四機のスーパーラプターがハワイに向けて突入していく。
突入先にはとんでもない数の群れを為すドラゴン達。
「十秒後に交差する。カウントダウンするから、残り二秒で
隊長機の機長である
「
「
アメリアも応じる。
「3」
有輝のカウントダウンが始まる。
四機のスーパーラプターは少しずつ加速しながら、ドラゴンの群れに突っ込んでいく。
「2」
一斉に四機がアフターバーナーを起動。二つのジェットエンジンから青い尾を引きながら、より四機は加速する。
「1」
「バリアー!」
四者、異口同音に詠唱。四機がそれぞれバリアーを纏う。
近くのドラゴンが接近しつつある四機に向けてそれぞれブレスを放つ。
放たれる放射状の炎を掻き分け、四機が進む。
バリアーを維持可能な時間は最長で瑞穂の十秒だが、彩花は三秒しか保たない。
今一秒経過。
あと二秒ブレスが続けば、彩花が危険だ。
瑞穂達は半ば祈りながら、魔法の維持ととにかく前へ前へ進ませることに集中する。
残り一秒。まだブレスは終わらない。
(彩花……!)
【> I have control.
祈りに答えるように、皐月が魔法戦の許可を求めてくる。オートマニューバスイッチを押せ、と。
「分かった」
「待て三尉、危険だ」
「今危険なのは彩花だよ」
そのやり取りが終わる頃には、瑞穂はオートマニューバスイッチを押していた。
それを魔法戦の許可と認識した皐月は
直後、皐月の周囲に十発ものミサイルが実体化する。
【> SATSUKI FOX 3.】
それぞれのミサイルはバラバラにドラゴンの群れに襲いかかり、石飛礫を撒き散らしながら炸裂する。
「があぁっ、ぐううっ」
強烈な魔法を皐月に強制された代償として、瑞穂の脳に強い負荷がかかり、激しい頭痛が瑞穂に襲いかかる。
「三尉!? おい、皐月。瑞穂を殺す気か!」
有輝は思わず頭に血が上り、瑞穂のことを呼び捨てにしながら皐月に怒鳴る。
【> Sorry. But_】
「いいの、二尉。私が彩花を守るように頼んだの。これくらい、なんてことない」
皐月が言い訳を紡ぐより早く、瑞穂が皐月を庇う。
実際、周囲のドラゴンは消し飛ばされ、彩花の安全は確保されており、四機は無事にハワイ上空に達しつつある。
瑞穂は自分の体が満足に動くのを確認し、オートマニューバスイッチを解除。
「三尉が言うなら……」
瑞穂が密かに苦痛から涙を流したことに、後ろにいる二尉は気付けなかった。
「ありがとう皐月、助かった」
彩花からお礼の無線が届く。
「お礼もいいけど、そろそろオアフ島上空に到達するわよ。そろそろ空母と連絡が取れるんじゃない?」
「試みてみる」
アメリアの言葉に、有輝がコンソールを操作し、呼びかけ始める。
「こちらは、アメリカ海軍所属『セオドア・ルーズベルト』
コンソールが更新され、周囲の不明機がドラゴンと味方機に塗り分けられる。
「
空母から指示が届く。有輝が了解で応じようとした時。
「こちら、『生徒会』に合流しているアメリカ空軍『トマホーク』のアメリア・カーティス少尉。陸上部隊の攻撃はどうするの? あそこには私の家族もいるのよ」
「確認した。セオドア・ルーズベルトよりトマホーク・ツー。この作戦は我らアメリカ海軍が主導し、陸上攻撃も爆装した我が航空部隊及び揚陸部隊が行う。貴機は先程の指示通り、『生徒会』とともに南の敵を迎撃する任務に就け。
君と同じ『トマホーク』チームが既にポイント・ネモのゲートから現れていると思われる増援を叩いているが、増援が多く、戦線が決壊しつつある。そうなれば、爆装部隊は戦線を抜けたワイバーンタイプの妨害を受け、精密な爆撃が困難になる」
「……こちら、トマホーク・ツー。
「皐月よりセオドア・ルーズベルトへ。残る『生徒会』も了解した。南へ進路を取る」
皐月を先頭に四機は再び編隊を組んで、南へ旋回する。
眼下ではドレイクタイプ
ギリリ、とアメリアが歯ぎしりする。今すぐあそこにミサイルの雨をぶつけたいのだろう。アメリアの気持ちは瑞穂にも分かった。瑞穂だって、家族のいる街をドラゴンが蹂躙したらきっと同じように感じただろうから。
自分を実質自衛隊に売っぱらったような親だが、それでも親は親だし、家族は家族だ。平和のためであるのと同じくらい、家族のためだと思って、これまでずっと戦ってきたのだから。
「皐月よりセオドア・ルーズベルトへ。ワイバーンタイプの群れを
