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第47話 有象無象の嘘の一撃 【後編】



「お腹空いた」


私の耳元で白夜は私に囁いた。


もう少し寝たいと言って、私の背中を抱いて暫くしてからだった。


お互い裸で、背中から抱き締められているが、がっつり私の胸に手が当たっていたが、いやらしい事はしてこなかった。


でも、白夜の言葉に私は何だか、良く分からない気持ちになった。


思っていたより、白夜は幼い人に思えたんだ。


100歳らしいけど。



「私もお腹空いた。 朝ごはん、食べたい」


私は素直に要望を口にした。


白夜は起き上がりベッドを降りて、服を着ながら、私に言った。



「洗濯機に、君のシャツと下着があるよ。乾燥まで終わっているはずだから、着替えて着なよ」


私はベッドを降りた。


着替えを取りに行きたいが、服が無くて。


裸でそこまで行くのか?と、焦ったが、白夜がバスローブをくれた。


「これ、着て良いよ」


「ありがとう」


それを羽織って洗面所に行き、着替えを済ませてリビングに行くと、白夜は台所に立っていた。


「パンが1人分しか無いから、朝ごはんどうしよう?」


「ご飯は?」


「冷蔵庫に1人分⋯」


「お餅ある?」


「パックの餅ならあるよ?」


「刻みネギある?」


「冷凍のならあるよ」


「じゃあ、お粥作って良い? それ、食べるよ」


白夜は、好きにして良いと言うので、それで、ネギの餅粥を作った。


「僕、どちらかと言うと、そっちが食べたい。君がパンを食べて」


「半分こしよう」


「良いね」


結局、朝食は、トーストを半分ずつと、作ったお粥を二人で分けて食べた。


「これ、美味しいな」


「へへ、家に食料が無い時の定番なんだ。 私も好きだよ」


私がそう言うと、白夜は首を傾げた。


「今のご時世で、家に食料が無くなる事あるの?」


「ちょっと、一時期、食うに困らないギリギリの頃があってさ。買い物に困った時、よく食べてた」


「ふ〜ん。」


朝食を終え、一緒に食器を片付けて、私は白夜に外出に誘われた。


「靴が無い」


「買ってあげるよ」


白夜は私にサンダルを貸してくれて、外に出て、白夜の転移でモールに連れて来られた。


いつも行く海沿いの所だった。


靴を選んだ。


制服だけど、白夜は私に、黒の猫科の大型動物のシルエットのメーカーのスニーカーを勧めて来て、私は、それを気に入って、買って貰った。


「僕さ、むらさきいもそふとくりーむって、食べてみたい。  君、前に言ってただろ? それを友達と食べるのが、今の自分の一番の望みだってさ」


「えっ、あの時も居たんだ」


「うん。隠れてた。 あの時も、君を見てたさ。 分魂までして、人外の魂に身体の中を縛られてさ。変わり果ててさ。何、言ってんだろ?って思ったさ」


「そっか⋯。じゃあ、連れて行ってあげる」


私は白夜の手を取って、私のお気に入りの芋けんぴ専門店に転移した。


「君も、自由に転移できるんだね」


「色々あって、身に付けたんだ。 さあ、行こう」


私は、白夜の手を引いて、芋けんぴ専門店の中に入った。


入口のすぐ先に、揚げたての芋けんぴの試食を指差して言った。


「食べて、ここの芋けんぴ、絶品なの」


白夜と揚げたての芋けんぴを試食した。


「美味しい⋯⋯」


「白夜、私、お金持ってない」


「僕が買うよ。君も好きなもの選んで。僕も色々、買いたい」


白夜は、芋けんぴやチップスを見ていた。


「ぷりんやスイートポテトも美味しいよ」


「選択肢を増やすね」


選び兼ねて、顔を顰める白夜に私は言った。


「えへへ、全部、オススメだよ」





私は、芋けんぴと芋チップスを白夜に買って貰った。


