「もう分かったんでっ。 要さんも遥さんも⋯⋯好きにして下さい。ちゃちゃさん、3人で行って良いですか?」
「あまり、増やすな。緊張感を持て……と、一番目下、緊張感しかないお前に言うのは詮無いのう。 りりあ、おぬし、決断を間違うでないぞ」
誰も、この問題に正解なんて出せないはずだ。
今更、やっぱ、やめとけば良かったなんて、思ってはいけない。
そんなの分かっているのに……。
もう馬鹿みたいに怖くて、愚かな自分が恥ずかしかった。
「りりあ。 今度は、僕にちゃんと行かせて。 僕の母さんなんだから、行くなら―――」
柚木崎さんが私の肩を掴んで行かせまいとしてきた。
自分のお母さんを自分の手で救い出したい。
その気持ちは分かるけど。
正しい選択が分からない。
そう戸惑って狼狽えていた。
そんなときだった。
「馬鹿言うな! 懸 凛々遊【あがた りりあ】! 君はっ⋯⋯何て事してくれたんだっ」
しゃがれた怒声が、場の空気を切り裂いた。
いつの間にか、腰の曲がった長身の男が、東屋の入口に立っていた。
白のフードを目深に被り、ジーパンに黒のスニーカー。
パーカーから覗く白髪が、月光を受けてぼんやりと光ってみえた。
え? この人――誰?
私は目を瞬かせた。
しゃがれたその声にも、立ち姿にも、全く心当たりがない。
「どちら様ですか?」
「五月蝿いっ。聞けっ。なぜ、篠崎 茉莉愛【しのざき まりあ】を巻き込んだ? みなみの母親の彼女をどうやって、引きずり出してきた!! 懸 凛々遊【あがた りりあ】」
男は低く呻くように言いながら、顔を上げた。
深く刻まれた皺、乾いた唇。
男は私を食い入るような目で私を見ていた。
その顔からは、悲しみと怨嗟の念が入り交じって向けられているようだった。
「……えっと、篠崎さんのお・と・う・さん?」
もしそうであれば驚愕するしかない。
尋ねる声が緊張のあまり上ずっていた。
背筋を冷たいものが走っていく。
これ以上、問題ごとを。
誰かが悲しむしかない事実が増えないで欲しい。
だから、お願い。
外れろ、私の漠然とした嫌な予感。
柚木崎さんは、よろめきながら、私に掴みかかる男を払いのけた。
「りりあに触るなっ。 りりあは関係ない!」
「うるさいっ。でしゃばるなっ。 懸 凛々遊【あがた りりあ】。 美波から、母親を奪うな!!」
「え?」
なんだよ。その言い草は。
え、まるで私が篠崎さんから母親を奪われうよう手を下したみたいな。
そんな事してない。
してないよ……。
それに、私にそもそも何が出来るんだ。
いや、わたしは、でも。
私が結局は選んだ。
白夜の持ちかけからだったとしても。
篠崎さんのお母さんの願いから、でも。
その実現の足がかりを作って、それを現実のものにしたのは、私だ。
その事で、私はいま⋯⋯たくさんの人のイノチを危険に晒している。
「頼む、最初で、最後の願いだ。 応じてくれ。 対価にイノチをやる。 俺のイノチだ。 残り少ない、ちっぽけなイノチだ。 俺を東屋の中に入れてくれ」
イノチをくれるって、篠崎さんのお父さんのイノチなんて要らない。
要らないよね?
どうして?
「……私がいつ、あなたのイノチが欲しいと言いました? なぜ」
「呪詛の不成立の罰は、そのネズミが言う通り、術者とその術者が持つイノチの自爆だ――」
だからって、今なぜイノチがなぜ必要になる?
何をしたいんだ。
「術者は茉莉愛【まりあ】の分魂でイノチはトモの筈だ。 なのに、 茉莉愛【まりあ】がなぜ本体で入ったか、あいつが何をしようとしているか、君なら分かるだろう?」
分魂にイノチはない。
自爆に、イノチが絡むのなら、トモさんのイノチの代わりが必要だから?
