「今、上から情報共有を受け、事情は了解した。既に理解頂けていると思うが、ゴーストラプターは我が国の機体ではない。なぜ彼が皐月を指名するのかは不明だが、敵が貴機を狙うのであれば、その間に我々はドラゴンの殲滅に力を注げる。貴機と僚機の活躍に期待する」
「ちょっと、それって
「いいの、
まもなく皐月はオアフ島上空に到達する。
「現れたな、ボーナスターゲット! サツキ!」
「早速不正アクセスしてきたぞ。やはり、こちらのデータが狙いなのは間違いないらしいな」
ゴーストラプターが素早く接近しつつある皐月に進路を変更、ミサイルを放ってくる。
皐月の正面で炸裂し、雷をばら撒いてくるそのミサイルを瑞穂はバリアーを展開することで防ぐ。
だが、浅子の時と同じで至近距離で発生する激しい稲光は瑞穂の視界を奪ってしまう。
「皐月、オートマニューバモードに入った。こういうときは助かるな」
「どうして、皐月のデータを狙うの?」
視界を奪われ何も出来ない瑞穂は、とりあえず、操縦桿を握りつつ、チャンプに問いかける。
「僕にとってはそれがボーナスターゲットだからだ。たくさん得点を稼げば稼ぐほど、お金になる」
(こいつ、傭兵か)
チャンプの答えに有輝が唸る。声を聞く限り瑞穂より若い子供だ。それが、雇われとして戦闘機に乗って戦っている。いや、遠隔操作だから命の危険はないのだったか。
「なら、どうして、私以外の敵を狙ったの」
「決まってるだろ。それはそれでお金になるからさ! ゲームでお金を稼いで何が悪い」
「ゲーム? 君はゲームのつもりでこの戦いをしているっていうのか?」
唐突に出てきたチャンプの言葉に有輝が問いかける。
無人操縦機を操る人間がゲーム感覚に陥る、という批判は事実としてどうかはともかく、よく聞く話だった。無人戦闘機でもそうなのだろうか。
「ゲームのつもりも何も、これはゲームだろ?」
「なっ……」
有輝は戦慄する。こいつ、ゲーム感覚どころか、ゲームだと思って戦ってるっていうのか。
「これはゲームじゃない。貴方以外の全員が実際に命を賭けてる」
視界が回復した瑞穂はそう言い返しながら、操縦桿を操作し、ゴーストラプターの背後を狙ってドッグファイトを繰り広げる。
「命? NPCが命を解くのか、面白いな。俺は説教臭いゲームは苦手だ」
ゴーストラプターはそう言いながら、ミサイルを発射。
それは正面に飛んだ後、緩やかにカーブしてゴーストラプターの背後を狙う瑞穂に飛ぶ。
「NPC? この飛んでる全ての人を、NPCだと? そう言っているのかお前は」
ゴーストラプターの追尾を諦め、上昇してミサイルを回避する皐月のGに耐えながら有輝が言い返す。
「そうだろ? ボタン一つでいくらでも増やせるセカンド・ヒューマンズが!」
ゴーストラプターも上昇、皐月の背後を取る。
「こいつ、完全にこっちをNPCだと認定してやがる。やばいやつだな」
貴重な会話の出来るドラゴン勢力だ。可能な限り会話を続けて情報を引き出したかったが、あまりのやばいやつっぷりに、有輝は続ける言葉を失う。
「瑞穂、援護するよ。閏月、
背後を取られた皐月を援護するため、閏月がゴーストラプターに向けて
「ちっ、通常ターゲットごときが!」
ゴーストラプターはこれをいつもの魔法垂直移動で回避。だが、大きく移動するこの魔法により、皐月へのロックオンが外れる。
対する皐月は
「皐月、
瑞穂がミサイル発射ボタンを押し、サイドワインダーを放つ。
対する、ゴーストラプターもミサイルを発射。
「
両者、同時にバリアーを展開しミサイル攻撃を防御し、交差。
否。
「なっ!?」