紫いもソフトクリームも買ってくれ、お店の外のベンチで一緒に食べた。


「美味しい。何を、食べても、美味しくて、馬鹿みたいだ」


「えっ?」



白夜は、私からも顔を背けて空を仰いだ。


まるで、涙を堪えているようだった。




「そうか⋯⋯。あの人の気持ちがやっと分かったよ」


「あの人の気持ち?」


白夜は、振り返って私に泣き笑いした。


何でそんな顔するんだ。


「僕は、羨ましかったんだ。  あの人と、あの女に愛されている義妹が憎かった。 認める。 僕の醜悪で、自分の身内を殺すところだった。僕は、やっと、後悔出来たよ」


紫芋ソフトクリームを食べ終えた白夜は、私に言った。



「君との約束の時間が来た。正午だ。 懸 凛々遊【あがた りりあ】。 約束を守り抜いた君に対価を払う。 篠崎 茉莉愛【しのざき まりあ】は、大鏡公園の東屋で待っている。 君は、行っては、行けない。 行って良いのは、あの写真の人達だけだ。 それが、彼女の本当の望みだ。 みんな仲良く、地獄に導いてあげてくれ。トモのイノチと一緒に、だ。  それがせめての幸いだよ。 あの継母の捻くれた独りよがりの思念にとってのね。  君に、それの成就を託す。さよなら、六封じの【最愛】のキミ」



白夜は、そう言い残して消えてしまった。


そして、私が途方にくれて、その場に立ち尽くしていると、何故かパトカーが通りかかり、私の姿を見つけて、車から警官が駆け寄って来て、私に言った。


「君、名前は?」


「えっ、あっ、あの⋯⋯」


「名前は。 言って」


「懸 凛々遊【あがた りりあ】です」


私がそう答えると、警官は私に車に乗るよう促して、私を乗せて走り出した。


【行方不明届けの出ている、女子高生を保護】


車内の警察無線を聞いて、私はヤバいと思ったが、まさか、転移で逃げ出す訳には行かないと思った。



天神の警察署で下ろされ、私は、警察署に連れて行かれて、個室に通され、背広姿の男の人と対面した。


「君を、親御さんにすぐ返す訳には行かない。事情は分かっているかな?」


「事情とは?」


「君のクラスメイトは、昨日、救急搬送されて、意識不明だ。今も、ね」


「えっ、篠崎さんがっ」


「驚いた⋯⋯。君、本当に、彼女の事に関わっているの? 六封じでも、若葉絡みでも、殺人未遂までは、いくら、その理を知っていても、容易く、黙認は出来ない。 とは、言っても、でも、だからって、今回は、何なんだ」


この人、何だ。


何者なんだ。


「私に、行方不明届けを、出したのは誰ですか?」


「誰から、聞いたの? 君を、保護した警官にはあらかじめ、口止め出来る、人選をよこしたのに」


「私を保護した警官さんは、私には何も話してはくれませんでした。でも、警察無線でしりました⋯⋯」


途中で慌てて無線を切っていたが、その為か。


「そうか⋯。 悪いけど、君の行方不明届けを出した人間の話は後だ。 僕は、元、レンズサイドウォーカーの若葉の特別クラスの卒業生だ。稀代の特待生が在校する前の古参だ。だから、あまり、六封じの神秘や奇跡に明るくない。 君は、若葉の特別クラスの特待生で、神の洗礼で史上最高の祝福を貰った逸材だって、学園長は言っていた。だから、今回の事を、僕に説明して欲しい。人が1人、死にかけるほどの、大惨事に、どうしてなったか説明してくれ」


私は、席に着くよう促されて、席に着いたが。


事情をおいそれと話して良いか、躊躇った。


目の前の人が、全部本当の事を言っているか分からない。


自分の立場やレンズサイドの理を、本当に全部話して良いか、分からないと思ったからだ。



「こんなの猩々【しょうじょう】の一件以来だし、それを超える大問題だ。 理解に苦しむ」


しょうじょう⋯⋯。


そう言えば、チェリーブロッサムの騒動の時に聞いた確か、猿のあやかしの事か?