まさか、そのイノチの代替えに、イノチのある肉体で、篠崎さんのお母さんは――。
「だから、オレのイノチをやる。 中に入れろ。オレがあいつの分魂と罰を受ける。 みなみに母親を残してやってくれ。 頼む、勘弁してくれ。 あのイノチの持ち主に、子がいたのは知っている。 だから、俺の娘も、母親のイノチを失くした子にしないでくれ。 永遠に返って来ないイノチにしないでくれ。 オレが言えた義理じゃないのは分かっている。 頼む……頼むから」
あぁ、もう、本当、みんながみんなで、何してんだよ。
篠崎さんのお母さんも、お父さんの更夜さんも。
この人は名乗らなかったがこの状況下でこの人が誰か?って、篠崎さんのお父さんの更夜さん以外、考えられない。
また、ややこしいことが増えた。
もうただでさえ、どっちにどう転んでも、ヤバすぎるっていうのに。
篠崎さんから母親を奪いたくない。
更夜さんはそう言ったが。
本心は、それだけじゃないはずだ。
篠崎さんの母親も、愛している。
この人がそもそもの元凶たるすべてをくわだて、実行に移した張本人にも関わらず。
今更、なに私に無茶振りぶっ込むんだよ。
「元はと言えば、誰の行いでこうなったか自覚ないんですか? 私にそれを願うのは、違うっ」
「だとしても、君は六封じの【最愛】だ!! 自分の義務を果たせっ!! みなみもまりあも、六封じの者だ!! よそ者ではない!! 君にはその義務がある!! 君が護れないものは、この地にはない!! だから、逃げるな!! この地を滅ぼさんとする脅威と悪意が渦巻く、あの東屋の舞台に上がれ!!」
あそこで、私に何ができるというんだ。
白夜は私は行ってはいけないと言っていた。
でも、それが義務なら、わたしは行くべきだろう。
もしも、最悪の結末に手を下さないといけないのかも知れなくても……。
今更、それを他人任せにするのは嫌だ。
自分でやると決めて、我を突き通して、今、みんなここにいる。
ここで、脅威と立ち向かっているんだ。
だったら、白夜の助言なんて、聞けない。
私は、行く。
行きたい。
「……柚木崎さん。と言うことで、今、私、心に決めました。私が行きます」
「反対だ。君が背負う必要無い」
「いえ、お願いします。 わたしは、自分の意思で、東屋に入ります。 私が相手のくわだてにのって、私がみんなをここに連れて来たんですよ。 私が行かなくてどうするんですか? 私は柚木崎さんのお母さんに責任を持ちます。 六封じのすべての命に対しても、です。 私のわがままを聞いてください。 ここで、柚木崎さんは私のお母さんを守ってください。 篠崎さんのお父さん、わたしはアナタの願いを聞きます。行きましょう」
私は、篠崎さんのお父さんに手をさしのべた。
すると、篠崎さんのお父さんは、若返った。
「え?」
目を白黒させる私を尻目に、肌艶が戻った篠崎さんのお父さんは自分の頬を撫でて言った。
「あぁ、そうか。【最愛】ってすごいな」
ええ!!
どういう事か尋ねたら、祝福の願いで六封じの力が譲渡され、六封じの中なら享受される力で肉体が若返ったそうだ。
マジかよ。
105歳だろ?