「セオドア・ルーズベルトより『生徒会』。
「皐月、
「閏月、
「如月、
「トマホーク・ツー、
四機が一斉に、
前方を塞ぐ、扇状に放たれたミサイルは炸裂し、石飛礫を撒き散らして、多くのワイバーンタイプ
「先制攻撃は十分だ。ミサイルはドレイクタイプ相手用に温存し、ここからは格闘戦でいくぞ」
有輝が手早く指示を飛ばす。
「閏月、
「うん、浅子。
皐月と閏月が左へ旋回し、左にいるドラゴンの群れへ向かう。
「トマホーク・ツー、
「うん。アメリア。
如月とトマホーク・ツーもまた、右へ旋回し、ドラゴンの群れに向かう。
数分後、生徒会の目覚ましい活躍により、南から来るドラゴンの群れは撃破されつつあった。
増援はまだまだ南からやってきているので、小休止、位の認識が正しいか。
ただ、有輝がデータリンクを確認して調べたところによると、南以外の方向についても太平洋諸国から続々と援軍が到達しているおかげで、ドラゴンの殲滅が進んでいる様子だ。これにより爆装部隊も確実に陸上のドラゴンを攻撃しつつある様子だった。
このまま南にいる生徒会機及びブーメラン機が増援を遮断し続ければ、ハワイの奪還は成るかもしれない。
「なんだ、ドラゴンの動きが、おかしいぞ」
そう安心したと思った直後、セオドア・ルーズベルトより不穏な通信が入る。
「陸上にいた全ドラゴンが飛び上がった。オアフ島を旋回するように飛び始めた。奴ら、なんのつもりだ」
その疑問の答えはすぐに分かった。
ドラゴンが旋回する動きにあわせて、空中に緑色のワイヤーフレームが出現し、広がり始める。
「おいおいおい、あれって」
「ゲート?」
有輝と瑞穂がそれを見て反応する。
緑色のワイヤフレームで構成された円錐状の何か、これまでに何度か瑞穂達が見た小型のゲートどころの話ではない。それは間違いなくポイント・ネモ上空にあるゲートそのものだった。
そうなれば、中から出てくるものについて敢えて言及する必要もあろうか。
そう、無数のドラゴンである。
「オアフ島上空に無数のワイバーンタイプ
ゲートからゲート付近を飛ぶライトニングⅡに向けて、ミサイルが飛び出してくる。
「ミサイルアラート!? どういうことだ。
味方の混乱した声が上がる。
「ミサイルはゲートから出現した模様! 理屈は分からんが、敵だ。
そのミサイルを追うようにゲートから飛び出してきたのは、部隊章も何もつけていないスーパーラプター。
「スーパーラプターだ! ゲートからラプターが飛び出してきた! だが、所属は不明!」
その報告の直後、その報告をしていた爆装のライトニングⅡが撃墜される。
「どういうことだ。なぜラプターが味方を攻撃している? 通信は繋げないのか?」
CICも混乱している。
状況を把握できたのはこの場でたった六人。
日本、航空自衛隊からやってきた生徒会に所属三人のパイロットと三人の
「ゴーストラプター……」
瑞穂が呟く。
「はっはっは、これで三ポイントー! おい、聞こえるか、無能なるセカンド・ヒューマンズども!」
「なんだ、通信? どこからだ」
子供の声だった。瑞穂以上に子供に思えた。それより、奴はセカンド・ヒューマンズ、と言ったか? それはもしや、皐月の言っていた最初の人間たちと対になる言葉ではあるまいか。
「僕はチャンプ。JASDFの言うところのゴーストラプターのパイロットにして、『レッド・ブランチ・チャンピオン』のチャンプだ。サツキ、僕と勝負しろ。お前が来ないなら、僕はここでプチプチと小さな得点を稼がせてもらう。平たく言えば、お前ら全員全滅だ」
「待て、どういうことだ。状況が不明。JASDFはゴーストラプターなる言葉について説明せよ」
「二尉、説明の連絡を入れて。私は、オアフ島の方へ向かう」
「待て三尉、明らかに罠だ」
「でも、このままやらせるわけにはいかない」
皐月は素早く進路をオアフ島に向けて、
「こちら、閏月。私も行くよ」
「ありがとう、浅子」
その隣に閏月が並ぶ。
「こちら、如月。私とトマホーク・ツーはこのまま南からの増援を叩く。幸運を。行くよ、アメリア」
「えぇ。事情は分からないけど、罠なんてぶち破ってやりなさい、二人共」
対して、如月とトマホーク・ツーは反転、再び南からやってきたワイバーンに向き直る。
皐月はオアフ島上空に向けて飛ぶ。ゴーストラプターと戦うために。