「この前、チェリーブロッサムで、チャリティーバザーの時⋯⋯」


「知ってるの? 4年前の残党がお礼参りに来て⋯、またあの厄介者を怒らせて、ひやひやしたよ。 また、大事な友達泣かせるつもりかって、叱らされたよ。 もう、今回は、誰も、味方側が怪我しなくてそれだけは、ちょっとは、成長したもんだと思ったけど。本当に、4年前の時は、傷害事件、殺人事件に発展したっておかしくなくてさ」


それ、聞きたい。


シュウさんと、ララさんの話だ。


絶対。


「4年前は、誰が怪我したんですか?」


「言っても分からないだろう?」


「シュウさんとララさんの話ですよね?」


「えっ、二人を知っているの?」


「はい。よく知ってます」


男の人は、少し考えた後、何故か私に、4年前の話しをしてくれた。


猩々と言う、あやかしを宿した人間がチェリーブロッサムの周辺ごと地上げを企み、それに関わる関係者を脅し、その地を掠め取ろうとしたが応じず、業を煮やして、虐げにかかって、シュウさんとララさんは奮闘したのだそうだが、2人が愛してやまない人に自分が忘れられている事に気が付き、二人はその人を襲ったんだと言う。



その人を、ララさんが階段から突き飛ばして、その人は一時記憶障害を起こす程の重症を負って入院した。


シュウさんが、入院先に乗り込み、その人の傍にいた男の人を気絶する程ボコボコにして、その人を脅して驚いたその人は、腕を振り払って自分の点滴を引き抜いてしまってベッドが血塗れになったのだそうだ。


「えっと、その2人が愛してやまない人って、チェリーブロッサムの惣菜店の奥さんで、チェリーブロッサムの相談役してる人ですか?」


「そうだよ。よく分かったね」


「えっ、じゃあ、気絶する程嬲ったのって、セイさんのあの綺麗な旦那さんですか?」


「違うよ。たまたまお見舞いに来てた、がたいの良い、ソウさんって言って分かるかい?」


「分かります。お世話になってます」


「へ〜、あの時の一件はね。まだ、納得してるんだ。実際、色々、魔訶不思議な事、ばんばんやって来たからさ」


「そうなんですか?」


「そうだよ。コロナの始まる直前で、あんま人目は引かなかったけど、結構な事やってくれたんだよね」


「そうなんですね」


「あの時は、本当驚いたよ。 その事で、セイさんの今の旦那さんがセイさんに危害を加えられるのを心配して、退院した直後、彼女を数日県外に連れ出してもう大変だったんだ」


あの二人、何やってんだと思ったが、今の自分の状況と照らし合わせると人の事を言えた義理じゃあ無いと思った。



「猩々は、シュウさんが、相打ちに持ち込んで、解決したと聞いてますけど」


「うん。あの後、無事、相手が力を失って意識を取り戻して、送検出来て今も余罪で裁判中だ。 残党にまだ猩々が残ってたのと、シュウが力を取り戻していたのには、驚かされたし、神様と、稀代の特待生が取り抑えてくれたと聞いた時も驚いたよ。 今、若葉には、神様の先生が教鞭を取っているんだろう?」


「はい。私の担任してくれてます」


あぁ、この人に、話してしまおう。


私は、そう思って、全部話した。





「本当は、彼女を、君に会わせるなんて、出来ないんだよ。僕ね、若葉の、関係者の一番上の人を説得して、特例認めて貰ったんだからね」


「はい。ありがとうございます」


篠崎さんは、警察署の直ぐ側の救急指定病院に入院していた。


入口には、面会謝絶とあって、彼女の母親は面会を許されていたが、私が面会する為に、部屋を出て貰ったそうだ。


病室で身体に、色んな管を付けられ、酸素吸入器を着けた篠崎さんの所に行った。


「ユキナリ、これは、どういう事?」


篠崎さんの胸から光り輝きながら、ユキナリが姿を現した。


「りりあ、力を流し込んでも、身体の損傷が癒えぬ。 血が通っておらぬ時間が長過ぎて、身体が弱っておるのじゃ」


男の人が私に言った。


「えっ、何、これ?」


「この神様に、篠崎さんの事を頼んだんです。私の力じゃ、駄目みたいで、ちょっと、他を当たります。――センサイ――」


私の呼びかけに応じて、菅原先生が現れた。


「えっ、懸さんっ。 戻って来たの? 君、どこに行ってたの!」



思いっきり怒っているのが、バチバチ電光を纏っている様から、ありありと伝わった。



「菅原先生、篠崎さんを癒せませんか? イノチは戻せても、身体は癒せない。 前に、私を、癒やしましたよね?」


菅原先生は、ハッとして篠崎さんを見て言った。


「篠崎さん、何を、されたの?」


「首を絞められたと思います。 あいつは殺したと思ったって言ってました。確かめた時、呼吸なくて、心臓も停まってた。 彼女の胸を思いっ切りに叩いて、篠崎さんは、息を吹き返して、それで、ユキナリに力を流し込んで篠崎さんを託して、119番して、あいつと私は、その場を離れました。 解放されて、警察に保護されて、今に至ります」