結局、東屋に入る人員は4人となった。
「えっと、篠崎 更夜【しのざき こうや】さん。篠崎 美波さんのお父さんですよね」
「えぇ、お久しぶりです。先生、卒業まで、娘を宜しくお願いします」
「分かりました。気を付けて」
篠崎さんのお父さんはそう菅原先生と短い会話の後、ちゃちゃさんが掘り起こした時空の裂け目の様な歪んだ場所に向かっていった。
「結構、力を使う。誰か手伝え」
りょうが言った。
「オレが力を貸そうか?」
ちゃちゃさんは、怪訝な顔で首を横に振った。
「龍の力は遠慮する、使いこなせん量は無理じゃ」
「僕と宇賀神が引き受ける」
柚木崎さんの申し出に、宇賀神先輩は顔をしかめた。
「柚木崎、お前はりりあの母を守れ。 鏡子、お前も手伝え」
鏡子ちゃんは、苦笑いした。
「え~。 良いけど、私はそんなに、強くないからさ……ねえ、セイレンちゃん」
「えぇ。鏡子ちゃんじゃ、そんなに力にならないよ。宇賀神先輩、私で良いですか?」
鏡子ちゃんがいつの間にか、セイレンちゃんを助っ人に呼んでいて、宇賀神先輩は、その不意打ちに、呆然としていた。
でも、どうやら、わざわざ、柚木崎さんと私で、二人の仲を取りなす必要はないようだ。
宇賀神先輩の幸せそうな泣き笑いに、胸が熱くなった。
「セイレン、会いたかった」
「二日ぶりですよね? そんな百年振りに会うようなテンションで言うの……やめてください」
私は二人のやり取りを尻目に、東屋の中へと足を踏み入れた。
※
「え、何これ」
東屋の中では、手に光輝く何かを抱いた柚木崎さんのお父さんと菅原慶太さんとお父さんがその場に座り込んでいて、氷室さんがうつ伏せに倒れていた。
そして東屋の最奥で、柱の欄干に腰を下ろして座り込む、篠崎さんのお母さんが虚ろな目をしていた。
「どうやって、入ってきたの? って、なんで要も遥も来るんだよ」
慶太さんが言った。
「え、その男の人、誰?」
柚木崎さんのお父さんが言った。
「ばっ、お前、何で来たんだ」
「お父さんごめん。話は後、これ、どう言う状況ですか?」
私の質問に、柚木崎さんのお父さんが言った。
「りゅうと氷室が喧嘩して、氷室は倒れている。りゅうが呪詛を完成させてやれば良いと、言ったんだ。そうしたら、外の人間が死に絶えるって反対して、そとのりょうが、外に居るみんなとりりあは守れるから、気にするなって言い出して、そんな訳には行かないって、断って。 氷室が自分からりゅうを拒絶したんだ。 君たちが入ってくるすぐ前だった」
あぁ、りょうが伝言頼まなくても、つうとかーで考えちゃったか。
「え、氷室さん、生きてますか?」
「あぁ、俺達で立って居られなくなるくらい、力を分けて、何とか持ちこたえているけど、悪いけど、りりあちゃん、頼んで良いか?」
私は、氷室さんの所に言って、首を触った。
触れやすいように、氷室さんの頭をもたげて膝に抱いて、利き腕の手の平で、首筋に触れた。
力をなるべく流し込み続けよう。
まさか、お父さんの前で、氷室さんに力の口移しは出来ない。
それは、最終手段にしたい。
「……うっ。やめろ、りゅう。……ころすな」
氷室さんは意識を取り戻したが、目を開けても、私に何の反応を示して来ないところを見ると、視力はないようだから、好都合だと思った。
口移しじゃないから、視力までは無理なようだ。
最終手段にしても、ハードル高過ぎだ。
ここにいる全員の前で、なんて……。
「篠崎 茉莉愛【しのざき まりあ】。お前、分魂はどうした?」
「更夜……」
虚ろだった篠崎さんのお母さんが、名を呼ばれて、我に返ったように、表情に感情を取り戻して、怪訝な顔をした。
