』


「じゃぁ何で腕持ち帰るの許可したしお前?!」


 といつものやり取りを繰り広げてたらアルビが


「あれ、まだ思念で喋ってるんだね」


 と疑問を発する。確かにそうだ。



「ああ、こうやって普通に話す事も出来るが」


 あ、普通に声出た。



『思念魔力の方が、カロリー使わないからな』


 そして戻った。


 確かに空気を魔力で振動させて声出すより、ダイレクトに思念送った方が楽だ。アルビみたいな声帯を摸した補助装置はあるのだろうが、それでもカロリーは使う。でもなぁ。



「カロリー気にしてるけど、その体の維持カロリーすごくない? 関節多いし、デカいから重そうだし」


『それはそうなんだが……今回の件で自分の力のなさを実感してな。またあの無頭の女性クラスの敵が現れたら、並の体じゃ対抗出来ない気がして』


「なるほど……。だから強そうな体を。でも培養液大丈夫か? 今は資金あるけど、無限じゃないぞ?」


『この体、見た目に反して意外と省エネなんだ。蒸気機関を利用しててな。胸の部分が炉になってる』


 よく見ると胸部が光っている。これは石炭が燃えている光か。背中には煙を排出するパイプもついている。ますますカッコイイじゃないかおい。

 ……ん?



「待て待て。それどこにお前の脳は付いてるんだ。確かたんぱく質は42℃を超えると凝固し出すはずだが……胸に炉が付いてる体とか大丈夫なのか?」


『脳は腰に付いてるから平気だ。熱伝導の低い素材で作られてるから、炉の熱も伝わらないしな』


 すげー所に脳あるなおい。



「ならまぁ脳が焼ける心配はないが……背中のユニットに入れる脳も熱対策済みか。しかしだとしても維持費かかるだろ。石炭や水が切れたら魔力で動かさなきゃいけない訳だし」


『それはそうだ。が、資金に関してのアテは……実はある。ソマージュついて色々落ち着いたら、お前も誘う予定だ』


 誘うって何だ? まさか風俗? それなら稼げるしウチは歓迎だか……いやエムジに限ってそれはないな。お前"も"って言ってたし。なんやろ?



『よし、じゃあ行くか』


「あれ支払いは!?」


『もう済んだが』


「早!」


 ウチもさっさと支払いを済ませ、店を出る。さてさてでは再び空港へ……



   * * *



「マジか」


 全便欠航。掲示板にはそう書かれていた。



『グーバニアンの襲撃で旅客機が墜落だもんな。そりゃしばらくは欠航するだろうよ』


「確かに……え、どうしよ」


「汽車で向かえばいいんじゃない?」


 アルビが提案する。よほど飛行機に乗りたくないらしい。



「まぁ現実問題それが一番んだろうけど……何日かかるんだ?」


『乗り継ぎもあるし、数週間は覚悟した方がいいだろうな』


「しばらくここに宿泊して便が復旧するの待った方が良くない?」


「そんなことないよ! 復旧しないかもしれないし! それにほら、汽車での旅楽しかったじゃん!!」


 めっちゃ必死なアルビ。かわいい。



 という訳でアルビに強引に押された結果、ウチ等は汽車でソマージュを目指すことになった。


 ウチの記憶と、グーバニアン達の動機を探す手掛かりが待つ可能性のある地域へ。





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