菅原先生は、篠崎さんの胸に触れて、バチバチと雷光を鳴らして、言った。


「僕が癒せるのは、外傷だけだ。 神経や脳内組織の損傷までは、無理だ。 これが、限界だよ」


「えっ、君、人連れて来ちゃ駄目だよ。何、部外者呼び込むんだよ」


男の人の抗議に私は、言った。



「人じゃない、純度百パーセントの神様ですよ。ねえ、菅原先生」


「君、何べらべら⋯⋯、お久しぶりです。先日は、うちの卒業生の一件でお世話になりました」


菅原先生は、男の人に苦笑いした。


男の人も、菅原先生に苦笑いした。


「この前、シュウを宥めていた、若葉の先生ですよね? 神様⋯⋯何ですか? あの、私も特別クラスの卒業生で、卒業後、噂で神様が教職に就いたとは聞いていましたが、そもそも、シュウを扱える人って⋯⋯普通じゃ無理だ。 えっ、本当に」


戸惑う男の人に菅原先生は言った。



「はい。人間じゃない。僕は、京都から来た千年前に人のイノチを終えた、神様です」


そう話している最中、篠崎さんが目を覚ました。


「懸さん⋯」


呻くように言葉を発して、開け目から、涙が溢れた。


「篠崎さんっ」


私が叫び、駆け寄ろうとするのを、男の人が私の肩を掴んで止めた。


「まずは、医者を呼ぶ、ナースコール。 これってたまたま、えっ、ちょっと、待って」


狼狽えながら、男の人はナースコールに手を伸ばして、私を離した。


「懸さん、ごめん。 懸さんの振りして、聞き出そうと思ったけど、あんまり、聞くに耐えなくて」


私の振りってなんだ。


「えっ? 私の振りしたの?」


「自分で懸さんの姿になれる呪詛組んで、うまく行ったのに、しばらく話すうちにキスして来てさ。術、それで、解けちゃった。 ごめん、台無しにした」


えっ、何だよ、その事故は。


「勝手に喋らない。 君、黙って、死んだっておかしくないんだよ。大人しくしてっ」


私は菅原先生を見て、言った。


「菅原先生、外傷は癒えたんですよね」


「あぁ、折れていたアバラも、一応、血液の淀み位までは、癒せていると思うけど、刑事さんの言う通り、安静にするに越した事は、無いと思う」


えっ、刑事さんなの、この男の人。


まあ、警察署にいる人だもんね。


制服着てないなら、事務員の人か、偉い人か、刑事さんだろうけど。


そっか、刑事さんだったか。


「兎に角、ちょっと、下がって。出て行くように言われるまでは居ても良いから」


刑事さんの指示に従って、意識を取り戻した篠崎さんの為に駆け付けた人達の処置を見守ったが、直ぐに部外者は出て行くよう言われてしまい、刑事さんごと私達は病室を出された。




「さて、病室も締め出されたし、取調室に戻ろうか?」



刑事さん、今さらっと、私がさっきまで居た部屋の事を取調室って言ったけど。


それって、今さらっと言うべき事なのだろうか?



「えっ、私、取り調べ受けて居たんですか?」



私の言葉に、菅原先生が目を丸くしている。


刑事さんも、だが。


一際、菅原先生の反応の方が気になった?