「お前、分魂はどうした?」
「そんなものは、もう一欠片もない。 私は、私ひとつで、ワタシだ。 勝手に私と娘を作っておいて、私に押し付けるなんて、本当、お前は勝手な奴だな」
「馬鹿なっ。なぜっ、分魂を本体に戻した!!」
更夜さんの問いかけに、篠崎さんのお母さんは半笑いで言った。
まるで、呆れているような口ぶりだった。
「ん? 私が、私に返るのに、なぜ、お前に文句を言われる筋合いがある? 私は、私の使い方は、自分で決める。魂も、イノチもだ。 私は、お前の道具じゃない。いい加減見くびるなよ」
ふんと顔を背けて、篠崎さんのお母さんは、今度は柚木崎さんのお父さんに視線を移した。
「終わった……呪詛の無効化。 自縛までは、解けなかったや。 あぁ、明さん。トモに謝れなかったけど、ごめんって言ってたって伝えてよ。 みんな、ありがとう」
篠崎さんは、かつての生徒会メンバーの顔を一瞥して、また更夜さんに目線を定めた。
「更夜、お前が美波の父親の義務を果たせ。逃げるな。 私は逃げなかったんだからさ。 でも、 私、最悪だよ。 アナタを愛してた――」
更夜が篠崎さんのお母さんに駆け寄ったが、篠崎さんのお母さんは欄干から水面に向かって後ろに倒れて行く。
私は、制服の内ポケットに手を入れた。
遅いかも知れない。
何で今更、思い出したんだ。
何で今更思い付いたんだ。
私はそれを握りしめて、取り出して私は夢中で唱えた。
「かんながら、たまち、はえませ」
神様と、共に、幸せであれ。
瞬間、碧色がかった羽のバナナみたいな口ばしをした、絶妙に死んだ魚の様な目をした鳥が羽ばたいた。
辺りを照らし、倒れ込む篠崎さんのお母さんをその鳥は包み込むように抱き締めた。
そして、鳥は辺りの空気に溶けるように光輝きながら消えて、篠崎さんのお母さんは、遅れて抱き締めた更夜さんの胸の中で、篠崎さんは背中に松ぼっくりに見立てたハリセンボンをしょった針ネズミのハリ坊のマスコットに姿を一瞬変えた後、燃え上がった。
そして、紙を燃やした燃えかすのような消し炭になって消えた。
氷室さんのバレンタインのお返し。
恐らく、テンさん特製の私の大好きな人ふたりの守り神だ。
奇跡も起きるさ…。
きっと。
絶叫する篠崎さんのお父さんの後ろで――。
篠崎さんのお母さんは、自分の両の手のひらを見つめていた。
消滅すること無く存在している自分の肉体と。
自分の生存に驚愕しているようだった。
篠崎さんのお母さんの背後に膝を付く更夜さんはまだ気付いていないが。
「まりあ――」
他は全員、篠崎さんのお母さんの生還に言葉を失い、彼にそれを伝えられずにいた。
※
「ごめん、立てない」
柚木崎さんのお父さんと菅原 慶太さんとお父さんは、力を使い果たして立てないそうだ。
私も、氷室さんの首に触れ続けているが、目を閉じてしまって、起きられないのに。薄情にも、離れられないと思った。
要さんと遥さんが力を僅かに渡して、立って歩ける程度には回復した。
要さんが声をかけに行き、東屋の外で見守るみんなを連れてきてくれた。
「随分、早かった。と言うか、どうしたんじゃ?」
「いや、割りと、早めに片付いて、びっくりで……。柚木崎さんのお父さん」
「何だい、りりあちゃん?」
「その光る玉って、友って書いてある。それ、トモさんのイノチですか?」
「そうだよ。篠崎が取り返してくれた」
「違うわよ。 更夜、いつまで呆けてんのよ。 お前は、謝れよ。 私が謝る原因作った元凶だろ?」
いや、もう、やめてやれよ。
その人、充分、苦しんでるよ。
