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憧物欲愛 肆 その2

 本来の性格上、貴照の本音と言えば、、、


 「波風立てずに、平々凡々で、、、」


 が、貴照のスローガン。

 学生時からそうだ。

 今は、食える分は充分に貰ってる。

 ホントに、それで充分。


 もう少し細かく言うと、中村さんは檀家や現場の仕切りをしてくれる。

 貴照が行けば、祓うの仕事に集中させてくれる。

 マネージャーみたいなものだ。


 一方、二ノ宮さんは術師。

 まだまだ粗削あらけずりの貴照の横に付き、行事としての祝詞のりと等の進行や、怨霊のたぐいを祓う際の“後始末”的なことをやってくれる。

 正直細かい事や作法的な事はまだまだ解らないので、居ないと困る。

 助かっている。


 だから手伝ってもらってる中村さんと二ノ宮さんの二人には、感謝している。

 何だったら少しくらい“お布施”をチョロ魔化して二人が私腹を肥やしていたとしても、基本的に文句は言わないつもり。


 それで上手く廻るのなら、波風が立たないのなら、、、それで良い。

 ただ、と思った時に、すれば良い。


 貴照は、それが出来てしまう。


 立場的にも。

 力的にも。


 “呪喜じゅんき童子”なのだから。


 貴照は今、とある外資系のエライさんに依頼された御祓いをしてきたところ。

 この頃、感じるモノがある。

 異常なほど力が強くなっていってるのが、自分で解かる。


 ――僕は、人間のままでれんのかな、、、


 童子の名を冠し、少し自分に怖くなり始めの時期でもあった。

 童子にりたての、術師あるある。


 マンションの廊下を歩いて、部屋の前に辿り着く。

 ポケットのカードキーを出して、パネルに当てた。

 安っぽい音と共に、扉が解除。

 貴照が住まいにしているワンルームへ入ろうとして、玄関で溜息タメいき


 ――また、、、


 そこに、見覚えのあるクロックスが脱いであったからだ。

 廊下から部屋に入るとキレイに掃除され、テーブルの仕上げの拭き掃除をしている人物が居た。

 貴照に気付くと、振り向き、笑った。


 「いくらお義母かあさんでも、息子の部屋に勝手に入んのはどうなん、、、?」


 ぶっきらぼうに言う。

 貴照の言葉に悪びれる事も無く、反対にフェロモンを『これでもかっ!』とらして近付いて来た。


 「疲れた身体を休める場所は、清潔にしといてそんは無いやろ?」


 言って貴照の腕を取り、豊満な胸に当てる当てる押し当てる。


 「お義母さん、息子にそんなくっ付かんといて、、、」


 腕を引っこ抜く。

 極力クールに、オトコマエに振舞うが、感触が残る腕が気になる。


 ――ったく!


 自分に言ったのか、義母に毒づいたのか判断に苦しむ。


 「貴照さん、コーヒーれましょか?」


 メゲもせず、キッチンに立とうとするので背中から肩を掴んで、義母ははを玄関の方に向けた。


 「欲しかったら自分で淹れるから、、、」


 言いながら背中を押し、いかにも息子が親に対してウザそうに対応する感じを出す。

 そうはしているが本音を言うと、いつ押し倒してしまうか怖くなる時がある。

 そうしないためのかせが、オトコマエを演じる事。


 それでも、特に今みたいに仕事を終えたばかりで“御祓いハイ”になってる時は、欲情も“ハイ”になっている。

 女性が眼の前に居たなら、誰だろうが三大欲求の一つを満たすためにその身体にむさぼり付きたくなる。


 「いやん解かったから、そんな強う押さんといて~なぁ、、、」


 ――知るか!

 一気に玄関まで押す。


 「貴照さん、痛い!」


 性根しょうね優男やさおとこの貴照、思わずその言葉に反応して手を離してしまう。

 玄関まで、強気で押し切るつもりだったのに、、、。


 「もう、、、貴照さん、痛いわぁ」


 そう言って、義母は甘えた声を出す。

 少し見上げるように、貴照を見つめる。


 ――これ、、、だ、、、


 全身鳥肌が立つ。

 気付かれただろうか?


 欲情している事を、、、。


 パリピ親父より17歳下。

 貴照より、ひと回り上。

 それでも、関係ナシにカワイイと思わせる。

 年齢を知らなければ、自分と4~5歳しか変わらないんじゃないかと思ってしまう。

 そんな義母に、顔を両手で掴まれた。


 「貴照さん、キライにならないでね、、、」


 必ず言う、義母の口癖。

 スナックでチーママしているところを、親父に見初みそめられたと聞いている。

 子連れで来た義母、親父以外にたよは無い。

 なのに、沖縄に飛んだ親父。


 そうなると、意地でも此処ここを出て行く訳にはいかない。

 連れて来た娘との生活がかかっている。

 しがみ付いてでも、この生活を手放す訳にはいかない。

 親父が居ない今、義母この女がしがみ付く相手は、貴照。


 「義母かあさん、何でもするから、、、ね」


 不意に抱きしめられた。

 背筋に、電流がはしる。

 ほんの、2秒の出来事。


 ――くっ、、、アカン!


 引き離そうと貴照が動く前に、義母の身体がスッと離れる。

 くす、、、。

 笑った。


 ――笑われた?!


 多分、いや、絶対バレた。

 身体を密着されたのだ。

 年上の女性に、バレない訳が無い。


 顔が赤くなっていくのが、自分でも分かった。

 クロックスを履くと、扉のノブに手を掛けながら振り返る。


 「希良々きららの事も、可愛がってや、、、」


 そう言うと、やっと出て行ってくれた。

 オートロックが閉まる音。

 それを聞いたら、その場に崩れ落ちた。


 ――もう、、、疲れた、、、


 ベッドまで行く気力も無くなっていた。

 崩れ落ちた体制のまま玄関先で、あっという間に貴照は寝息を立てていた。





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