「懸さん、君、状況分かってる?」


「えっ、分かってますよ。家出して、捜索願いを出されているって」


私の言葉に、菅原先生は険しい顔で刑事さんに言った。


「彼女、状況把握して無い様ですが? ちゃんと、説明していただけなかったんですか?」


刑事さんは、苦笑いで言った。


「いえ、最初に間違いなく伝えてます。殺人未遂事件だと、えっ、懸さん、そうだよね」


「はい、聞きましたが?」


菅原先生は私に溜息を付いて、刑事さんに言った。



「彼女には、まだ今の話しで物事を悟る社会力が無い。 事の重大さが理解出来ないんです。 すみません、彼女はレンズサイドの天才で、現実は凡人何です。彼女の取り調べは任意ですよね。僕も同席しても良いですか?」


「法律上、弁護士でも無いと駄目です⋯⋯、でも、あの、神様は、良いかな? 人間じゃないって証明してくれたら、そうですね」


刑事さんが、躊躇いがちにそう言うと、菅原先生は、警察署の人気の無い場所で、本来の魂の姿に変わった。


イノチを無くした当時の数え年で7つになる前の姿だと言った。


死装束を着た、黒髪のおかっぱ姿の可愛い童だった。


「雷神だから、後は、雷を打つ位しか出来ないけど、病院の近くだから、それは遠慮したい」


「⋯⋯もう結構です。あの⋯⋯戸籍とかは?」


「特例で20年前に偽造して貰いました。 ありますけど?」


「分かりました。信じます。人じゃない⋯⋯人じゃない。もう、話し始めましょう」


良かった。


ちょっとは、安心できる。


1人じゃ、心細かったんだ。


「取りあえず、まず、彼女に状況を把握して貰いたいので、説明を試みて良いですか?」


菅原先生の言葉に刑事さんは、顔を顰めた。


「えっ、まぁ、僕も彼女には、事の重大さを認識はして欲しいので、僕の眼の前で良ければ」


菅原先生は、刑事さんの許可を得て、全く目が笑って無い笑顔で、私に説明を、始めた。


まず、今まで、奇想天外、魔訶不思議な事態で色んなトラブルに見舞われ、色んな事を目の当たりにして、時には、人の生き死に関わる危険な場面に遭遇した事も何度もあった。


そう、前置きした上で、菅原先生は、今更、至極最もらしい事を言った。


「人を怪我させたら、傷害罪。人を殺めようとしたら、殺人未遂。本当に、殺めたら殺人罪。 未成年を保護者の許可なく連れ去ったら、未成年者略取誘拐罪。 未成年者に、性行為は勿論、キスや抱き締める等の性的行為に及ぶのは、未成年者の合意があっても、不同意わいせつが成立する。 全部、犯罪で。警察は、その事実を捜査して検挙すら組織。 君、殺人未遂の重要参考人になっている。 状況、これで、分かった?」


「はい⋯⋯」


驚愕する私に、刑事さんは言った。



「いやぁ、流石、先生。お見事です。あっ、殺人未遂に、さっきの被害者の証言で無事、不同意わいせつが追加されました。 被疑者に同意のないキスをされたって、被害者が言っていた。後、君を連れて立ち去った被疑者に対して、君への未成年者略取誘拐罪の疑いと、あぁ余罪出て来た」



いや、刑事さん。



「えっ、私への余罪って⋯⋯」


「ごめんね。取り敢えず、調書新たにそれでも、取るから、待ってて。 君、彼女を殺そうとした人とどうしてその場を離れたの?」


「えっ、あっ、へっ、あっ、嘘⋯⋯、菅原先生⋯⋯」


「懸さん、正直に話して。人ととして果たさないといけない義務からは、人である以上逃れちゃ駄目だ。 君は⋯人間である事を選んだんだから」


今まで、散々、現実離れの事態に頭を悩まされ、現実離れで常識の通用されない事ばかりで、すっかり、今は現実の方がよく分からない。



私は、観念して、遡ること2月に、篠崎さんを殺そうとした奴から、手紙で呼び出され、私はそれを彼女に相談して、彼女に出し抜かれて、彼女が待ち合わせの場所に行き、彼女の妨害で2時間以上遅刻して待ち合わせ場所に行った所、篠崎さんが倒れており、呼び出した本人から、彼女を殺したかも知れ無いと打ち明けられた旨を話した。