柚木崎さんの親子三人は兎も角、もう、それ以外の人には許して貰えて良いんじゃないか? と私は思った。
「謝る事は出来ない。 殺したイノチは戻って来ない。俺はこの地で、人を一人、殺めた。 俺は、今まで子を成す度に、妻を殺して来たが、手ずから殺した事はなかった」
「え、何か生きてる私が、バケモノみたいじゃん」
「こればかりは、運命だ。 お前に宿ったイノチが娘だったから、だ。バケモノじゃない。……愛している。ずっと愛していた」
「え、今言う? こんな人前で、出会って、いままで、からかうように一度しか言ったこと無いよね? 恥ずかしいじゃない!」
「いつ本音で言えた? オレは……、これでも。――もう、呪いがなくなった今でもないと言えるものか」
※
「トモを連れて来た。イノチを戻してやれ」
りょうが、トモを連れてきた。
柚木崎さんのお父さんがトモの胸にイノチを置くと、イノチの玉はトモの胸に沈んで、トモは目を開けた。
「……あきらさん」
「ともえ、お帰り。 会いたかった」
「……私も」
柚木崎さんは、二人の後ろでそれを見守って泣いていた。
「りょういち……なの?」
「母さん……。そうだよ、僕だよ」
お母さんにやっと名前を呼んで貰えて、柚木崎さんはやっとお母さんの所に行って、親子三人で抱き締め合った。
「りょう、トモ、病院に連れていった方が良い?」
「無用だ。身体は弱ってない。ちょっと感覚を取り戻すのに時間かかるから、歩けるようになるのは、少しかかるだろうけど、3食食べて、睡眠を取って、少しずつ慣れて行けば良い」
「だったら、家に帰してあげて」
「そうだね。 龍一の事は頼むよ。 りゅうに戻るよう説得出来る?」
「うん。柚木崎さん達が行ったら、呼び寄せる。 ありがとう、りゅう」
「なぜ、お前が俺に礼を言う? お前の何の力にもなってない。 俺は、お前の意に沿わなかったんだろう?」
「でも、私の気持ちに寄り添って、私がりょうの意見を聞き入れないと分かっていても、嗜めなかった。 その気持ちが嬉しかった。感謝しているよ」
りょうは、困ったような顔をしながら、笑って柚木崎さんと一緒にその場を転移した。
私はりゅうに氷室さんに戻るように、説得しなければならないのだが、その前に、やり残した事を片付けにかかった。
「あのさ、篠崎さんのお父さん」
「何だ。懸 凛々遊【あがた りりあ】」
「あなた、人質殺してないよ。 あの時、死んだ人質は、篠崎さんのお母さんと一緒で、今生きている。 だから、悔やまないで、篠崎さんが待ってる。 お父さんとお母さんが帰って来て欲しいに決まっている。 だから、二人で帰って下さい」
私の言葉に、篠崎さんのお父さんは、呆然として、首を振った。
「俺は、帰れない。 さすがに寝返れば、母さんが殺しに来るだろう」
「それで済むと思います? だって、術を失敗に終わらせたんですよ。それで、生き延びた篠崎さんのお母さんの事は知らんぷり出来ます?」
私の言葉に、篠崎さんのお父さんだけでなく、まだその場に残る一同がどよめいたい。
「……そっちも殺しに来るか。いや、知らんぷりなどするわけがないだろう。イノチに変えても、護る」
「出来れば、平和的解決を。 もし、二人が来たら、言ってやれば良い。 罰は受けた。 逆恨みはみっともないって。 でも、それは、あなたが言ってやるべきですよね? あなた、私にイノチくれたんだから――」
私の言葉に、篠崎さんのお父さんは泣き笑いで言った。
「とんだ言霊をくれたもんだ。そうだ、イノチをきみにやった。君がイノチをもらうと言って。このイノチが君のになったから、俺は身体が戻ったのか? なんて事してくれたんだ。 長生きしそうだよ」