「ぶつけてでも、落とす」
瑞穂はバリアーを展開したまま、ゴーストラプターにぶつけにいった。
ゴーストラプターは咄嗟に回避出来ず、バリアー同士がぶつかり合う。
「面白い。模倣品が公式のチートに勝てるつもりかよ!」
対するゴーストラプターもアフターバーナーを起動。バリア同士がぶつかりあい、軋みを上げる。
【> I have control.】
十秒経過。皐月が操縦系統に割り込み、一気に急降下して、衝突を回避する。
「敵のバリアーはまだ健在か」
瑞穂は悔しげに呻く。自分のバリアー持続時間には自信があったのだ。
だが、瑞穂の行動は決して無駄ではなかった。
皐月とゴーストラプターがぶつかり合っている間に、閏月はゴーストラプターの背後に移動。ゴーストラプターに向けて、二発の
ゴーストラプターは魔法垂直移動で、そのうち一発を回避するが、もう一発は上空へ逃れることを読んだ上で、上向きに放たれていた。
「
鋭い剣となって、ミサイルから石の剣が飛び出す。
それは瑞穂との衝突により削れていたバリアーを貫通し、ゴーストラプターのエンジンの片方を破壊した。
エンジンから煙が上がり、目に見えて速度と機動性が低下する。
「くそ、また回復チートしなきゃとはな」
魔法陣がゴーストラプターを覆う。
「させない! 皐月!」
瑞穂がオートマニューバスイッチを押す。オートマニューバスイッチなしでオートマニューバモードに入れるようになった皐月にとって、これは魔法戦許可の合図だ。
【> I have control.】
皐月の周囲に再び無数のミサイルが出現し、ゴーストラプターに向けて放たれる。
ズキリと瑞穂の頭が痛む。
一斉にミサイル発射。
ゴーストラプターはバリアーを展開してそのミサイル攻撃を防ごうとするが、ミサイルは一斉に先程浅子が放ったのと同じ、石の剣となって、ゴーストラプターに迫る。
「くそ、俺のチートを超えてきただと!?」
チャンプが驚愕の声を上げ、更に魔法を発動し垂直移動する。
対して、石の剣は風の魔法を受けてそれを追尾するように進路を変えた。
「がああ、ぐぅ」
瑞穂の頭が締め付けるように痛む。
すべての石の剣がゴーストラプターのバリアーを貫いてゴーストラプターを機能停止させた。
「やったぞ! ……
有輝が瑞穂から応答がないことに気付き強めに声をかけるが、瑞穂から応答はない。
身を乗り出すと、瑞穂は失神していた。
「皐月、お前、また!」
有輝が皐月を叱責する。
「周辺のドラゴンはまもなく一掃される。燃料に余裕がある戦術偵察部隊は、ゲートに突入し、ゲートの向こう側を偵察しに迎え!」
「なんだって!?」
アメリカが突入派なのは知っていたが、まさかこのタイミングでそんな強引なことを言い出すなんて。
【> SATSUKI, Copy.】
皐月、了解。そう言って、皐月はゲートに突入を開始する。
「おい、皐月、お前、正気か!?」
だが、有輝が何を言おうと、皐月を止めることは敵わない。それが出来るのはパイロットである瑞穂のコンソールだけだ。
そもそも今、
皐月は緑色のワイヤフレームで構成された円錐状のゲートの中へと突入していった。
皐月が突入したのを見て、閏月もそれに続く。他のスーパーラプター部隊もそれに続こうとする。
だが、皐月がゲートに突入した直後、ゲートはノイズが走るようにゆらめき、消えた。
「嘘でしょ、瑞穂? 瑞穂!! 瑞穂ーーーーー!」
目の前でゲートが消え、ただ青空が広がる空を飛んでいた浅子は、瑞穂に通信で呼びかけるが応答はない。
皐月は行ってしまった。ゲートの向こう側、前人未到の未知の地へ。