「それで、彼女を置き去りにして君は、そいつとその場を後にしたの」


「はい。生きてても、死んでいても構わない。どうせ、ぐちゃぐちゃにして、見せしめにすると言われて、119番する事と、彼女を見せしめに空に浮かせて地上に落とすのを止める。2つのお願いをして、私は、その人と、その場を離れました。 その人、出来るか分からないけどって、篠崎さんの胸を思いっ切り、拳で叩いて、そうしたら、篠崎さんは、は息を吹き返しました」


私は、その人と次の日の正午まで行動を共にして、保護された場所で解放された事を話した。


「何で、正午で解放されたの?」


「そもそも、一晩だけ、一緒にいて欲しいって、それを願う手紙だった。だけど、私は2時間以上遅刻して来たって抗議されて。だったら、何時までか、尋ねたら、正午までって。約束、守って丁度に解放されました」


私がそう言うと、刑事さんは言った。



「宛名は【最愛の君】。差出人は【白夜】。飛んだ厨二病だと、思ったけど?」


えっ、まぁ、そりゃ、そうだけど。


えっ、持ってるのまさか?



「私の祝福は【最愛】だから。それ、刑事さんが持ってるんですか?」


「あぁ、彼女の持ち物から出て来た。内容も、君の話と一致しているね。一晩だけ、って。 えっと、ちょっと、あんま、嫌な事聞くけど、あの手紙の内容だと、呼び出して、その、性的な行為を仄めかしてたよね? ごめん、職務上、聞かない訳には行かないんだ。彼に君は、彼と一緒に居た時、何かされた?」


私は、思わず、目が泳いだ。


「⋯⋯えっと、ナニモサレマセンデシタ」


「ごめん、正直に話して。 親御さんを呼んでからの方が良いなら、待っても良いから」


親って、いやさ。


「私、親は四国で、未成年後見人の人が保護者なんですけど⋯⋯」


「知ってるよ。 僕が言っているのは、両親の事だ。 僕の判断で、今回の事を両親に連絡した。 本当の両親が居るのに、未成年後見人にだけで、君の処遇を決める訳無いよ。 君さ⋯親の気持ちにもなってよ。 殺人未遂事件の被疑者に誘拐されたんだよ。 ちょっと、レンズサイドから、頭をいい加減切り替えて」


「⋯⋯分かりました。まぁ、そっか、これが⋯⋯普通、なんですよね。そりゃ、そうだ。頭、バクってる。菅原先生⋯⋯私、どうしたら良いかもう分かりません」


「懸さん、辛いのは、分かるよ。でも、今回は、君が選んだ末路だ。僕達に一切打ち明けてくれなかった。 だから、同情は出来ない。 なんて無謀な事するんだ。 殺されるかも知れない。 乱暴されるかも知れない。 もう帰って来れないかも知れない。 どれだけ、みんなを心配させたか、まさか、君はそれが分からないの?」


私は、今更、正にその通りだ、と泣けて来た。


「ごめんなさい。菅原先生」


「君とまた会えただけでも、僕は、奇跡だと思っている。 心配したんだからね」


「はい⋯⋯」






ひとしきり泣いて、私は、言った。



「その手紙の差出人と、その人の家に行って、カップ麺を食べて、歯ブラシと着替えを貰って、一緒のベッドで4時間位寝ました。起きたら、服を全部脱がされて、いました。でも、脱がされただけで、何もして無いと思います」


「⋯⋯ちょっと、ごめん。君も⋯⋯一度、診察を受けて貰う必要があるから」


「診察ですか?」


「君、レイプされて無いとは言い切れないだろ。眠っている間に」


「いや、流石に、それは⋯⋯多分ないと思いますけど?」


「いや、無理。ごめん、女性の職員連れて来るから、その人の指示に従って」


いや、ちょっと、やめてよ。


私は、困った顔で菅原先生を見たが菅原先生は顔を背けた。


「妊娠してたらどうするんだい?」


「私、初潮がないし、子供は産めない身体にされてる。それは、絶対無い」


私の言葉に、刑事さんは凍り付いた。


「えっ、15歳だよね? もう来月16歳になるんだよね? えっ、産めない身体にされてるって、何、えっ?」


混乱する刑事さんに私は言った。


「言葉の通りです⋯⋯」


「でも、性病に罹患してないかの検査もあって、受けてるに越した事は無いし、こちらも状況証拠無いと、いざ立件する時にそれじゃ⋯⋯はぁ。もう、随分聞いてた話より、重いな。取り敢えず、それは、置いといて、最後に聞かせて」