取り敢えず、話はついたので、篠崎夫婦にお帰り願い、残る問題は氷室さんだけになったが。
「取り敢えず、もう遅いので、本当にお世話になりました」
「りりあちゃん、後本当に任せて良い?」
「大丈夫です。菅原先生も慶太さんも、何より、私、今両親がいますし、珍しく」
「りりあちゃん、本当にありがとう。大の大人が、全く緊張感のない事言って悪いけど、同窓会みたいで楽しかったよ」
いや、貴方達夫婦は、本当。
今後、緊張感の忘れ物は、金輪際、無しにして欲しいよ。
「すみません。あとひとつ、頼み事して良いですか?」
「何、りりあちゃん」
「七封じの方と一緒に、宇賀神先輩とセイレンちゃんもお願いします。ねぇ、鏡子ちゃん」
「うん、お母さん、私、マック食べたい。 宇賀神先輩とセイレンちゃんのデート見ながら、夜更けのフィレオフィッシュバーガーセット食べたいよ」
「え、それ僕も食べたい、セイレン僕も行くよ」
ねずみのちゅうが、喜んで、もう一人の双子をドラゴンゲートで呼び出した。
ちゃちゃさんも、マックと聞いて浮き浮きしていて、かとりのおじさんを呼び出して、突然呼び出され顔をしかめつつ、マックシェイクを飲んで帰ると乗り気だったのに、笑うしかなかった。
※
菅原先生と慶太さんと私の両親と氷室さんだけになって、私は菅原先生に言った。
「良いんですか? 呼び出しますよ?」
「良いよ。最後に傍に居てあげる人が必要だろ? 君は今日、両親と帰るんだろう? 僕たちが、傍にいてあげる」
え?
あ、そうだね。
一人は寂しいよね。
ありがたい。
「りゅう、来て」
私の呼び掛けに、りゅうはすぐに姿を表した。
ただし、大鏡の水面を水鏡にした反対側からこちらを覗き込んで大きな龍の姿で顔だけが見えた。
「何だ。りりあ」
「氷室さんに戻ってあげて」
私の言葉に、りゅうは水面から姿を消して、私の前に上半身は人、下半身は龍の姿で現れた。
「なぜ、俺にそれを願う」
「氷室さんが、死んじゃう。戻ってあげて」
「それは出来ん」
「なんで? 怒っているの?」
「怒ってはない。お前、何か勘違いしていないか?」
「え、勘違い。どんな? りょうにも、りゅうに氷室さんに戻るように説得するように言われたよ」
「なら、それは、りょうも勘違いしている。 もう、東屋の封印が解けてからずっと、俺は既に龍一と繋がっている。 前に狐憑きの時に、俺が龍一を拒絶した時、ピンピンしていただろう? 呪縛の中では途切れていたが、なぜお前はずっと目を閉じているんだ?」
言葉の末尾でりゅうは不思議そうに氷室さんを見下ろす。
そして、何か思い付いた様にりゅうは私の元に屈み込み、私と私が膝に抱く氷室さんにだけ聞こえるように、小声で言った。
「まさか、龍一。お前、りりあにかまって欲しくてそうしているのか?」
氷室さんの身体がビクッとわずかに震えた。
嘘だ。
もう変な事言うなよ。
「りゅう、それ本当?」
「図星のようだが……。チビりあの所に帰って良いか?」
「うん、チビりあに宜しくね。 ありがとう」
りゅうは、その場から姿を消した。
「あの……無事仲直り出来たみたいなので、菅原先生、慶太さん。氷室さんをお願いしても良いですか?」
「うん、何かにこにこしてたから、無事に仲直り出来たみたいでよかったよ」
「りりあちゃんありがとう。 本当に、お世話になったね」
「いえ、とんでもない」
私は、菅原先生と慶太さんに氷室さんをお願いして、私は両親と夜の大鏡公園を散歩しながら家路に着く途中にマックが食べたいとおねだりして、向かったマクドナルドで、みんなと合流して夢のように楽しい一夜を過ごした。