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2:「時をかける冷蔵庫」起動!~ダサ力史学の権威、未来からの訪問者?~

数日後、田中一郎がいつものようにスマイルフーズ経理部で電卓を叩いていると、彼のデスクの内線電話がけたたましく鳴った。ディスプレイには「非通知・超緊急・時空連続体異常」という、ありえない表示が出ている。


「は、はい、経理部の田中ですが…」恐る恐る受話器を取ると、電話口からはヒステリックな早口で捲し立てる声が聞こえてきた。

「タナカ イチロー! アナタネ! キコエル!? ワタシハ未来カラキタ! ジカンギレダ! スグニコノ座標ニ キタマエ!!チキュウガ…イヤ、ダサリョクノレキシガ キエテシマウ!!!」

声の主は女性のようだが、ノイズが酷く聞き取りにくい。座標と言われても全く意味不明だ。


田中が困惑していると、隣の席の佐藤君が「課長代理!大変です!会社の給湯室の冷蔵庫が…冷蔵庫が、光って喋って踊ってます!!」と血相を変えて飛び込んできた。

何事かと給湯室に駆けつけると、そこには目を疑う光景が広がっていた。


古びた業務用冷蔵庫が、まるでクラブのミラーボールのように七色の光を明滅させ、扉をリズミカルに開閉させながら怪しげなテクノサウンド(のコトノハ)を鳴り響かせ、激しくブレイクダンスを踊っているのだ。しかも冷蔵庫の側面にはデジタル表示で「緊急!タナカサン スグノッテ! カコヘGO!」とメッセージが点滅している。


「「…………………………はい!?」」

田中も佐藤君も、目の前の光景が理解できず固まる。


「ア、アナタガ 田中一郎 ネ!? 乗ッタ!乗ッタ!急イデ!」

踊る冷蔵庫は、なぜかルー大柴のような口調で田中に乗り込むよう促す。扉が開くと、内部は卵や牛乳の代わりに、奇妙な操縦桿や計器類がひしめくコックピットのようになっている。


田中が躊躇していると、冷蔵庫のドアポケットからひょっこりと小さなホログラムの女性が現れた。それは電話の声の主と同じ、ヒステリックな雰囲気の若い女性だった。

「遅イ! 遅イヨー!時間ガナイノ! ワタシハ 22世紀ノ歴史学者、ジクウ・ルリコ! ダサ力史学ノ権威ヨ! アナタノ力ヲ借リニ未来カラ…イヤ、正確ニハ『時間ノ冷蔵庫(クロノ・フリッジ)』デ ワープシテキタノ!」

ジクウ・ルリコと名乗る未来の歴史学者は、そう言って冷蔵庫のコックピットに田中を無理やり押し込んだ。みさきに連絡する暇もない。


「発進(れいとう)スルヨー!」ルリコの叫びと共に冷蔵庫は轟音を立て、給湯室の壁を突き破り(幸いコトノハの壁なので修復は簡単だった)、眩い光と共に時空の彼方へと消えていった。後に残されたのはポカンとする佐藤君と、床に散らばった大量の霜(と未来のエネルギーの残滓)だけだった。


この「時をかける冷蔵庫」事件こそ、田中一郎を待ち受ける新たな時空を超えた大冒険――「リリック・エコー・パラドックス」との戦いの幕開けを告げる、強引すぎるファンファーレだったのである。

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