「何ですか?」


「君は、何のために、差出人の男の言いなりになったんだい?」


私は、少し考えてから、答えた。


「4年前に55人の人質と引き換えにイノチを差し出そうとした人と、その人を助けようとしてくれた人の魂を取り戻す為です」


私の言葉に、刑事さんはしばらく目を閉じてから、言った。



「それか⋯⋯。それも、絡んでいたか。非公開の事実だったけど、1人だけ、目を覚まさなかった人が居るとは聞いていた。 それが誰かまでは、知らないけど、そうだ。4年前、立て続けに、沢山の人が昏睡状態に陥ってやがて、目が冷めたけど。長い人で1ヶ月経っても目覚めなかった。その事にも、君は関係してたのかな?」


「はい、私は、その人質交換の場に居合わせました。あの二人も、助けたかった。 その為です。 立件でも、何でも、すれば良い。 でも、それで、二人は帰って来ないのに、何の為の、何なんですか? 変わりに助けてくれるんですか? 何か、手伝ってくれるんですか? 誰かをそれで守れるんですか?」


私の滔々とした質問に、刑事さんは言った。


「恐らく、何も出来ない。 そうだ。 なるほど、学園長の意図が分かった。 今回の事を一切、公表せず内々にって、今回ばかりは、学園の名前に傷を付けたく無いだけじゃないか? ただの未成年を狙った痴情のもつれで、怒った事件にどんな正当性があって、そんな処置を求めて来るんだって、理解出来なかった。 でも、彼女と君は猩々ではない、白夜と言うそれから、取り返そうとして、身体を張ったのは、分かった」


そう言って、刑事さんは更に続けた。


人外のやる事に、力の無いものは無力だ。


24年前に昼日中に若葉学園に登る龍を、去年の夏にまた目にした。


この世にある魔訶不思議は、時折、目にして来たが、到底、自分達では太刀打ち出来ず、それに圧倒されるばかりだった、と。


4年前、自分の奥さんと子供さんが眠りについて、目を覚ました時、奥さんは白い蛇を従えた女の人が見つけて外に出してくれたと話し、子供さんは蒼い龍が見つけて頭に自分を乗せて布団の上まで返してくれたと話した。


「まだ、助かって無い人の為に、君達が危険を侵して、おかしいよね。僕は、何をしてるんだろうね」


刑事さんは項垂れて、しばらく、押し黙った後、私に言った。



「上の人を説得してみるよ。出来るかは、わからないけど。君の調書も一旦破棄する。良い? でも、約束して。君は、手紙の事も、今回の事も知らない。 宛名は【最愛の君】で、懸 凛々遊【あがた りりあ】じゃない。 君に捜索願いを出した未成年後見人の届けに従い、君を保護者に引き渡す。それで良い?」


私は、刑事さんにお礼を言った。



取調室のドアがノックされ、入って来た人は、刑事さんに耳打ちして帰って行った。


「篠崎さんのお母さんが君に、どうしても、会いたいって願い出ている。会うかい?」


えっ、本物の篠崎さんのお母さんがか? 


えっ、まじ、正真正銘の初対面になるんだけど。


どうしよう。


私が戸惑って菅原先生を見ると、菅原先生は言った。



「僕も一緒に、行く。会おう。いや、会って欲しい。僕が彼女に会いたいんだ」


「分かりました」



私は、刑事さんの手引でまた病院に行き、ロビーで篠崎さんのお母さんとの対面を果たした。


篠崎さんと篠崎さんのお母さんの分魂は歳も背格好も瓜二つだったが、少しふくよかで、でも、それは、大人の女性らしい感じで、美しさの増した羨ましい成長に思えた。


「懸 凜々遊【あがた りりあ】 娘を助けてくれてありがとう。 ごめん、あと一つ、頼み事を引き受けて欲しい」


えっ、どういう事?


私も、菅原先生も、いきなり、変な様子の篠崎さんの母親に度肝を抜かれていた。



「えっ、はっ、貴方、誰?」


「篠崎 茉莉愛【しのざき まりあ】 ミナミの母親よ。 あいつらの操り人形になる前に、左の小指の神経を使ってさ、ちょっとだけ自分の魂を切り離したの。自力じゃ移動でき無いから。本体に戻ったわ。更夜、もう居ないし。隠れる必要無いからね」


分魂を自力で考え出して、実践してたのか?


記憶を流し込まれたって、篠崎さんは、言ってたけど、もっととんでもない事、してたな。


さすが篠崎さんのお母さんだ。



「私の分魂の場所、分かった?」


「えぇ、何とか⋯⋯分かりましたけど。えっ、まさか、そこに乗り込むつもりですか?」


「何で、行かない選択肢があるか分からないんだけど?」


私は、菅原先生を振り返って助けを求めたが、思ってた篠崎さんのお母さんは、分魂した後の何も知らない彼女と思っていた分、菅原先生も私と同じだけ動揺していた。


「ごめん、やっぱ、ちょっと、僕だけじゃ、無理かも知れない」


落ち込む私達に、刑事さんも同席の上の面会だったので、刑事さんも漏れなく動揺していて困った。


「えっ、何処まで、どうなっているの? えっ、みんなレンズサイドウォーカーなの?」


「漏れなくそうよ。私は、若葉学園の特別クラスで特待生が3人いた頃に在学してた⋯⋯って少しだけの記憶と、ミナミをお腹に宿していた頃に、何とかして、私を利用しようとする奴等に、一矢報いてやるって毎日、呪詛を組んでたのその記憶で出来てる」


いや、篠崎さんからは、当時の生徒会メンバーへの謝罪と贖罪の念がって、聞いてたんだけどな。




「場所、教えなさいよ」


「娘さん、面会謝絶ですよね。あれ、集中治療室でしたよねっ。 せめて、一般病棟に戻るまでは、娘の心配して下さい」


「⋯⋯分かった。抜け駆けしたら、呪うからね」


いやぁあっ正真正銘、篠崎さんのお母さんだわっ。


おぞましいっわっ。


私は、もう、篠崎さんのお母さんを刑事さんに言って、篠崎さんの所に連れて行ってもらえるように頼んだ。


「この人、どうにかして下さい。娘さんほっぽり出して何かたくらんでますっ」


「⋯⋯分かった。任せて」


刑事さんは、応援を呼んで、篠崎さんのお母さんが娘の傍を離れないよう見張ってくれると約束してくれた。


「こんな事位は、手伝えたかな?」


「ありがとうございます。私、帰って良いですか?」


「あぁ、良いよ。君の両親がもうすぐ着く。未成年後見人の人もずっと待ってるけど、先に会うかい?」


私は迷って、菅原先生を見た。


「可愛そうだから、ヒッキーには会わないで行ってげて。 君は両親と行って。 ヒッキーには、僕が話すから。 今日は、君は両親と過ごして。日を改めよう。 君は、今回の事で、何かを掴めたんだろう?」


「はい。みんなに伝えないといけないことがあります」


「じゃぁ、待ってるよ。懸さん。君とまた会えて嬉しいよ。敵の所に行くなんて、二度と戻って来れないかも知れない。みんな、そう思ってたんだから。 今回は、水に流したりしないからね」


「はい。菅原先生、ごめんなさいっ」


菅原先生は、泣き出す私の頭を撫でて慰めてくれた。


私は、刑事さんに促されて、両親の到着を待って、身元引受を終えた。


両親がいた。


10月から5ヶ月振りの再会だった。


私を見て、お互い涙ぐんだが、もう、別な意味の涙なんだよ。


私は、心細いとか、そう言うんじゃなくて、純粋に五ヶ月ぶりに両親に会えて、感動して泣いているんだ。


「お父さん、お母さん、ごめん。遠いのに」


「お前、バカっ、氷室さんが行方不明届け出したって、刑事さんから聞いて来たんだぞっ。距離なんて関係ないっ、俺達はお前の親だっ。好きで、お前と離れた訳じゃないっ」



お父さんとお母さんに引き千切るつもりかと言わんばかりに右に左に引っ張られて、大岡越前かよってなりながら、私は警察署を後にした。


警察署を出て直ぐ、二人はタクシーを呼んで乗り込むと、運転手さんに大鏡神社を目的地に指示した。





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